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TEAM JAPAN DIARY

味の素ナショナルトレセン

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2011/02/24

平成22年度JOC地域タレント研修会を開催、8地域の選手と指導者が集結

JOCは1月14日〜16日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「平成22年度JOC地域タレント研修会」を開催しました。JOCが支援している11地域の「地域タレント発掘・育成事業」のうち、8地域の選手55人と指導者10人が参加。選手たちは、他地域県の選手たちと交流し刺激を受けあうとともに、スキル開発・向上につながるプログラムを受けました。指導者たちは、それぞれの取り組みの情報や知識を交換しあい、世界で活躍できるトップアスリートを育成する意識醸成につなげました。またトップアスリートや中央競技団体の関係者も参加し交流を深めるなど、充実したプログラムが展開されました。

 Img_3710_2 8地域から55人の選手が集まった

「地域タレント発掘・育成事業」は、全国の各都道府県や市区町村が才能のある若い選手を発掘・育成することを目的に行っている事業。山口県のようにセーリングとレスリングに種目を特化しているスタイル(種目特化型)や、岩手県のように身体能力の高い選手を見出し適性種目を探すスタイル(適性種目選択型)、北海道美深町のように他種目からエアリアルに転向させるスタイル(冬季種目転向型)など、発掘スタイルは様々で、対象となる年代も地域によって異なります。(※下記図参照)

1月15日は早朝7時に開会式を行い、その後ハンドボールのJOC専任コーチングディレクター田中茂氏とネメシュ・ローランド氏が指導し、全員でハンドボールの朝練習を実施。朝食後は、JOC情報・医・科学専門委員会の久木留毅委員による「スポーツ教育プログラム」の講義。久木留氏は、トップアスリートに求められる資質として「考える力が大切。勝ち負けには原因があり、『なぜ』を振り返ることが重要」と話し、選手たちを激励しました。

Img_3482 久木留委員による講義が行われた

続いて、選手たちは国立スポーツ科学センター(JISS)のスポーツ医科学体験・ボクシング・テニス・アーチェリー体験などをグループごとに回りました。スポーツ医科学体験では、エルゴメーターに乗りながら脈拍の増減を測るなど、JISSが行っている研究事業の一部に触れて感心した様子。ボクシング・テニス・アーチェリー体験では、普段とは違う競技を体験することで、身体の使い方の違いなどを実感していました。

Img_3521 アーチェリーを体験した選手たち

午後は、チャレンジプログラムが行われました。JOCが進めている「NTCコントロールテスト」5種目に加え、ジュニアの能力適性を見る材料になりうる種目など、計14項目を実施。有望選手を見出そうと集まった中央競技団体の関係者らは、地域のタレントたちがライバルと競い合いながら自分の限界にチャレンジする様子をチェックしました。タイムや距離などの記録だけでなく、「体幹がしっかりした動きをしている」「バネがある」「体重移動がうまい」など、アスリートとしての資質にも着目。多くの関係者が有望な選手を目にする機会となりました。

Img_3629

Img_3650 Img_3652 様々なコントロールテストが行われた

夜に行われた交流パーティーでは、2004年アテネオリンピック体操団体金メダリストの水鳥寿思選手や2008年北京オリンピックウエイトリフティング代表の齋藤里香選手など8名が参加。受講生は、トップアスリートに各地域の紹介や質問を投げかけ、充実した時間を送りました。

翌日は、レスリングのJOC専任コーチングディレクター江藤正基氏の指導による朝練習からスタート。続くトレーニングプログラムでは、陸上競技のJOC専任コーチングディレクター小林敬和氏により、基本動作をきちんと身につけるためのトレーニングが行われました。またランチセッションでは、1998年長野冬季パラリンピックで日本人初の冬季パラリンピック金メダルを獲得したアルペンスキーの大日方邦子氏から、あきらめずにチャレンジすることの大切さなどを伝えていただきました。最後に福井烈JOC選手強化本部担当理事のあいさつで閉会。選手たちは、次は日本代表として再会することを誓い合いました。

地域と中央が一体となり、地域で生まれた才能を見つけ、育て、世界に羽ばたかせる、地域タレント発掘・育成事業の可能性を改めて認識する機会となりました。

Map

JOCが支援する地域タレント発掘・育成事業一覧

2011/01/18

【ナショナルトレーニングセンターセミナー】ジュニア選手の強化戦略をテーマに開催

JOCは12月3日、本年度第2回目となるナショナルトレーニングセンター(NTC)セミナーを、味の素ナショナルトレーニングセンターで行いました。NTCセミナーは、強化現場に役立つ情報を各競技団体や育成現場の担当者に提供するもので、今回のテーマは「ジュニア選手の強化戦略」です。JOCが支援している全国11ヵ所の「地域タレント発掘・育成事業」の担当者と、中央競技団体のジュニア強化担当者、スタッフなどが参加し、それぞれの取り組みについて情報交換や総合討論を行いました。

