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TEAM JAPAN DIARY

国際総合競技大会

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2010/11/19

体操男子団体総合は銀メダル、強さと弱さが浮き彫りに

文・折山淑美

10月にオランダで開催された世界選手権とは別のメンバー構成で臨んだ体操男子。地元開催で威信をかけてきた中国に対しては苦しい戦いが続いた。だが競技初日の団体では、中国に11点差をつけられたものの、3位韓国を5点弱抑えて銀メダルを獲得。さらに個人総合ではベテランの水鳥寿思選手が、10月の世界選手権個人総合で6位になったル・ボゥ選手(中国)に0.150点まで迫る3位になって銅メダルを獲得した。
 Tr2010111300871 団体では銀メダル(共同)
 Tr2010111500720 個人総合で銅メダルを獲得した水鳥選手(共同)

しかし種目別になると、初日はあん馬の出口諒財選手の4位が最高でメダルなしという結果に。そのために競技最終日の11月17日は、平行棒と鉄棒を4位で通過した桑原俊選手と鉄棒3位通過の水鳥選手が「自分の得意種目でメダルを!」と高い意識で臨んだ。

日本選手にとって最初の種目だった平行棒は、トップバッターの個人総合優勝のテン・ハイビン選手(中国)が失敗して13点台に止まるという波瀾の幕開け。その後の選手も得点を伸ばせない展開になり、最後の桑原選手は予選と同じ15.450点を出せば銀メダル獲得となるはずだった。だが彼は、序盤の倒立がズレてしまうミスで流れに乗り切れず14点台の低得点で6位に終わった。

「思い入れが強い種目でもある平行棒で失敗して、逆にそこで気持ちが切り替わって鉄棒に入れました。アップ場へ帰ったら、寿思さんから『鉄棒では絶対に二人でメダルを獲るぞ』といわれて、メダルに対する意識もそれまで以上に高まってきて。何色でもいいから獲りにいこうと思いました」

こう話す桑原選手の鉄棒の試技順は2番手。トップバッターは優勝候補のチャン・チェングロン選手(中国)だった。彼はいきなり16.225点と高得点を出したが、桑原選手も負けていなかった。「着地で『止まれ!』と思ってグルグル手を回したところ以外は何も覚えていないんです」というほど集中した演技で、15.725点を出したのだ。

その結果、桑原選手は銀メダルを獲得。最後から2人目の演技者である水鳥選手も、予選と同じ15.750点を出せばダブルメダルになるところだった。だが「アップで入りの技がおかしくなって、その不安を持ったままでてしまった」と、最初の離れ技の後のミスで流れに乗れず、14点台で5位に止まってしまったのだ。

「団体と個人総合ともに90点前後の得点が取れたし、いい演技が出来たという収穫もあったから、まだまだ世界と戦えるという自信がつきました。でも今日のように、メダルを獲るべきところで獲れないというのはまだまだダメなところですね。今後の課題になってくると思います」水鳥選手は苦笑しながらこう話した。

一方、桑原選手は、「これが最後の国際大会になるかなという思いもあったけど、ここでメダルを獲得したことで、自分の体操人生の目標でもある世界選手権やオリンピックへ向けて勢いがつく感じになったかな、と思いますね。今練習している技もいくつかあるし、それを入れれば価値点も0.5〜0.6点くらい上がるから、(来年の)世界選手権までにはそれを入れられるように日々頑張っていきたいと思います」と笑顔で話す。
 Tr2010111700886 桑原選手の鉄棒(共同)
 Tr2010111700890 水鳥選手の鉄棒(共同)

今大会、10月の世界選手権と代表メンバーを代えたのは、過去にも無理をさせて翌年の春先の滑り出しが悪くなった選手もいたからだという。そんな試みの中で立花泰則監督は、「この大会では日本のいいところと悪いところがハッキリでたのが収穫」という。

「この大会の団体で6-5-4(メンバー6人中、各種目に5人が出て、そのうち得点の高い4人の合計点が団体得点として加算される方式)で戦った合計点が、世界選手権で3位のアメリカの6-6-4の得点を上回っていたのはひとつの収穫です。ただ、個人総合や種目別でそうだったように、自分の武器となる種目で得点を積み重ねられないこともあったので…。個人個人がもう一度練習を考え直して、ここ一番で自分の武器を出し切れるようにしていく必要があると思います」

