文・折山淑美
19歳の松平健太選手と16歳の丹羽孝希選手。味の素ナショナルトレーニングセンターで7月14〜16日に行われた第16回アジア競技会(11月、中国・広州、以下アジア大会)卓球男子日本代表選考会の決勝は、20名の選手のなかから、フレッシュな若手対決となった。
このふたりは、ジャパンオープン(7月1〜4日)ではダブルスを組み、準決勝で09年世界選手権3位の水谷隼/岸川聖也選手組を下すなどの番狂わせを演じて優勝をしたペアだ。
優勝した松平選手
16歳ながら決勝へ進んだ丹羽選手
ともに前日までのリーグ戦は2位通過。準決勝で、松平選手は塩野真人選手のカットに苦しんで1対3とセットを先行されながらも、最後は競り勝った。丹羽選手は予選リーグ無敗と好調だった松平健太選手の兄・賢二選手を4対1と危な気なく下して決勝へ進んできた。
カットで松平選手を苦しめた塩野選手
リーグ戦をトップで通過した松平賢二選手
ともにプレースタイルは前陣速攻型。男子ナショナルチームの宮崎義仁監督が「世界でも特に打点の速いふたりだから、非常にスリリングな試合になった」というような大接戦。ともにセットを取り合い、最終第7セットもジュースから点を取り合い、15対13で松平選手の勝利が確定する熱戦となったのだ。
アジア大会男子の試合による代表内定基準には3種類ある。まずは今年1月の全日本選手権シングルス優勝者。そして2番目に、今年1月1日〜7月31日までの国際大会で、日本人以外の世界ランキング30位以内の選手3名以上に勝利した者を、強化本部が最大2名まで選出する。そしてこの選考会での優勝者だ。
すでに、今回出場しなかった水谷隼選手(明大)が全日本選手権で優勝しているため、松平選手は男子2人目の内定者となり、出場枠2のシングルス出場も有力となったのだ。
「接戦をものにして優勝できたのは自信になりました。以前は体力がないと周りからも言われていたし、自分でもそう思っていたけど、今回フルセットになった準決勝、決勝の2試合を勝てたのは、体力がついたからだと自信を持てます」
激しい戦いとなった松平選手(左)と丹羽選手(右)の決勝戦
松平選手は06年の世界ジュニアシングルスで優勝して期待を集めた。しかし07年には世界選手権へ出場しながらも、12月には手首の手術を受けて長期離脱。それでも08年夏に復帰すると、09年の世界選手権では北京オリンピック金メダリストの馬琳選手(中国)とフルセットまで持ちこみ、敗れたもののベスト16進出の快挙を果たしたのだ。
だがその後は不振に陥り、今年1月の全日本選手権も、シングルスは初戦敗退という屈辱を味わった。その原因は、得意技だったオリジナルの“しゃがみ込みサーブ”が通用しなくなったことだ。フォームが傍目でも分かるくらいに変わってしまい、自分が思ったように球を出せなくなっていた。そのため、5月の世界選手権後は、普通のフォアサーブでのスタイルを模索し始めた。
そして、「いくら練習で普通のフォアサーブを使っていても、試合で出さないと自信につながらないと考えて、思い切って普通のサーブを出した」という前に攻める気持が、ジャパンオープンでのダブルス優勝や、この選考会の優勝につながったのだ。
宮崎監督も「しゃがみ込みサーブを1本も使わないで勝てたのは自信になる。ニュー健太が誕生したといえる。これを合宿で今の技術を詰めていけば、国際舞台でも活躍できるのではないかと感じた」と高く評価する。そして松平選手も、「下半身の強化が出来ていたから安定していたと思うし、動く練習もしてきたから今日は両ハンドを出し安かった」と強化の手応えを口にする。
新しいサーブスタイルで自信をつけたと語る松平選手
宮崎監督はアジア大会の目標を、団体戦での中国への挑戦と、個人戦での水谷選手の優勝だという。そして松平選手には、次の世界選手権のシングルスでランキング上位選手を2〜3名倒してのベスト4へ進出をノルマにする。
松平選手の世界ランキングは52位(7月1日現在)。ロンドンオリンピック出場のためには、それを20位以内まで上げる必要もあり、急激なランキング上昇は上位選手に何度も勝たなければ果たせないからだ。アジア大会をそのきっかけにしてほしいという期待もある。
一方、準優勝に終わった丹羽選手も、松平健太選手とのペアでアジア大会代表になる可能性が高くなった。彼は青森山田中3年だった09年の全日本選手権シングルスでベスト16に進出して注目され、同年の世界選手権代表にもなった選手だ。宮崎監督も「丹羽もジャパンオープンで健太と組んでダブルスで優勝したように、才能では健太に匹敵するものを持っている。ロンドンオリンピックに向けて健太とのダブルスで使えるようになれば、チームとしても強くなるはず」と期待する。しかし丹羽選手もまた、156位(7月1日現在)で留まっている世界ランキングを松平選手以上に、どこまで急激に上げていけるかが大きな課題となる。
松平選手と丹羽選手、ふたりの成長は日本男子卓球のオリンピックでのメダル獲得のための、これからのキーポイントになりそうだ。