 

JOCの福井烈・選手強化本部担当理事は「北京オリンピックで中国は51個の金メダルを獲得し、世界一のスポーツ大国になりました。これは全国の体育技術学校を軸に優秀な選手を集め、外国人指導者の数を増やすなど強化への意気込みを強めてきた結果です。日本も立ち止まってはいられません。数々の人材を発掘して各タレント層を充実させることが大切です。ジュニアでの活躍をシニアへと繋げていくためにも、このセミナーを有益な情報交換の場としていただきたいです」とあいさつしました。

Ntc1 福井理事があいさつ

第一部は、「各競技団体におけるジュニア強化の取り組み」をテーマに、強化の現場から報告がありました。最初は、日本バドミントン協会の金善淑ジュニアコーチが報告。まず、小学校の時点では日本の選手が強くても、中学高校になると韓国や中国の選手が上回っていく現状を紹介。その上で、「日本は、基礎を覚える前の小学校2年生くらいから大会に参加しています。中国では、小さい頃はフットワークや無駄の無い動き、体力などの基礎を徹底的に作り、小学校の間は大会には出ません。韓国も同じく小学校のうちは基礎を練習させます」と報告。「基礎がしっかりしていると、世界を目指す年齢になったときに、結果として成長する」と金コーチは話しました。また今年度からの取り組みとして、ジュニア強化指定選手の選考基準を変えたことを紹介。これまでは試合成績を重視していましたが、昨年度から選考合宿で体力測定を行い、低年齢ほどその結果を重視するというような選考方法に変更。現時点の技術よりも将来性を見極める選考方法を模索しているそうです。

Ntc 金コーチから報告があった(右)

 

続いて、日本体操協会の新体操委員会強化部の曽我部美佳部長が登壇。2003年から始めている一貫指導システムによる競技者育成プログラムについて説明しました。プレジュニア、ジュニア、ナショナルと、年代が上がるにつれて選手数を絞り込み、年3〜4回の合宿で専門的なトレーニングを行う体制を紹介。その選考基準としては、スタイルや柔軟性など先天的なものだけでなく、手具を使いこなす器用さなど多様な動きも求められることから、識別の条件が重要だと話し、「身長が153cmでも得意技が光り、代表に選ばれた選手もいます。長所を評価するように考えています」と報告しました。また指導者育成の面では、ジュニアの強化合宿に各選手のコーチにも参加してもらい、日本体操協会側の強化方針を伝えるミーティングを行っていることを紹介。合宿を効率的に利用していると話しました。この育成プログラムをスタートさせてから、新体操は国際大会で着実に順位を上げ、「中でも団体は、2010年の世界選手権で6位。ロンドンオリンピックでメダルを狙えるところまで来ています」と曽我部部長は報告しました。

第2部は、「地域タレント発掘・育成事業の取り組み」をテーマに、全国11カ所で行われているタレント発掘の現場のうち2カ所からの報告がありました。まず、今年度から第一期生の育成が始まったばかりの「東京都ジュニアアスリート発掘育成事業」について、東京都体育協会の梅村実可・競技力担当部長が説明。同事業は、すぐれた運動能力を持つ中学2年生を対象に、高校生になってから競技を始めてもトップを目指せる可能性がある7競技(ボート、ボクシング、レスリング、ウエイトリフティング、自転車、カヌー、アーチェリー)に特化して、転向の機会を提供するものです。7競技の体験プログラムを通して、適性を見極め、また本人の意思や、高校進学後も継続できる環境なども考慮し、最終的な競技を決定しています。

続いて、「山形県スポーツタレント発掘事業・YAMAGATAドリームキッズ」について、山形県教育庁スポーツ保健課の長崎克己・スポーツ育成主査が話しました。小学校3、4年を対象に選考し、中学3年まで育成プログラムを実施。種目は特化せずに、短期合宿を行ってトレーニングや様々な種目体験をさせ、その練習成果を確認するための巡回指導を行っています。育成プログラムでは、指導者の育成も図ることや、スポーツだけでなく語学力・人間性・社会適応能力なども育てることが特徴になっています。今後の課題について、「中学までだけでなく、高校にうまく繋げていくパスウェイの部分が必要なので、考えていきたいです」と話しました。