世界選手権個人総合優勝の内村航平選手は、演技の途中でも自分の調子や流れをみて、技の難度を微調整する能力を持っているという。だがこの大会に出た選手はそのあたりがまだ足りないというのだ。

今大会で日本は、層の厚さを確かめることができた。それをさらに分厚いものにして、地元開催である来年の世界選手権東京大会では団体で打倒中国を果たすこと。その目標を達成するためにも、世界選手権代表にはなれなかったアジア大会組の選手たちが、この大会で見つけた課題を克服して、これまで以上の厳しい代表争いにしていく必要があるだろう。アジア大会はそんな選手達の心を燃え上がらせるキッカケになったはずだ。

2010/11/18

広州アジア大会でマルチサポート・ハウスを設置、日本代表選手団を支援

2012年のロンドンオリンピックへのトライアルとして、広州アジア大会での日本代表選手団のサポートを選手村の外で行う拠点「マルチサポート・ハウス」が広州市内のホテルに設置され、多くの選手団が利用しています。このハウスは、日本スポーツ振興センター(NAASH)が文部科学省委託事業『チーム「ニッポン」マルチサポート事業』の一環として設置11月5日から27日の期間中に、トレーニング、マッサージ、和食などによる補食、カウンセリングなど、選手団が最高のパフォーマンスで試合に臨めるよう、多岐にわたるサポートを行います。

 Pkb10y12_0934 くつろぐ選手たち(PHOTO KISHIMOTO)

 Pkb10y12_0984 マルチサポート・ハウスでトレーニングする選手(PHOTO KISHIMOTO) 

 

マルチサポート・ハウスは「日本代表選手団の競技者、コーチ及びスタッフが最終準備に必要なあらゆる環境を選択することができる」ことをコンセプトに設置。選手村の中にはADカードを持つ人しか入れないため、トレーナーや栄養士・医師などが集うことができ整ったサポート環境を、選手村の外に設置することになりました。場所は、選手村から専用シャトルバスで約15分。選手は、各競技場での練習後にマルチサポート・ハウスに立ち寄り、身体のケアや栄養サポート、リラクゼーションなどを受け、選手村に戻ることができます。

 

主なサポートは4つ。

 

(1)コンディショニング/リカバリーサポート

 医学、栄養補給、トレーニング、メンタル、リフレックス、リラックス

 

(2)分析サポート

 映像フィードバック、映像編集、簡易動作分析、結果集積・分析

 

(3)情報戦略サポート

 戦況分析・調査、日本選手団との連携・調整、現地—日本の連携・調整

 

(4)コミュニケーション/ロジスティックサポート

 選手・コーチ・スタッフのミーティング、競技機材の保管、サポート機器の保管

 

日本代表選手団の市原則之団長は、結団式の際に、「国の実施するマルチサポート事業を活用し、ロンドンオリンピックへのトライアルとしてサポート・ハウスが選手村の近くに設置されます。ぜひ有効活用し、ロンドンオリンピックにつなげていただきたい」とあいさつ。陸上競技の村上幸史主将は「やり投げのフォームを確認するなど分析のために活用したい」、バドミントンの潮田玲子旗手も「身体のケアとして利用したい」と話していました。

 

