北京2008
見どころ
(1)日本チームの目標
「青島の海に日の丸を!」を合言葉に、1個以上のメダルと複数の入賞を目標にしている。6種目の選手は全員がオリンピック初出場であるが、スタッフにはオリンピックに選手や役員で参加経験があるベテランがそろっているので、チーム全体としては初出場を問題視していない。6種目とも軽風域が得意な選手がそろっているので、これまでの海外遠征やISAFラインキングでトップ10に入っていなくても、青島ならではの結果が期待できる。
(2)日本チームの特徴
エース種目としてメダルを狙うのは470女子の近藤・鎌田組である。2006年世界選手権2位の成績を筆頭に、2007年4位、プレオリンピック2位、国際セーリング連盟のランキングでも2位のチームである。外国勢からも本命視されているチームだけに隙あらば、猛攻撃を受ける可能性があるものの、オリンピック本番では敵に隙をみせずに自分のレースができることがポイントである。
470男子は混戦で、青島のコンディションに合わせて準備をしてきたチームが上位を占めるとみている。松永・上野組は軽風域が得意である。これは大学時代に練習した琵琶湖での練習(軽風)がベースになっている。青島のコンディションはあっているし、代表に決まってからの急成長で勢いがある。470男子は上位常連チームのつぶしあいや、とりこぼしも多い種目なので、松永組は入賞を目指し、チャンスがあればメダルを狙う位置にいくことも可能だろう。松永組は2006年テストイベントで青島のレースを経験している。
ウィンドサーフィンのRS:X級は男女ともにプレ大会でトップ10に残り、メダルレースに進出している種目である。男子の富澤は軽風でのパンピングを得意とし、体力的にも外国勢に負けないスタミナを持っている。女子の小菅は頭を使ってレースを組み立てるのが好きなので、青島の特徴あるレース海面をコースで勝負するタイプである。異なるアプローチの2選手だが、RS:X級は大会の際に道具を主催者が準備するため、すべての選手が与えられた道具で差のない条件のもとにレースをする。大会で使うボード(板の部分)は形状がこれまでのものと異なる部分があり、マストは堅さが異なるため、道具の準備と理解が大きな差になる可能性が高い。
49er級とレーザーは青島スペシャルで準備をしているが、少数ながら上位陣が抜け出して力のある49erと、全種目の中で最大数の40カ国のエントリーを誇る層の厚いレーザーなので、軽風のスピード、レース展開で現地の特徴を把握した走りを武器にメダルレースに残ることを目標としている。
(3)海外の有力選手
470女子: オランダ、ドイツ、イタリア、オーストラリア、イギリス
強風なら間違いなくオランダが勝つといいきれるが、青島のコンディションでは非常に苦労しているチームである。軽風では苦手意識が高いので、現地での走りこみを重視しているが結果がどうなるか。オールラウンドに強いのはイタリア、軽風で強いのがドイツとオーストラリアで、特にオーストラリアは昨年のプレオリンピックで近藤組を10cmの差で逆転した粘り強いチームである。イギリスは強風域で強いチームながら、潮の強い場所で育った選手なので要注意なチームである。オリンピック本番になるとイギリスチームの団結力は他国を圧倒しており、今回も2008年北京オリンピックを背景に強力なバックアップ体制を整えている。
470男子: オーストラリア、イギリス、イスラエル、ポルトガル、フランス
最強のオーストラリアは軽風が得意でないため、今回は軽風対策に徹している。ダイエットの成果もあり、アテネで最有力視されていながらメダルがとれなかった悔しさから、地道な努力で準備をしてきた。プレオリンピックでも優勝しているので、今回は本命だろう。イギリスはアテネでの銀メダリストで、プレオリンピックでも銀、今回は金を目標に青島への準備をしている。イスラエルは毎回3位のチームだが、軽風がうまいのだが、メンタルが弱い部分があり、それが3位に甘んじる原因のようだ。ポルトガルは世界選手権2位で、軽風でスピードのある艇とリグ、セールを整えてきている。シドニーから3回目のオリンピックになるベテランチームであるし、今回にかける情熱が凄い。フランスは激戦の予選を勝ち抜いたチームで、特に軽風が強い。北京オリンピックのダークホースとみている。
49er: スペイン、オーストラリア、イギリス、ウクライナ、イタリア
ベテランのスペイン、ウクライナ対新鋭のイギリス、オーストラリアという戦いの構図になっている。スペインはアテネの金、ウクライナが銀をとっている。オーストラリアとイギリスは初出場になり、強風になるとベテラン勢は苦戦している。青島のコンディションでの49erの扱いは難しく、軽風のうねりの中でスピードを出すことができるチームが抜け出すだろう。安定した成績を誇るイタリアもメダル争いにでてくるだろう。
レーザー: イギリス、スロベニア、スウェーデン
