長野1998
採れたて長野通信
感動のジャンプ会場から長野市内に帰ってきた取材班。今度はエムウェーブで、またまた感動させてもらいました。男子1000mで、清水選手が銅メダルを獲得したのです。500mでは感激の涙を流した清水選手でしたが、母国でのオリンピックで2個目のメダル獲得となる余裕でしょうか、1000mの表彰台ではさわやかな笑顔が印象的でした。一方で、かつての世界記録保持者として期待された堀井学選手はやや不本意な成績に終わり、日本スピードスケート界の2人のエースは、このオリンピックの結果では明暗を分けたかっこうです。清水選手は「堀井選手と一緒に表彰台に上がりたいという気持ちがあったので、(表彰台でも)素直に喜べなかった」と試合後にコメントしていました。清水選手と堀井選手は、同じ高校の先輩と後輩(堀井選手が2年先輩)です。オリンピックの神様は、2人ともにほほえんでくれることはありませんでした。
でも、最高の結果を残した清水選手にも、残念な結果に終わった堀井選手にも、わたしたちは同じように感動を与えてもらいました。勝負は時の運でもあります。今回はメダルに手が届かなかった堀井選手。自分自身、悔いの残る気持ちはあるでしょうが、本当にお疲れさまでした。NAGANOが終わったらゆっくりと休んでください。そしてまた、強いホリイの姿をわれわれに見せてください。
現地直送!観戦レポート ジャンプラージヒル(白馬)
船木が金、原田が銅だ!
白馬が揺れました。フラワーセレモニーの表彰台から下りた原田が、船木を促すようにして満員のスタンドに向かって駆け出します。スタンドに向かってバンザイをする船木と原田。観衆が、白馬の山が弾け飛ぶような大歓声で2人と一緒にバンザイを繰り返します。船木が最高の笑顔でスタンドに花束を投げ込みました。原田が泣いています。スタンドを埋め尽くした人の中にも、涙を拭いている人の姿が目立ちます。フラワーセレモニーのときには、観衆から「ニッポン!」チャチャチャ(ここは拍手)!の大合唱が起こりました。夢に見た瞬間が、今、自分たちの目の前で実現したのです。
「よくやったー!」。「おめでとう!」。「はらだー!」。「ふなきー!」。
誰もが思い思いに、自分の興奮を声にしていました。叫ばずにはいられないほどの感動が、観衆の胸に広がっていたのでしょう。
船木選手が金メダル。そして原田選手が銅メダル。表彰台に2人の日本選手が立ちました。この瞬間は、札幌オリンピックでの表彰台独占と同じように、日本の人々の心に残り続けていくことでしょう。ラージヒルでのメダル獲得は日本選手として初めてのこと。本当に、おめでとう。
トライアルで船木が転倒!
では、今日の競技を振り返ってみましょう。天候は雪。ジャンプ競技は風の影響が大きいので、日本選手の「運」が心配です。本番直前、トライアルという練習ジャンプがあります。このトライアルで、最後から3人目、60番のゼッケンで飛んだ原田選手は108mの失敗ジャンプ。最後の62番目に飛んだ船木選手は、着地でバランスを崩して転倒してしまったのです。ランディングバーンを左寄りに滑り落ちる船木選手は、あやうくフェンスに激突しそうになりました。スタンドを埋めた満員の観衆から、心配そうなどよめきが起こります。
運命の時を待つ大観衆
トライアルが終わり、いよいよ競技開始時間が迫ります。雪がやむ気配はなく、天候は相変わらず心配です。でも、スタンドではウェーブが起こり、観衆はすでに興奮状態。まるで人気ミュージシャンのコンサートのような盛り上がりでした。
盛り上がるスタンドを撮影しようと近づいた取材班。ランディングバーン下の最前列で、頬に日の丸をペインティングしたカップルを発見しました。札幌から観戦に来た矢島さん夫妻で、ご主人の知己さんは原田選手と幼なじみ。地元のジャンプ少年団では一緒に飛んでいたそうです。トライアルでの失敗も「本番ではゼッタイにやってくれます!」と原田選手の力を信じていました。
さらに、選手たちのサインが入った大きな日の丸を振るおじさんを見つけて話を聞きました。地元の白馬でペンションを経営している府本さんという方で、夏のジャンプ大会のときに日本選手団と親しくなり、国旗にサインをもらったのだとか。「今日はぜったいに大きな日の丸が上がりますよ」と、奥さんと一緒に大声で応援していらっしゃいました。
また取材班が集まるエリアでは、テレビの取材で会場に来ていたアルペンスキー回転の元日本のエース・岡部哲也さんと、バドミントンの元オリンピック選手・陣内貴美子さんが心配そうにジャンプ台を見上げていらっしゃいました。競技終了後、船木選手と抱き合って「おめでとう。もうそれしか言えないよ」と感動していた岡部さん。陣内さんも船木選手と原田選手のメダルが決まった瞬間には、飛び上がるようにして喜びを表現していました。
宮平秀治選手にインタビュー
競技開始が迫り緊張感が高まっていくなかで、メディアの取材者に混じって心配そうにジャンプ台を見上げていたジャンプの日本代表の1人、宮平秀治選手に少しお話を聞くことができました。
−選手の気持ちとして今日の天気はどうですか?