今回の取り組みから、ロンドンオリンピックでのサポートにつながる情報や知識を1つでも多く蓄積し、選手のパフォーマンス向上につなげることが期待されています。

2010/11/17

柔道 前回ドーハ大会の4個を上回る、金メダル7個

文・高野祐太

柔道は13日から16日までの4日間、男女16階級が行われ、前回ドーハ大会の4個を上回る7個の金メダルを獲得した。

13日には、杉本美香選手が女子78㎏超級で金メダルを獲得。男子100㎏級の穴井隆将選手は銀メダル、世界選手権無差別級で世界タイトルを獲得し、男子100㎏超級に出場を果たした上川大樹選手は銅メダル。また、女子78㎏級の緒方亜香里選手は決勝で一本負けを喫し、銀メダルだった。14日は、男子90㎏級の小野卓志選手と女子63㎏級の上野順恵選手が、ともに決勝で一本勝ち。男子81㎏級の高松正裕選手は銅メダル。15日は、女子52㎏級の中村美里選手、男子73㎏級の秋本啓之選手、女子57㎏級の松本薫選手が優勝を飾った。一方、男子66㎏級の森下純平選手は3位だった。最終の16日は、男子無差別級の高橋和彦選手が一本勝ちで金メダル。女子48㎏級の福見友子選手は呉樹根選手(中国)との決勝で延長にもつれ込み、微妙な旗判定で敗退。男子60㎏級の平岡拓晃選手は銀メダル、女子無差別級の田知本愛選手は銅メダルだった。

■杉本選手、相手に研究されるも2階級女王の意地見せる
 Tr2010111300811 杉本選手(共同)

杉本選手が世界選手権2階級女王の意地を見せた。女子78㎏超級決勝は、9月の世界選手権の再現となる秦茜選手(中国)との対戦。3カ月前の反省を踏まえて向かってくる相手がなかなか組ませてくれず、難しい戦いを強いられる。だが、塚田真希選手の引退表明を受けて名実ともに女子重量級のエースとなった杉本は、勝利への強い意志を持ち続けた。

「(世界選手権の勝利で)ライバルが研究して来るけど、短期間で技術の習得は難しい。だったら組み手で根負けしないように考えました。ここで勝たないと、世界選手権で優勝したこと(の意味)も半減すると思っていたので、絶対に勝ちたかったです」。両者決め手を欠いたが、消極的な相手に指導1つが与えられる。延長戦に入っても打開策は見出せなかったが、旗判定で勝利を納めた。

気迫できっちりと結果を残したが、「内容がかなり悪かった。もっと考えて、内容を良くしたい」と厳しく自己採点。このあたりは、ロンドンオリンピックを見据えるエースとしての自覚と責任感の芽生えでもある。園田隆二監督も「世界選手権では秦茜選手を投げており、簡単に組ませてくれないのは分かっていた。それでも相手をつかんで自分の技まで持って行けるかが今後の課題。勝ったことを自信につなげると同時に、自分に何が足りないかを常に考えていってほしい」と期待を掛けた。

■穴井選手「まだまだ弱い、まだまだやることがある」
 Tr2010111300678 穴井選手(左)(共同)

男子100㎏級の穴井選手は、念願の世界選手権優勝をものにした良い流れを生かし、アジアタイトルも獲っておきたかった。準決勝までの3試合はすべて一本勝ち。だが、落とし穴は「どんな形でも勝ちたかった」という黄橲太選手(韓国)との決勝に待っていた。

掛け逃げのような仕掛けをして来る相手を封じるため、穴井選手は意識的にすくい投げの体勢に。だが、そこを袖釣り込み腰で返され、一本を取られてしまった。上川選手と合わせ、初日に男子で金メダル2個のもくろみが外れてしまった篠原信一監督は「世界選手権後の気持ちの盛り上げさせ方が足りなかった」と反省した。だが、2年後のロンドンオリンピックを想定したこの国際総合大会で、得たものも多かった。「移動や選手村の生活も経験できた。ロンドンに向けて何が足りないのか勉強になった。まだまだ弱いということ。まだまだ強くなれるし、まだまだやれることがある」と、意欲をかき立てた。

■上野選手、顔面パンチに闘志をかき立てられ結果を出す
 Tr2010111400678 上野選手(上)(共同)

世界選手権2連覇の上野選手が、初の国際総合大会でアジアに敵なしを宣言する堂々の優勝だ。1回戦と次の準々決勝を一本勝ち。そして迎えた北朝鮮選手との準決勝、いきなり、相手が拳で顔面を打つという考えられない攻撃に出る。しかも5、6発。上野選手の左目はみるみるうちに腫れ上がり、目が開かないほどの状態に。この大会は得意の大外刈りを補う技のバリエーションを試す舞台でもあったが「それどころではなくなった」。