最後に、5〜6人のグループに分かれて、各競技団体や地域で抱える課題と解決策について総合討論と発表が行われました。

各競技団体や地域が行う様々な取り組みが報告され、今後のジュニア選手の強化に向けて縦横のつながりを強化するセミナーとなりました。

Ntc_2 グループごとに討論と発表が行われた

2010/11/10

2010JOC女性スポーツフォーラムを開催、スポーツ界における女性リーダーの更なる増加と前進について考える

女性とスポーツに関する課題をJOCと各競技団体が共有し、解決に向けたネットワークをつくろうと、「2010JOC女性スポーツフォーラム」を10月25日、味の素ナショナルトレーニングセンターで開催しました。各競技団体の関係者など約50人が参加。スポーツ界における女性の活躍について考える良い機会となりました。

Panerisutoimg_2790第2部で行われたパネルディスカッション

 

フォーラムの開会にあたり、JOC女性スポーツ専門委員会の平松純子委員長は「女性アスリートが引退したあとも活躍する受け皿を考えるのも私たちの役割です。また2010IOC助成スポーツ賞にアジアから有森裕子さんが選ばれました。素晴らしい目標の人がいることは嬉しいことです」とあいさつ。IOC助成スポーツ委員会委員も務める猪谷千春JOC理事は「女性の地位向上に積極的に取組もうと、1996年にIOCは女性スポーツ委員会を設置しました。JOCは、年に1回は理事会と合同会議を開き、委員会の活動を理解してもらうような取り組みをしていくことが必要だと思います」と述べました。

Img_2748_2Img_2750挨拶をする平松委員長(左)と猪谷JOC理事

 

■宮嶋泰子氏、第1部:基調講演「組織の中の女性」

続いて、スポーツ界にも深く関わりのあるテレビ朝日の宮嶋泰子さんによる基調講演「組織の中の女性」が行われました。宮嶋さんはまず「自分が人より優れていると思う点は何?」という質問を参加者に投げかけました。参加者は「選手の気持を分かってあげられる」「ポジティブなところ」など回答。すると宮嶋さんは「スポーツの現場でそれぞれが自己と戦ってきたことで、自分を見る目がしっかりしている方々ばかりですね。しかし一方で、それは『私が一番正しい』と思いがちになります。一般の会社以上に、スポーツの場合は一番になりたい人が集まり、足の引っ張りあいにもなりかねない。その気持を読んで、どこが悪いか瞬時にみて直していくのがコーチの役割になります」と話しました。

また、女性は組織に向かないのか?といった疑問を投げかけた上で、「会社や組織にいると、組織のための仕事をしなければなりません。しかしスポーツは職人集団なので、それぞれに自信がある。誰もが組織のマネジメントを勉強し、『交渉、会議の進め方、決断』などを経験を通して身に付けていくことが大切です」と訴えました。

Miyajimaimg_2760 基調講演を行う宮嶋さん

 

■第2部:パネルディスカッション「スポーツ文化発展に資する女性リーダー」

まず冒頭に国際武道大学准教授の佐藤正伸氏が、JOC委嘱女性強化スタッフや競技団体を対象にしたアンケート調査(2010年8月実施)の結果について報告。スタッフ自身は「今後もJOC委嘱女性強化スタッフを続けていきたい」が92%と多いのに対し、「(さらに)中核的な役割を担いたい」は51%と少なく、女性リーダーへの意欲は現段階では決して高くないことが分かりました。

続いて4人のパネリスト(文部科学省スポーツ・青少年局体育官の森岡裕策氏、JOC女性スポーツ専門委員の小谷実可子さん、同・田辺陽子さん、JOC強化スタッフの知念令子さん)によるパネルディスカッションが行われ、佐藤正伸氏がコーディネーターを務めました。

まず森岡体育官は、平成23年度に54億円の予算を概算要求している「元気な日本スポーツ立国プロジェクト」について、女性に関わる施策を説明。「女性のスポーツ参加促進が女性アスリートの戦略的強化につながり、さらに女子のスポーツ習慣が形成されることが目標」と話しました。そして「今年策定したスポーツ立国戦略では、人とネットワークがキー。スポーツコミュニティ内でコミュニケーションを図りながらリーダーシップを養っていくことを目指します」と話しました。