「雪はそれほどでもないですし、風の強さはちょうどいい。心配ないですよ」
−原田選手も船木選手も、トライアルで失敗しましたが?
「トライアルですからね。大丈夫。本番は合わせてくるでしょう」
−この大観衆、選手はどんな気持ちですか?
「札幌の大倉山ジャンプ競技場では多くて2万人くらいしか入れません。今日は倍以上でしょうね。大歓声には、本当に勇気づけられるんですよ」
−当然ですが、自分も飛びたかったですよね?
「出たかった。でも、今の日本チームは強いですから。日本選手の中で上に行くのが難しいんです。でも、このオリンピックでは雰囲気に慣れて、次回のチャンスに活かすつもりです」
−今日は、どんな結果を期待しますか?
「もちろん日の丸3本ですよ!」
快くインタビューに答えてくださった宮平選手、本当にありがとうございました!
岡部選手が130mの大ジャンプ!
1本目の競技が始まりました。日本選手で最初に登場するのは、39番ゼッケンの岡部孝信選手です。岡部選手の1本目、飛距離はなんと130m! この時点で2位以下に20ポイント近い大差をつけて首位に立ちます。
その後の選手も、なかなかK点を越えるような大ジャンプは飛び出しません。50番台の選手が登場するころには、風が変わったのでしょうか、ジャンプ台を見上げる顔に雪が降りかかるようになりました。さっきまでは緩やかな風が背中から吹いてきて、雪が顔にかかることはなかったのです。
そして不安が的中してしまいました。54番目にスタートした斉藤浩哉選手は、風を受けることができずに失速。飛距離100mに終わり47位で、残念なから2本目のファイナルラウンドに進むことができなくなってしまったのです。斉藤選手が着地した瞬間。スタンドからは悲痛なほどに大きな「アアア」という声がもれました。
原田選手、船木選手の登場だ!
60番ゼッケン。原田選手がスタート地点に姿を見せると、満員のスタンドから大歓声が上がります。ノーマルヒルでの屈辱を晴らして欲しい。なんとかメダルを取って欲しい。観客だけでなく、いつもはクールに競技の進行を見つめているプレスたちまでが、祈るような目でジャンプ台を見上げています。日本ジャンプチームのリーダーとして、常に笑顔でわれわれの質問に答え、期待を盛り上げてくれた原田選手。海外からやってきたプレスさえ「ハラーダ!」と声を上げて興奮気味です。
原田選手が飛びました。飛距離は120m。失敗というわけではありませんが、やや風に恵まれませんでした。この時点でポイント117点。5位。首位に立ったオーストリアのビドヘルツル選手は138.8点なので、20点以上の大差です。3位のソイニネン選手とも約13点ものポイント差。大観衆はため息をもらしてしまいそうな気持ちと、まだまだ2本目があるという気持ちが入り交じったような「ウオオオ」という歓声で原田の逆転を祈ります。
そして1本目の最後に飛んだ船木選手。飛距離は126m。4位につけました。十分に金メダルを狙える位置です。スタンドから、今度は文句なしに船木のジャンプをたたえる大きな歓声がわきあがりました。
原田選手が奇跡的なスーパージャンプ!