とにかく、数の多い種目で、40艇が参加する。青島の海を得意とするイギリスが自信をもった走りでリードするが、軽風に磨きをかけているのがスロベニアで、アテネではスロベニアが銀、イギリスは4位に終わっているので、リベンジがイギリスのモチベーションを高めている。レーザーも供給艇であるため、艇差はなく、乗手の頭脳と体力の勝負となる。ボートスピードは艇の扱いから生まれるものであり、人の能力の差が成績に表れる。スウェーデンは上位に出てくる可能性のある選手だが、オリンピック本番に弱いスウェーデンというジンクスをくつがえすことができるかどうか。これ以外に20位くらいまでの選手は軽風だと差がないので、青島では上位に入る可能性をみんながもっている。
RS:X男子: ニュージーランド、フランス、中国、イギリス
ウィンドサーフィンは風速が弱い5 kt以下だとパンピングでセールをあおる技術が高い選手が有利となり、6 kt以上になるとスピードを重視してプレーニングにもっていかれる技術が優先してくる。青島では10レースのうち、6割が軽風、4割が6 kt以上と考えると、それ用に準備をしている国が強い。地元中国は特にこの種目での金メダルを目標にしているし、イギリス、フランス、ニュージーランドは現地のコンディションを重視した準備をしている。風速によって、まったく異なる顔ぶれが前へ出るようになるため、男子は激戦になるだろう。
RS:X女子: フランス、中国、イタリア、スペイン、ポーランド、ニュージーランド
男子とは異なり、女子は力の差がでてくる。ニュージーランドはバルセロナから連続出場している大ベテランで、オリンピックへのアプローチが他選手とは異なる。照準を合わせて、準備万端でくるので本番には非常に強い。軽風では中国のパンピング技術と体力が抜きでているが、アテネで金のフランスとポーランドも体力勝負なら負けない体つくりをしている。スピード競争になるとスペインが抜け出るが、イタリアのベテランもレースがうまい。女子は供給された道具をうまく使いこなせる選手が有利になるため、その点はニュージーランドが強いかもしれない。
オリンピックで
北京オリンピックセーリングチームは代表に決まってから過去には考えられないほど、メディアにとりあげてもらっており、セーリング競技としてのアピールに貢献している。エースの近藤・鎌田組は「コンカマ」の愛称で親しまれているが、2006年から各大会で上位に入りながらも、ずっと2位止りだったのが、今年4月にフランスでのグレード1大会で、オリンピック代表が全チームそろう中、優勝することができ、「表彰台にあがるだけと、君が代を聞くことの違い」を体験することができた。勝つことを実感したのは大きなモチベーションになっている。470女子はバルセロナオリンピックで重・木下組が5位に入り、アトランタでは同チームが銀メダルをとった。本当ならバルセロナでも重組はメダルをとれる位置にいながら逃してしまったので、初出場の近藤・鎌田が青島では同じ失敗をしないようにしたい。バルセロナの時はセーリング史上初めて日本チームがメダルを狙える成績だったこともあり途中からペースを乱してしまったが、後半で崩れてしまった原因は次のアトランタで克服して見事にメダルを獲得した姿を見ている。重組の経験をいかして、アトランタモードで近藤・鎌田が試合できるようにしたい。
470男子はアテネオリンピックで関・轟組が銅メダルをとり、世界中から、「なんで?」と不思議がられてしまったのだが、オリンピック本番には必ずラッキーボーイとなるチームがあり、僅差で上位がつぶしあう種目には淡々とマイペースでポイントを重ねていく選手が、終わってみたら表彰台にいたということがあるものだ。関組は最後までマイワールドをもって戦い、メダル確実視されて最終レースに入ったスウェーデンを逆転している。松永・上野組も世界選手権では同様な流れでオリンピック代表の座を獲得しているため、本命でないがゆえに本番でも松永ワールドでレースをできるのではないだろうか。
ラッキーボーイという点ではRS:X男子の富澤もおもしろい存在である。素直な性格と強引なまでのマイワールドを持っている選手で、現在は同じ所属先でオリンピックメダリストの関がコーチについて本番準備をしている。これまで若さと体力勝負だけになっていたのが、春のヨーロッパ遠征に集中して取り組んだレースの組み立てがしっかりしてきたので、歯車がかみあったときには本番での爆発力に期待ができる。
選手9名はオリンピック初出場なのだが、スタッフ陣はオリンピック経験が豊富なので、入念な準備で選手をまとめている。体力面での強化、青島現地の情報戦略など諸外国に負けることなくレースへ望める体制を整えてきた。初めてオリンピックを体験した時に凄く緊張してしまう選手と、「オリンピックは普段のレースと結局同じじゃないか」と、思う選手があるものだが、2006年のプレ大会から始まり、3回目の青島でのレースが普段どおりでできるように日本チームとしての団結力を活かしていきたい。