田辺さんは、柔道の指導者養成の現状について触れ、「女性は引退後、指導者に登録せず、一線に関われずに埋もれていく人材が多い」と、女性が指導者に登録するためのプログラムの必要性を訴えました。また、各競技団体でも教育と普及に関わるシステムをきちんと作り、女性が引退後に活躍できる分野を作り出していくことが大切だと話しました。

また知念さんは、JOCの国際人養成事業について紹介。「国際大会におけるパーティーでの服装意識の問題や、日本人だけ固まっているなど、スポーツ人に国際的常識が備わっていないケースがあります。日本の発言力を向上させるためにもマナーを覚え、自分達の話を聞いてもらえる人を作る必要があります」と発言。さらに自身が国際ウエイトリフティング連盟でテクニカル委員会セクレタリーに選出されたエピソードに触れ「旧ソ連の地域が強いことから、英語だけでなくロシア語を勉強したことで、色々な情報を入手できるようになりました。また人のやりたがらない仕事を進んでやることで、認められたんだと思います」と話しました。

小谷さんは「初めて国際会議に出るときに、猪谷さんに相談したところ『会議で積極的に発言し、目立つ服装をするように。日本女性のイメージを打破して』と言われました。その通りにしたら、海外の方から『日本にこんな女性がいたなんて』と覚えられ、多くの会議に呼んでいただく機会を与えられ、さらに勉強して視野を広げようと思えるようになりました」と説明。また「与えられた立場を100%でやることが次のチャンスにつながりました。日本人女性は海外から求められています。自分の後を育てていきたいです」と、日本人女性としてのオピニオンリーダーを育成する意欲を語りました。

それぞれが、スポーツ界における女性の活躍について、熱心な意見を交換。参加した各競技団体の担当者にとっても考えさせられる時間となりました。

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それぞれの意見を述べた(左上から)森岡氏、田辺氏、知念氏、小谷氏

2010/09/21

「JOCナショナルコーチアカデミー」 杉田正明氏がワールドカップの高地対策について講義

真のエリートコーチ育成を目指し味の素ナショナルトレーニングセンターで行われている「JOCナショナルコーチアカデミー」で9月9日、サッカー・ワールドカップに高地トレーニングの専門家として帯同した杉田正明・三重大准教授による講義が行われました。杉田先生は、今回取組んだ高地対策について報告するとともに、医科学サポートを現場で生かすためのノウハウをコーチ陣に伝えました。

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今回のワールドカップでは、日本が出場する予選リーグ3試合のうち2試合が標高1400m以上の高地で行われました。酸素濃度が低い高地でも「走るサッカー」を実現しようと考えた岡田武史監督は、1990年代から陸連で高地トレーニングを研究している杉田先生に対策を依頼したのです。杉田先生は、高地でトレーニングすることで筋肉の酸素利用効率を上げる「高地順化」が適切な対策だと判断。「事前準備」「11日間の高地合宿中にやること」「低地に下りてから効果を維持するために行うこと」と、段階を分けて長期計画を立てました。

◆事前準備、低酸素吸入で効果アップ

まず2月から、高地での貧血予防のための血液検査を行いました。高地では、血液中のヘモグロビンや総たんぱく、血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄)などが失われやすいため、値が低かった選手には、栄養指導やサプリメント配布を行いました。また4〜5月には、JISS(国立スポーツ科学センター)の低酸素環境を使い、高所適応テストを実施。標高2000m相当の疑似高地で走ってもらい、動脈血の酸素飽和度や心拍数から、高所への適応が早い選手・遅い選手などを事前に把握し、現地での対策の参考にしました。

日本代表のメンバーが発表されたのは5月10日。出発前に取組んだのが、事前準備のメインともいえる「低酸素吸入」でした。高地合宿にスムースに入り効果を上げるために、低酸素状態に身体を慣らしておくものですが、JISSの低酸素施設に集まることが不可能なため、携帯式の低酸素マスクを利用。これは日本初の試みでした。「初めての取り組みを現場に納得してもらうためには理論武装が必要。英語のマニュアルを日本語に訳して渡し、必要性を理解していただきました」と杉田先生。海外から取り寄せた低酸素マスクを協会から選手1人1人に配り、自宅で吸入を行ってもらいました。

◆高地合宿、毎日の尿検査で疲労チェック、高酸素も吸入

5月26日からいよいよ、標高1800mのスイス・ザースフェーでの高地合宿がスタートしました。マラソン選手などの間で「高地トレーニング」と呼ばれるものは、血液中の酸素含有量を増やすもので3週間以上の滞在を必要としますが、今回行われたのは筋肉の酸素利用効率を上げる「高地順化」。日本代表が滞在した11日間でも十分な効果を得られます。

