トリノ2006
スペシャルコラム
誘いへの夢舞台
長田渚左さん
11日未明、カラスよりも早く起きてテレビの前に座った。
吐く息が白い。冷気だけはトリノの街に負けない中で期待が膨らむ。
開会式はオリンピックの中でも大好きな時間だ。
国の特色、市の個性と人の持ち味、差異の匂いに高ぶるからだ。
写真提供:フォート・キシモト
北イタリアのトリノ、今から145年前に群雄割拠を続けていた大地を一つにまとめたのが、サヴォイア家のエマヌエーレ2世だったという。サヴォイア家の盛衰と最初の王都、トリノでのオリンピック開催。
ダイナミックに歴史がうねるイタリアへの豊饒な思いが強かった。
個人的に深い個性へのこだわりがあったことは、否めない。その割には……と言ってしまっては失礼だろうか。あまり突き動かされないオープニングだった。
異なる言い方をすれば、非と思える欠点は見当たらない。“情熱はここに息づく”というテーマもまっとうなものだった。
写真提供:アフロスポーツ
アトランタオリンピック、体操の金メダリスト選手のたたくハンマーが火を噴くスタート。400人を越すダンサーの出し入れ。炎を背負ったスケーターが走り回るスリリングな味つけ。
人気の番組風にいえば、ヘェ? ヘェ?と小さな驚きに満たされた。
美しきアルプスに隣接したスイスやドイツなど7カ国への敬意や奥ゆかしさも表現されていた。
ただ多くの市民ボランティアを使ってまとめあげた巨大な“スキージャンパー”にアイディアはあったが、今イチ、テンポが良くない。「欽ちゃんの仮装大賞」に登場していたら合格しただろうか。
いろいろと欲張った構成の割には、テンポの濃淡にスパイスが足りない気がした。
キャメラの切り換えも、見たい時に見たいものが見られないようなじれったさを味わったのは、私だけだろうか。
写真提供:アフロスポーツ
今回の演出は、バルセロナオリンピックでアーチェリーで聖火をともして名を上げたリック・バーチ氏だった。
あのときにはシンプルかつダイナミックな発想で、世界中が舌を巻いた。
今回の大舞台での仕事には、外野の声が巨大だったのかもしれない。
世界中の老若男女を意識するあまり、部分的には光ってもトータルでの印象は薄くなった。参加する国と地域が最大になったのならば、南国や戦火の中からの来訪選手をもっとクローズアップしてほしかった。
母国で雪を見たことのない人やウエアをきるだけで、平和を噛みしめる人も少なくなかったであろうから。ともかく選手が主役の毎日が今、始まる……。人のあらゆる可能性が、たくさんの勇気に見える瞬間が待ち遠しい。
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