そんな不測の事態にも、闘志をかき立てかつ冷静に対処したあたりに、強くなっていく上野選手を印象づけた。結果は延長戦に入ってからの反則勝ち。「パンチされてイラッと来て、何が何でも勝ってやろうと思いました。でも反則とは思わず、これが相手の手だなと。そういうことをされても勝とうと思いました。本当は投げて勝ちたかったです」との言葉に充実ぶりをうかがわせた。

園田監督も「精神的にどうかというところがあったので、ロンドンに向けて神様が試練を与えてくれたのだと思う。世界選手権の準決勝でも首を痛めるなど、試練が多い中で結果を出している。少しずつでも強くなってくれれば」と評価。決勝は内股から崩れけさ固めへの合わせ技一本で、万全の勝利を収めた。

■中村選手、北京オリンピックの借りを返す金
 Tr2010111500731 中村選手(共同)

2年前の北京で受けた借りを広州で返す——。この大会で掲げた最大の目標を、中村選手は強くなった柔道で見事に果たした。宿敵アン・グムエ選手(北朝鮮)との準決勝。先に技ありを取られたが、間合いを取りながらの足技がさえ小内刈りで追い付く。延長戦に入ってからは投げ技も入れながら攻め立て、旗は3本全部が中村選手の青に上がった。中村選手は「負けたままでは終われないので、リベンジできてよかった」と胸をなで下ろした。

園田監督も戦いぶりを讃えた。「しっかり組んで、投げることも出来て勝てた。2年間の成長です。あのときは勝ち目がなかったが、今は五分五分になった。組み手からのパターンの幅が広がっている。最後は自分が勝つんだという気持ちが上回った」。

高校を卒業した年に臨んだ北京オリンピックでは、「何もさせてもらえずに」敗退。銅メダル獲得にも笑顔はなかった。現在、そのメダルは自宅のベッドの下に。ほとんど手に取ることはないが悔しさを忘れないための起爆剤だ。そんな思いが中村選手に強さを与えた。「2年間でずっと組み手を練習して来た。足りなかったパワーも筋トレを毎日やって鍛えている。今、自分の成長を感じています」。だが、この金はあくまで通過点に過ぎない。「この試合にも反省点はたくさんあるので改善したい。自分の組み手にできれば、投げられる心配もないし技も効いて来る」と話す中村選手には、2年後の金メダルへの道程がしっかりと見えているようだ。

■松本選手、金にも満足せず立ち技での一本を模索
 Tr2010111500707 松本選手(共同)

決勝を勝利で終えたのに、笑顔がなかった。初戦と続く準々決勝は一本勝ちしたが、準決勝と決勝は有効1つの優勢勝ち。「一本を取ってもおかしくない相手に、そうならなかった」(園田監督)。松本選手は「(9月の)世界選手権以降に克服しようと思っていた組み手ができていなくて、全然ダメでした。今のままだと(相手と)五分五分なので、いつ負けてもおかしくない。」今日の試合ほど勝ってもうれしくない試合はありませんでしたと厳しい表情で語った。

09年のロッテルダム世界選手権では、準々決勝で右手の甲を骨折。「それでもそれなりの戦い方があったのに、できなかった」とメダルに届かなかった自分の至らなさに悔し涙を流した。だが、その経験を肥やしにステップアップ。「視野が広がって、相手に対応することができるようになった。相手の技が見えて、こうしたらこう来るだろうなと先が読めるようになっています」。その成果は、9月の東京世界選手権の金メダルに結びついた。

だからこそ、今回の無念も新しい松本選手の柔道を生むはずだ。攻撃的な組み手で相手を追い込み、寝技で息の根を止める柔道で強さを発揮。だが、「1秒で終わるから」と、立ち技でも一本を取れるスタイルへの進化を模索する。園田監督は「寝技のコツを知っている。今の柔道はそのまま伸ばせばいいし、組み手のいろいろなバリエーションを覚えれば、立ち技が生きる場面は出て来る」と、飛躍に期待をかけた。