杉田先生は、全選手に対して、毎日の尿検査とアンケート等を行い、高地順化、脱水、筋肉や内臓の疲労度など、緻密なコンディションチェックを行いました。

さらに高地滞在中には高酸素吸入も行いました。30%の高濃度酸素(平地の酸素濃度は21%)を吸入できる携帯式装置を日本から選手分持参したのです。選手やスタッフからは、「低酸素トレーニングに来ているのになぜ高酸素を吸うのか」と疑問を投げかけられ、杉田先生は「高地では体力が奪われやすいため身体がぼろぼろになる。高酸素で疲労を回復しやすい状態を作りながら、トレーニングすることが大切」と説明。みな納得し、ほとんどの選手が高酸素吸入を行いました。

Sugitasaasfee1_2ザースフェーの練習場で高地順化のサポートをする杉田先生

また高地合宿終盤に選手の疲労がピークに達していることに気づいた杉田先生は、低地に下りた後にトレーニングの強度を下げるよう提案。岡田監督は、初戦のカメルーン戦3日前はオフ、その前も強度を減らすメニューを決定しました。「試合直前に休むのは異例のことだったそうですが、監督が大きな決断をして下さった」と杉田先生は振り返りました。

計画通りの対策を行った杉田先生でしたが、初戦前夜は「いい準備ができている自信はあった。それでも『選手の足が動かなかったらどうしよう』と考えると、眠れなかった」といいます。しかしそんな心配をよそに、高地順化した選手たちは「走るサッカー」を実現し、初戦のカメルーンを撃破。そして試合後、うれしいことがありました。マッサージを受けていた遠藤保仁選手がこう話したのです。「ここって本当に高地なの?ぜんぜんキツくなかったよ」。それは高地対策の勝利でした。

◆研究を現場に生かす、チームの一体感にカギ

高地対策の成功を支えたのは、入念な計画だけではありません。杉田先生は、研究に基づく自分の意見を伝えるのに、文章にしたり、なるべく簡潔に話したり、必要だと思えば言いにくい雰囲気でも伝える、といったやり方を貫きました。「専門家としてのプライドを持ちながら、科学者ぶらずに自分のやれることは積極的にやる。選手に慣れ慣れしく近寄らない、挨拶をきちんとするなどの態度も大切」と杉田先生。スタッフとコミュニケーションを図りながら、自分の研究を現場に還元していく姿勢が重要だと伝えました。逆に現場側となるコーチたちに対しては、「スポーツ医科学を活用することは、研究者の資質もふまえながら人を使うこと」と前置きし、コーチ側も研究者とうまく付き合うことを提案しました。

杉田先生は「今回のワールドカップでは、監督をはじめコーチ、スタッフ、選手すべてに一体感がありました。いい準備が出来ている、支援はしっかりやったと全スタッフが思うことができて、それを選手も感じていたことが、結果につながったのだと思います」とまとめました。

どんなに優れたスポーツ医科学の研究でも、実際に現場で結果につなげるためには、やはり研究者と現場スタッフとの交流が重要になります。スポーツ医科学の分野でもまた、チームジャパンとしての結束力が求められていることを痛感させされる講義となりました。

Sugita2 ワールドカップ帯同の経験から医科学サポートについて語る杉田先生

2010/09/13

JOCキャリアアカデミー フィギュアスケート選手の保護者にセミナー

トップアスリートの育成には家庭でのサポートも重要となることから、JOCキャリアアカデミーは、長野県・野辺山で、フィギュアスケートの保護者向けにセミナーを開催。オリンピックのアトランタ、シドニー、アテネの3大会でメダルを獲得したシンクロナイズドスイミングの武田美保さんの母、珠子さんに興味深いお話をご講演いただきました。

講演会は、日本スケート連盟が主催するフィギュアスケートの「全国有望新人発掘合宿」の初日に行われました。この合宿では、9〜11歳で規定の級に合格した選手を集め、全日本ノービス選手権大会への推薦出場などをかけた選考会が行われます。お子さんたちを選考会に引率した保護者らが、不安と期待の入り混じる様子で講演会に参加しました。

Zentaidsc01747多くの保護者が参加した

Takeda講演した武田さんの母

武田美保さんは7歳でシンクロナイズドスイミング教室に入り、13歳でジュニア日本代表に。17歳でナショナルA代表入りをすると、1996年アトランタオリンピックから3大会連続で5つのメダルに輝きました。