1本目が終わり、2位に岡部選手、4位に船木選手、ややポイント差はあるものの6位に原田選手が並びました。斉藤選手は残念ながら2本目に進めませんでしたが、少なくとも岡部選手や船木選手は金メダルに手が届く位置。原田選手も、130mを越える大きなジャンプをすれば、ほかの選手の結果次第でまだメダルの可能性はある位置です。ファイナルラウンドの競技が始まったジャンプ台を見上げながら「なんとか原田が140mくらい飛んでくれないかなぁ」なんて願っていたのは、取材班だけではなかったでしょう。そんなに飛んでしまうと、着地バーンが平らになって危険なのですが。
ファイナルラウンドは1本目の上位30選手だけで争われます。風の条件がよくなったのでしょう。1本目より飛距離を大きくのばし、K点を越えるジャンプが続出しました。ダイナミックな放物線に歓声があがります。
25人目。いよいよ原田選手の2本目です。原田選手の名前をコールするアナウンスを聞いて、スタンドではふたたびウェーブが起こりました。地響きのような歓声があがります。そして、原田がやってくれました。バーンに杉の枝で作られたもっとも下のライン、135m地点を越える大ジャンプです。見ていても伝わってくるような衝撃に、足と両手を大きく広げて転倒しそうになるのを耐えきりました。まさに奇跡。歓声が爆発音のように激しく原田を祝福します。これでメダルに手が届く! スタンドには、もうすでに泣いている人がいます。目の前でたしかに起きた奇跡に、会場の誰もが興奮していました。
笑顔なのか泣き顔なのか判別できないような、ものすごく「いい表情」で原田選手がポイントが表示される電光板を見上げます。ところが、会場の電光表示板には、いつまで待っても「HARADA」の飛距離やポイントが表示されません。白馬のラージヒルのジャンプ台では、ビデオを使って飛距離を判定しているのですが、カバーしているのは135m地点まで。原田は、その135m地点をはるかに越えて着地しました。測定ビデオのないところまで飛んでしまったために、測定されないまま、次の選手がスタートしてきました。「原田はどうなんだ?」。すばらしいポイントをマークしたのは間違いない。はたしてメダルには届くのか? 観衆はちょっと不安な気持ちを抱えたまま、次の選手のジャンプを見守ります。
船木選手が金メダルだ!
競技は進みます。スキーを外した原田選手は、ランディングバーンの一番すみにどっかりと腰をおろして、ジャンプ台を見上げていました。もう大歓声はやみません。飛ぶのが日本選手じゃないときにも、大音量の歓声が響きわたり続けます。
次は船木選手。やってくれました。原田選手の大ジャンプの興奮もさめないうちに、またまた130mを越える大ジャンプを見せてくれたのです。飛距離は132.5m。しかも、テレマーク姿勢もぴたりときめて、飛型点は審判全員が20点満点というずばらしいジャンプです。手応えがあったのでしょう。大観衆の前に滑り降りてきた船木選手は、力強いガッツポーズで歓声に応えました。
残る選手は2人になって、1本目2位の岡部選手が登場しました。この時点で船木が1位。原田のポイントはまだ発表されませんが、おそらく「船木に次いで2位だろう」という声が聞こえてきます。127m以上のジャンプをすれば、岡部も間違いなくメダルをとれるでしょう。ところが、残念ながら岡部選手の飛距離は119.5m。決して失敗したわけではないでしょう。これはもう運命としか言いようがありません。最終的に岡部選手は6位。メダルはなりませんでしたが、すばらしい結果です。
いよいよ最後のビドヘルツル選手です。この時点でトップは船木。もし、ビドヘルツル選手の飛距離が伸びなければ、船木選手が金メダルです。スタートを切ったビドヘルツル選手。歓声の中には「落ちろー!」なんて声も聞こえて思わず苦笑いしてしまったのですが・・・・・・。飛距離は、伸びません。120.5m。原田選手のポイントはまだ表示されまいままですが、船木選手が1位であることはほぼ間違いありません。船木の金メダルが確定しました。ノーマルヒルの銀メダル獲得のときは、クールに喜びを表現していた船木選手ですが、ラージヒルでは会心の金メダル。回りの人と抱き合い、観衆に向かって大きく手を上げて喜びを表現します
原田は感動の銅メダルだ!
競技はすべて終わりました。でも、原田のポイントはなかなか表示されません。一度は観衆の声援に応えた船木選手が、少し心配そうに原田選手に歩み寄ります。
そして、電光表示板に「HARADA」の名が浮かび上がりました。3位です。飛距離は136m。山が割れるような大歓声が起こります。正直言って、あれ2位じゃないのとか、137mは飛んでいたんじゃないのかなという思いもよぎりましたが、もう、順位なんて関係ありません。
原田選手が演じてくれた大逆転劇は、日本中の、いえ世界中の人々を感動させてくれるものでした。金メダルの船木選手は本当にすばらしい。でも、原田選手の銅メダルは、見ている者にとって、もしかすると金よりも輝いて見える銅でした。
船木選手、金メダル、そして2つ目のメダル獲得、本当におめでとう。
原田選手、あなたが獲得したのは、今日のジャンプを観戦していたすべての人々にとって、世界で一番輝いて見える銅メダルです。おめでとう!
そして岡部選手。今シーズンは不調に苦しみながらみごとに復活。6位入賞はすばらしいと結果だと思います。おめでとう!
そして、世界最強のジャンプ選手たち。次は17日の団体ですね。こうなったら、はっきりとお願いします。表彰台の一番高いところで歓声に応えるあなたたちの姿を、われわれは期待しています。めざすは金メダル。がんばってください!
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