2010/11/16

競泳は中国と肉薄の争い 金メダルを確実に狙う我慢の大会

文・折山淑美

 

日本競泳陣が勢いのあるスタートを切った初日。今年7月からフォーム改良を始めている泳ぎで前半から積極的に突っ込んだ男子200mバタフライの松田丈志選手が、狙い通りに今季世界最高記録の1分54秒02で、3大会目にして初めてのアジアタイトルを獲得。その3ース前には今季急成長している男子400m個人メドレーの堀畑裕也選手が、平泳ぎで激しく追い込んできた黄朝升選手(中国)とのデッドヒートを0秒03差で制して優勝した。

 Tr2010111300803堀畑選手(共同)

 Tr2010111300826 優勝を喜ぶ松田選手(左)(共同)

だが2日目には中国の強さを嫌というほど味される結果になってしまった。特に、寺川綾選手と酒井志穂選手ともに優勝を狙っていた女子200m背泳ぎは、150mまでは酒井選手が優位に進めながらも、ラスト50mを30秒45という驚異的なラップで泳いだ趙菁選手(中国)に捲くられて破れた。しかも中村礼子選手が持っていたアジア記録を0秒67も更新する2分06秒46メダルに近い種目と自負していた日本チームの自信を打ち砕くような結果だった。

 

そんな流れを変えるべく臨んだ3日目は、男子100m平泳ぎ北島康介選手の登場で期待が盛り上がった。だが調整が十分ではない北島選手は、見事な復活劇を演じたパンパシフィック選手権の時のような伸びのある泳ぎではなかった。「気持ちを盛り上げたけど、無理やり感はあるよね」というように、前半の50mは19ストロークと焦りのある泳ぎに。結局ラスト25mで失速して4位に終わってしまった。

 

だがそれを救ったのはポスト北島を以前から期待されていた立石諒選手だった。余裕のある大きな泳ぎで50mをトップで折り返すと、そのままじわじわと北島選手や予選トップのポリャコフ選手(カザフスタン)を引き離し、ただひとりの10秒台となる1分00秒38でゴール。「スタートが上手くはまったので、前半から気持ちよく泳げました。久々に自分の泳ぎが出来て素直に嬉しいですね。昨日の50mは0秒53差で負けたしチームにとってもあまりいい流れじゃなかったから、今日は康介さんと二人でいい流れを作ろうと思っていたんです」と笑顔で話す。記録こそ59秒台に入らずもうひとつだったが、ここで勝ったことがこれからの立石選手にとっては大きな財産となるはずだ。

 Tr2010111500726 男子100m平泳ぎで優勝した立石選手(共同)

 

そんな男子平泳ぎに続いて流れを引き寄せたのは、男子200m背泳ぎの入江陵選手だった。泳ぎ込みが十分に出来ていない状態だったという彼は、勝つことを最優先した。スタートから十分に余裕を持った滑らかな泳ぎをし、30mでトップに立つと、50mを折り返してからは体ひとつ分にリードを広げる。結局、2位の張豊林選手(中国)に2秒以上の大差を付ける1分55秒45で前大会に続く連覇を達成したのだ。「今年はケガもあったりして体調が上がらずなかなかいいタイムを出せなかったけど、1分55秒台を安定して出せたのは良かったと思います。来年はそれを『もっといいタムが出せる』という自信にして頑張りたい」と、来年以降のレベルアップへの意気込みを口にした。

 Tr2010111500969 連覇を達成した入江選手(共同)

 

この大会、近年は世界に目を向けて積極的に海外から良いところを吸収しようとしている中国勢の強さに圧倒されている日本競泳陣だが、勝つべく選手が確実に勝っておくことこそ、次のチャンスでの飛躍を確実にするためには重要なことだ。我慢の大会で何個の金メダルを獲れるか。それこそがロンドンオリンピックへ向けての重要なポイントになってくるはずだ。

2010/11/15

男子カヌースラローム、羽根田卓也選手と矢澤一輝選手がそれぞれ悔しい銀メダル

文・折山淑美

 