母の珠子さんは、美保さんを育てるにあたり、家庭での会話を大切にしていたそうです。「練習については基本的にはコーチにすべてお任せしていますが、自宅に帰ってきたら『今日は何を怒られたの?』と聞くようにしていました。子供は自分が何を注意されたのかを私に伝えようと思い出すことで、頭の中で整理できるんですね。これを毎日繰り返すことで、だんだん自分が何を怒られているのか、ちゃんとした文章で話せるようになっていきました。怒られるということは先生から見てもらえているという意味ですから、良いことなんです。私たちは怒られて喜ぶ家族でしたね」と珠子さん。日記をつけて振り返りをする選手も多くいますが、美保さんの場合は家族の会話の中で振り返りをしていたということです。

また、コーチ選びについても話しました。選手や保護者のなかには、より良いコーチを求めて指導法を比較してしまうこともありますが、「コーチに対して異論を持ってはダメです。様々なコーチが違う指導をしたとしても、それぞれの教えを信じて練習することでその技の感覚を体感できて、色々な体感を会得できることで自分のやり方を見つけていくんです。だから親があれこれ言ってコーチを選ぶのはおかしな話ですね」と話し、コーチを信頼することが大切だと話しました。

さらに、親の役割についても自身の取り組みを紹介。「『自分の娘がこうなったらいいな』という親のエゴは必ずあります。でも親はお金を出して、練習には口を出さないもの。だから心の面で、支えになるようにしていました。私は毎日2時間、娘にマッサージをして体が柔らかくなった気にさせたり、『あんたはオーラがある』と子供の時から言ってその気にさせたりしていました」と珠子さん。コーチと親の立場を分けることに秘訣があるようです。

また勉強との両立についても、「勉強もスポーツも両方やることが基本。引退してからの人生のほうが長いのです。勉強をすることは人間としての基礎を作ることになりますから、成績が悪いときは叱りましたし、練習の合間や昼休みに短期集中で宿題を終わらせるようにさせてきました」と、勉強もおろそかにしなかったことを話しました。

Ogawatakeda 保護者からの質問に答える武田さん(左)

どのテーマも、毎日の生活に直結する興味深い話ばかり。集まった約50人の保護者らは、メモを取り、大きくうなずきながら武田さんの講演会に聞き入っていました。保護者の方々の的確なサポートが、未来のオリンピアンにつながります。今回の講演会で学んだことを、お子さんの活躍へと繋げていただけるよう、願ってやみません。

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2010/07/07

「拠点」の利活用について、ナショナルトレーニングセンターセミナー開催

オリンピックに向けた「拠点」の利活用について情報共有を図ろうと、JOCは6月25日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で「ナショナルトレーニングセンター(NTC)セミナー」を開催しました。味の素トレセンには、「拠点ネットワーク・情報戦略事業」という部署があり、こういった選手強化に役立つセミナーを開催したり、「NTC競技別強化拠点」と呼ばれる全国22か所に指定された強化拠点間の連携を促す様々な活動を行っています。今回のセミナーでは、オリンピック現地でのサポート「拠点」、オリンピックに向けた国内の強化「拠点」、諸外国の強化「拠点」、高地トレーニング「拠点」の4つの視点から、幅広い報告が行われ、参加した約90名の強化スタッフらは熱心に聞き入っていました。

Dsc01731 多くの強化関係者がセミナーに参加した

第1部は、バンクーバー冬季オリンピックに向けて日本スケート連盟が現地に置いた「拠点」について、湯田淳氏(同連盟スピードスケート強化部委員)が解説。同連盟は、バンクーバー対策特別プロジェクトの一環として、スピードスケートの会場から徒歩10分の場所に、2009年7月から現地での情報・医科学拠点「JSFサポートハウス」を準備しました。大会中は、管理栄養士が作ったおにぎりやカレーなどを振舞ったほか、日本で使い慣れているエルゴメーターやバランスボールも設置し、快適なトレーニング環境を設置。また用具メンテナンスや、滑走映像のチェック、スタッフミーティングなどを行う拠点としても活用しました。湯田氏は「選手は日本食が恋しくて選手村のレストランも大会後半となると使わずに、サポートハウスに食事のケータリングをお願いしていた。また、選手にとって有益な情報やサービスを提供できたと考えられる。ソチ大会での環境整備も考えたい」と話しました。

