オリンピアンズ・ストーリー
- 遠征の心得その2「ホテルでの心得」-
遠征先のホテルを事前にリサーチすべし
国際競技大会での遠征先のホテルの決まり方は競技団体によって違いますが、競技団体が独自に決められるケースと大会を主催する国・地域の組織委員会がホテルを指定するケースがあります。日本の競技団体でホテルを選べる場合はスタッフが試合会場までの輸送や安全性を考慮していろいろなホテルを調べて選ぶので、ほとんど心配ありません。しかしそうではない場合は大変なのです。
大会に参加する国・地域はそれぞれ負担できる金額に差があります。近ごろはその国・地域の財政事情に合わせてホテルをランク分けしてくれるようにはなりましたが、今から20年ぐらい前はホテル全体の数も少なかったですから、どのチームも同じホテルに泊まるという状況でした。
主催側が宿泊施設を決める場合、まずするべきことは宿泊先がどんなところか情報収集することです。主催側の組織委員会に聞くのもひとつの方法ですが、インターネットで検索するという手もあります。インターネット検索できるホテルはまず安心。もちろんインターネットに載っていたからといって必ずしも安心とは限りませんが、そのホテルの印象などが書き込まれたホームページを見るだけでも宿泊者の感想が読めるので、それなりの情報は集められます。試合に勝つことばかりに集中せず、ホテルの快適性に目を向けて、息抜きとして情報収集してみることも大切なことではないでしょうか。
ホテルに着いたら
海外遠征ではすべてに用心し、日本の空港にいる時から“ここは外国だ”という意識を持つことです。そしてホテルに着いたら、まずドアをチェック。ドアにドライバーでこじ開けたような跡がひとつでもあれば、細心の注意を払ったほうがいいでしょう。
それから中には鍵がかからないようにして部屋を行き来する人もいますが、これはご法度もいいところ。盗んで下さいと言っているようなものです。
海外ではチップを置く習慣のある国もあります。もし、部屋にチップを2,3日置いてもなくなっていない場合、そのホテルは安全だと思っていいでしょう。
それから、部屋を出る時はセーフティボックスかスーツケースに大事なものを入れ、スーツケースには必ず鍵をかけることを習慣づけましょう。スポーツ選手は先を読むことが大事ですが、それは試合以外でも同じです。ホテルでスーツケースに鍵をかけずに出かけたら、次にどんなことが待ち構えているか予測できないとダメ。僕の場合はアーチェリーの道具もきれいにたたんで、ケースの中に入れ、スーツケースと一緒に部屋の目立つところに置いています。
また長時間のフライトで疲れていても、すぐベッドに横たわらず洋服を箪笥に入れるなど荷物の整理をして、ホテルでの生活を整えるようにします。洋服や下着を箪笥に入れることで、自分の部屋だという意識も持てるのです。
大事な試合に行く時は自分が出発する場所をきれいに整えていきましょう。風水的にも部屋をきれいにすることはいいと言いますし、荷物をきちんと片付けることによって部屋を清掃してくれる人がどんな風に私物を触るかがわかりますから。
部屋を居心地よくしてくつろいだ後は、フロントのスタッフやコンシェルジュにホテル周辺で危険な場所がないか聞きに行きます。外でランニングなどをしたい場合はどこが安全なのか、確認してから行ったほうがいいと思います。海外の場合、公園は危険なケースが多いのです。人影が少ない森のような公園では凶悪犯罪も起こりやすいので、そのあたりはちゃんと考えたほうがいいでしょう。また男性でもなるべく複数でトレーニングをする。あまり日本人だとわからないウエアを着用することもオススメです。日の丸や“JAPAN”の文字が入ったウエアだと「金を出せ」と脅されてしまうこともあるかもしれません。身の安全を確保するためにもぜひ気をつけたいことです。
レストランでの心得
今から20年ほど前のことですが、インド遠征に行った時のことです。インド政府が用意したゲストハウスに宿泊しました。ここにはたくさんの僧侶が泊まっていたので、おそらく僧侶のようなインド国内のゲストが宿泊するところだったのでしょう。部屋は日本のビジネスホテルのシングルぐらいの広さだったのですが、蚊がたくさんいたため、蚊帳の中で寝たことを覚えています。ここでの食事は朝昼晩3食チキンカレーという状況が10日間ほど続きました。また東南アジアでは「こんなにおいのものを食べなくてはいけないのか」と思ったこともありました。
日本人は世界の中でも免疫力が弱い国民です。水道の水をそのまま飲めるという恵まれた国に住んでいる日本人は、どこの国に行っても気をつけなくてはいけません。ヨーロッパで生野菜でおなかを壊す人もいます。生野菜を洗った水がよくないことも考えられるので、野菜も加熱したものを食べることです。そしてカットフルーツも包丁や調理する人の手に菌が付着していることが考えられるので、東南アジア方面ではカットされていない果物を食べるようにしましょう。
また日本料理でも油断は禁物です。生の魚を食べる時も細心の注意が必要です。例え領事館の人に紹介されたとしても気をつけたほうがいいでしょう。領事館の方々は免疫力も日本に住んでいる私たちに比べ強いと思われますので。
現地の料理を口にすることも大切
食べ物に用心するのは大事なことです。しかし、用心しすぎて、日本から持っていた食事やサプリメントで済ませるのでは寂しすぎます。せっかく海外で見識を広めるチャンスをもらっているのですから、現地の話題を持って帰ることも大事なのではないでしょうか。もし試合中が心配であれば、終わってからでもいいと思います。健康管理をすることも大事ですが10年、20年経った自分を考えた時に、縁のあった国の文化を取り入れる余裕こそが競技に集中できるパワーを生み出すのではないでしょうか。
1962年10月31日生まれ、43歳。中学校1年生でアーチェリー競技を始め、3年生で全日本アーチェリー選手権大会に出場。高校では全国高等学校総合体育大会で3年連続優勝。オリンピックでは1984年の第23回ロサンゼルス大会銅メダル、2004年の第28回アテネ大会で銀メダルを獲得。単一競技でのオリンピック5回出場は日本人最多記録。JOCアスリート専門委員会委員。
- 有森裕子(陸上競技)
メダルの価値は、後の人生が輝いてこそのもの - 安藤美佐子(ソフトボール)
正式競技に復帰したとき実力を発揮できる準備を - 鈴木大地(競泳)
感動と興奮へのチャレンジ - 萩原智子(競泳)
人として大切なこと…… - 八木沼純子(スケート)
スポーツと報道 - 三ヶ田礼一(スキー)
ウインタースポーツと環境問題
スキー人口増加を目指して
トリノ冬季オリンピック、そして人との出会い - 田辺陽子(柔道)
Play Trueの輪を広げよう1|2
アスリートとアンチ ドーピング
スポーツの価値を守れる社会に - 山本博(アーチェリー)
遠征の心得その1「移動の心得」
遠征の心得その2「ホテルでの心得」
遠征の心得その3「選手村での心得」