大会3日目の11月14日、インターナショナルローイングセンターで行われたカヌースラローム。男子カナディアンシングルの羽根田卓也選手と男子カヤックシングルの矢澤一輝選手はともに、悔しさを覆い隠すような表情をしていた。


2レースで行われた前日の予選は、羽根田選手が2回とも2矢澤選手は1回目2位で2回目1位という成績でこの日の準決勝へ進んでいた。今年のW杯ランキングは羽根田選手が7位で、矢澤選手が13位。この大会に出場する選手の中では最高順位で、優勝候補の筆頭と目される存在だった。それだけにともに中国選手に後れをとっての2位通過は、納得いかないものがあった。


この日の準決勝も共に2位で通過。決勝で最初に登場したのはカナディアンシングルの羽根田選手だった。だが前半で、流れの下流から通過する赤ゲートに入る時にカヌーの先端をわずかにバーに当てるミスを犯してペナルティー2秒を受ける。その後は丁寧に攻めて、ゴールタイムも準決勝より2秒近く上げる93秒06に。ペナルティーを加えて95秒06で競技を終えた。


それに対し、地元開催での優勝を狙う中国の膝志強選手は積極的に攻め、しかもペナルティー0で92秒53でゴール。羽根田選手は悔しい2位に終わったのだ。「実力をまったく出せなかった大会ですね。体だったり心だったりにズレがあったのが原因だと思います。そのズレの修正が大会までに間に合わなかったのが、今回の数秒の差になって表れたのだと思います」こう話す羽根田選手は、高校卒業後は強い選手が多く刺激になると、スロバキアへ留学して指導も受け。世界のレベルにいち早く近づこうとする意識からだ。その中で今年は速さよりミスを少なくしてタイムに安定性を持たせることを課題にしてきたという。だがこの大会ではその課題を活かせず、4回ともミスをしてしまったと悔しがる。コース自体は難しいといわれるレベルではないが、ゲートの設定が少し難しめだったこともあり、それに対応し切れなかった。

Aflo_jyfa064070 ミスを悔やむ羽根田選手(アフロスポーツ)


続くカヤックシングルでは、矢澤選手が攻めのパドリングをした。各ゲートも最短コースをき、ゴールタイムはそれまでのトップタイムを2秒以上上回る87秒83を出した。だが前半のゲートで腕が僅かにバーをかすっていたために2秒減点で結果は89秒83になった。結局、最後にスタートした黄存光選手(中国)が、ゴールタイムこそ88秒15と矢澤選手を下回りながらもノーミスで終えて優勝を決めたのだ。


矢澤選手は「タイムはソコソコだったけど1回バーに当ててしまったから。それが一番悔しいですね」と苦笑する。世界で戦うためにもアジア大会は勝たなければいけないと思って臨んだ試合だった。いつもなら優勝しようと思うと焦るような面もあったが、今回は最初から優勝するつもりで来たため、そのようなことはなかったという。


「タイム差があまり開かないコースだから、ミスをしないことが一番重要だと思っていただけに悔しいですね。本番のコースでの練習期間も4日しかなかったので、そういう影響もあると思います」と矢澤選手は話す。選手達はそれを否定するが、中国勢地の利を活かした結果だともいえるだろう。

Aflo_jyfa064077 悔しい銀メダルとなった矢澤選手(アフロスポーツ)


チームを率いる馬場昭江監督によれば、コース設定で難しかったのは流れに対してゲートが正面を向くのではなく、斜めになっていて隙間へ入るような感じの設定が何カ所かあった部分だという。そこを強引に攻めればバーに触れしまい、慎重になるとタイムが伸びない設定だという。通常の世界大会ならコース設定者が複数いるが、この大会ではひとりだったためにその傾向が変わらなかった。比較的技術よりパワーを必要とされる設定でもあり、中国選手有利になったという。


春園長公チームリーダーは「ここで金メダルを獲っても、褒めるほどではないと思っていただけにガッカリしましたね。でも選手の方が、もっと悔しがっていると思います。ただ、世界と比べてもセンスの面では劣っているとは思わないし、羽根田は23歳、矢澤は21歳とまだ若いですから、これからもっと国際大会の経験を積んでいけば、勝負できるようになる」と話す。また、水中に置かれた人口構造物の深度が浅くてカヌーにぶつかるところもあるため、パドリングなどで深く攻めきれず、思い切っていけない部分もあったともいう。