Yuda_2「JSFサポートハウス」について説明する湯田氏

第2部は、競技別強化の中心となるNTC競技別強化「拠点」について、スピードスケートとスキー・ジャンプの現場から報告がありました。まず結城匡啓氏(日本スケート連盟スピード強化副部長)は、エムウェーブ(NTCスピードスケート強化拠点)を利用する立場から、その利点を紹介。経済性や利便性のほか、キックのフォームを固める練習台や滑走速度や滑走コースを測定できる設備など、NTC競技別強化拠点にしかない機能が充実するとなおよいと提案。さらに、それらの機能を高品質なものにしていくためには、冬季の専任スタッフを配置していく必要があると訴えました。

Photo エムウェーブは選手の強化拠点として利用されている(提供:アフロスポーツ)

続いて速水達也氏(全日本スキー連盟情報・医・科学部委員)は、大倉山ジャンプ競技場(NTCスキージャンプ強化拠点)での強化について報告。骨格のバランスをチェックするなどのコンディショニングサポート、高速度カメラによる飛行姿勢撮影などの科学サポート、体組成測定などのメディカルサポートを複合的に行っていることを紹介しました。「選手の感覚と実際の運動の違いを分析し、いかに選手に伝えるかが大切」と、医科学サポートを有効利用していく拠点活用の方向性を話しました。

Ookurayama 充実した医科学サポートを行える大蔵山ジャンプ競技場(提供:アフロスポーツ)

第3部は、JOC情報戦略部会の河合季信氏が「諸外国における『拠点』の利活用」と題し、ショートトラックの事例を報告。中国やドイツのトレーニング拠点を例に、施設の新しさや豪華さではなく、機能の高度化が必要だと指摘しました。また拠点の活用法として、選手の発掘・育成・強化の拠点となるだけでなく、国際大会の開催や海外チームの合宿受け入れを行い、海外選手に関するより多くのデータを蓄積・分析することでトレーニング目標や指標を持つことが出来るといったメリットもあると述べました。また、現地サポート拠点の機能としては、NTC/拠点機能の提供と競技場面に特化したパフォーマンス促進の側面があると紹介されました。

最後は、高地トレーニングについての報告がありました。NTC高地トレーニング強化拠点に指定されている「蔵王坊平アスリートヴィレッジ」について、山形県上山市役所の伊藤智彦観光課主査が紹介。約1kmのエリアにコンパクトに施設があることや、低酸素室、乳酸測定装置など高機能な設備を取り揃えていることを紹介しました。

Photo_2室内トレーニング室も完備するアスリートヴィレッジ

さらに高地トレーニングの科学的背景について、禰屋光男氏(東京大学大学院総合文化研究科)が報告。まず高地トレーニングの基礎知識として、2000〜2500m以上の高地が持久力向上には必要なものの、人工低酸素の環境でも代用できることを紹介。さらに「飛騨御嶽高原高地トレーニングエリア」で行った実験について報告し、結果として、持久力(ローパワー)向上のためには10時間以上の滞在を3週間続ける必要がある一方で、ミドルパワーの向上や高地での試合環境に慣れるためであれば10日程度でも効果が出る可能性があると話しました。これからはマラソンなど持久的な競技だけではなく、球技種目など他の競技でも高地トレーニングの活用を考えていく必要がありそうです。

Neya 高地トレーニングの科学的背景について話す禰屋氏

「拠点」をテーマに、約5時間にわたり行われたNTCセミナー。選手の育成そして強化のためには、さまざまな「拠点」の機能を充実させ、有効活用していくことが不可欠であることを痛感させてくれるセミナーとなりました。

2010/06/27

ナショナルコーチアカデミーで橋本聖子JOC理事が「コーチング論」講義

国際競技大会で活躍できる選手を育成・指導する真のエリートコーチ養成を目指し行われている「ナショナルコーチアカデミー」で6月23日、バンクーバー冬季オリンピックで団長を務めた橋本聖子さん(JOC理事)が「コーチング論」の講義を行いました。

Hashimoto1指導者らに語りかける橋本さん

橋本さんは、スピードスケートで冬季大会に4回、自転車競技で夏季大会に3回出場したオリンピックの申し子とまで言われたトップアスリートでした。当時、尊敬していたスピードスケートの選手が強化策として自転車競技に取り組んでいたことをヒントに、両競技に取り組もうと決めたそうです。しかし筋肉の使い方が少し違うことから、股関節を痛めるなど苦労もし、「両方の競技それぞれに、どんなトレーニングが必要かを考え、理解するきっかけになった」と、トレーニング方法を試行錯誤したエピソードを紹介しました。

Aflo_fbjb005850 1988年ソウルオリンピックに向けて自転車競技に挑戦する橋本さん(提供:アフロスポーツ)

Aflo_hkja002611 1992年アルベールビル冬季オリンピックのスピードスケートで、冬季では日本女子初となる銅メダルを獲得(提供:アフロスポーツ)

また現役最後の時期は、岡崎朋美選手や田畑真紀選手の指導役としての立場も兼任していたことから、具体的な指導法へのアドバイスもありました。「名選手、名コーチにあらずではなく、名選手こそ名コーチになるべき。研ぎ澄まされた感覚を紐解いて言葉で伝えられたとき、名コーチになれる」と話し、指導者らが持つトップレベルの身体感覚をうまく伝える大切さを話しました。

またオリンピックの基本精神についての話にも触れ、「肉体を鍛え上げるだけではなく、そのレベルまで精神力をも鍛えたものが本当のオリンピアン。そして、オリンピックは感動を与えるだけでなく、感動した子供達の生き方をも変えるほどの教育的な影響力がある」と説明。そのオリンピックの基本精神を受け継ぐために、「JOCは(メダル獲得に向けた)ゴールドプランを策定しているが、それは人生をゴールドにするためのゴールドプランでなければならない」と話し、選手の人間性も育成するよう各受講者に求めました。

数々の困難を乗り越え、現在は様々な場面でリーダーとしての活躍も多い橋本さん。最後は受講者からの質問ラッシュとなりました。なかでも興味深かったのは、ストレスの発散方法。橋本さんは選手時代、陶芸を行っていたそうです。ろくろを回しながら芯を作る作業で、集中力も養うことができたとのこと。経験豊富な橋本さんの話で、充実した講義となりました。

2010/06/18

ナショナルコーチアカデミーで、上村春樹JOC選手強化本部長が講義

5月31日に開講した「平成22年度ナショナルコーチアカデミー」で、上村春樹JOC選手強化本部長が「コーチング論」の講義を行いました。

Uemura2 講義する上村JOC選手強化本部長(提供:アフロスポーツ)

ナショナルコーチアカデミーは、国際競技大会で活躍できる選手を育成・指導する真のエリートコーチやスタッフを養成するのが目的です。今年度は、継続受講者を含め、正規コースに37名、外国籍コースに3名の指導者が参加。毎週3泊4日8週間にわたる講義が行われます。講義は、各専門家による「コーチング論」「マネジメント論」「スポーツ医・科学サポート論」「スポーツ情報戦略」などさまざま。

今年度の講師のトップバッターは、上村JOC選手強化本部長でした。上村本部長は、1988年ソウルオリンピックで柔道の金メダルが1個と成績が振るわず、そこから日本柔道の建て直しを図ったエピソードを紹介。1964年東京オリンピック以降、体力や体格にこだわっていた強化策を見返し、「技」を見直すことで、日本人の特性を生かした柔道を追求したそうです。

さらに、「指導者が選手に伝えたい3つのこと」として、自身の経験から導かれたモットーを伝えました。

ナショナルコーチアカデミーは、6月24日で前半を終了。8月30日から後期が始まり、9月24日の最終日まで、充実した講義と熱いディスカッションが続けられます。

2009/12/07

オリンピック有望選手らがオリンピアンとグループワーク

11月21日〜23日、味の素ナショナルトレーニングセンターで、平成21年度オリンピック有望選手研修会を開催しました。次世代を担うオリンピック有望選手、地域タレント発掘・育成事業受講生等と、その指導者約110名が参加。選手同士の相互交流を深め、アスリートとしての人生を考えさせることが目的です。

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2009/11/27

JOCナショナルコーチアカデミーが閉講

9月7日から10週に渡って行われたJOCナショナルコーチアカデミーが、11月27日をもって全行程を終了しました。

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最終日に撮影した、ナショナルコーチアカデミー関係者全員の集合写真

本アカデミーは、コーチング論、マネジメント論、情報戦略論、医・科学サポート論、運動観察などの講義を通じて、オリンピックをはじめとする国際競技大会で活躍できる選手を育成・指導する真のエリートコーチ及び各種スタッフの育成を目的としています。

最終日前日の11月26日(木)、プレゼンテーション試験を終えた受講者3名に本アカデミーを受講した感想、そして、この経験を自身のコーチングや競技団体でどのように活かしていきたいかを伺いました。

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