カヌースラロームは筋力というより、水の流れを見極める眼や俊敏性などが重要な競技だ。技術もメンタルも、強い選手と戦う経験を積めば積むほど高められる。その点では日本人も、これからもっと世界に通用することが出来る競技といえるだろう。勝って当然と思って臨んで破れたこの大会。その悔しさが、二人に勝利への執念を今まで以上に植えつけるきっかけにもなるだろう。


この大会でシーズンを終えた選手達の来年の最大の目標は、まず世界選手権でオリンピック出場枠を確保すること。そこへの向かっての決意は、この敗戦でさらに強まったといえる。

2010/11/13

ライフル射撃松田知幸選手、予選8位から追い上げての銅メダル

文・折山淑美

 

「よりプレッシャーがかかる中で結果を出さなければいけないという思いもあって…。点を狙いすぎて空回りして得点が上がらないという結果になってしまいました。射撃特有のメンタルなものが出てしまいましたね。調子は良かったけど、最後の最後のトリガリングの部分で力が入ってしまい、グラム単位のズレが出てしまったんです」

 

冷静に試合を振り返る松田知幸選手。彼は 今年の世界選手権で2冠を獲得して、早々とロンドンオリンピック代表を決めている選手だ。だが、優勝を期待された大会初日の50mエアピストル予選では、決勝進出ぎりぎりの8位という結果に終わった。1回に10発撃つシリーズ6回の合計は556点。トップには10点差をつけられる苦戦だった。

 

だが「メダルを狙っていて8位だったので、もういくしかないと思っていた」という決勝になるとガラリと変わった。10射中10点台を3回出し、9.9点も3回という安定した射撃で、決勝ラウンドダントツの1位となる97.7点を出して予選との合計得点で、3位まで順位を上げたのだ。

 

「予選で3位につけていた選手が5点台を出したのも知っていたし、他の選手も8点台を出していたから、『もしかしたら』と思いました。終わってみるまで結果はわからなかったけど、上の選手が落ちてきてくれたので何とか勝負できたというところですね。満足はしないけど、8位からスタートしてメダルがれたから最低限のことは出来たかなと思います」

 

この試合には、北京オリンピック50m優勝の泰選手(韓国)や、同10m優勝の廃選手(中国)など、W杯などで活躍する選手も多く出場していた。世界選手権優勝で一気に注目されてプレッシャーがかかり、なおかつ強敵が揃っているという中で銅メダルを獲得できたという結果は、これからのことを考えたら自信になるともいう。

 Tr2010111300691 予選8位から一気に追い上げた松田選手(共同)

 

神奈川県警に勤務しながら競技をする松田選手は、射撃の練習時間を豊富に取れない環境だというが、これからもそれを変えるつもりはないと言う。「射撃が出来ない分、日常のあらゆることがそれ以外の練習だと考えるようにしています。何か嫌だなと思っても、それをやることでメンタルの練習になるし、子供とキャッチボールをするのも肩回りを柔らかくするトレーニングだと思えるし。日常生活の中で色々利用できることがあると思うんです」

 

ただ漫然としてW杯などに出るのではなく、戦うために出ようと思うようになって以来、365日射撃のことを考えようとしてきたことの答えが、決勝の土壇場で順位を上げられたという形になって表れたのではないかという。「2位になった泰選手とは6点弱の差だけど彼は世界記録も持っているし、オリンピックで金メダルもとっているから絶対的な経験値の差があると思っています。今回のようにメディアに注目されてプレッシャーを感じながらも結果を出していって経験値を高め、彼らと対等に戦えるところまで持っていきたいですね」

 

サッパリとした表情で冷静にこう話す松田選手は、10mエアピストル(14日実施)での発奮を誓っていた。彼にとってこのアジア大会は、世界チャンピオンを経験するという新たな立場になって臨む、最初の大会となったのだ。

Tr2010111300713 意味ある銅メダルを獲得した松田選手(共同)

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