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トリノ2006


スペシャルコラム

夢をありがとう

川端絵美さん

大会終盤、メダル未だ獲得ができていなかった日本代表選手団に大きな喜びをもたらしたのが、大会前から一番期待されていた「女子フィギュアスケート」。フリーの日は、自分の担当するアルペン競技後、テレビに釘付けになっていた。
荒川静香選手の演技が終わってから、どうなる事かと残りの選手を見ていたが、完璧だった荒川選手の演技に飲み込まれたかのように、ロシア選手のミス。
荒川選手の金メダルが決まった時は、すごい!!やった!!と、誰かとこの喜びを共有したいと、見ていた者どうし大騒ぎをした。そんな彼女を見て一番感じたのは、リンクに立った時から、今まで見た事も感じた事もない雰囲気があることだった。誰もがオリンピックの舞台で願う「金メダル」「メダリスト」の栄光を何としても手にするという気魄ではないし、100%力を出さなくても勝てるという余裕とも違うものだった。
総て整え、自分を信じ、心静かに戦うというのだろうか、なにか超越したものだった。勝った瞬間も涙の喜びとは違って、しっかりと自分を見つめた勝利の瞬間という感じだった。
大舞台でどうしてここまで冷静になれたのか、彼女の心の中をのぞいてみたくなった。
帰国の時、フィギュア解説者の五十嵐文男さんと一緒になり、五十嵐さんも彼女の超越した雰囲気について話してくれた。「素晴らしい」の言葉と同時に、アスリートとして色々と聞いてみたくなる金メダルシーンだったという。


写真提供:アフロスポーツ

続いては、50年ぶりのメダルを賭けて滑った、アルペン男子回転。会場で見たかったが、ラジオ放送のため、メインメディアセンターで応援することとなった。回転はアルペンで一番期待されていたが、ちょっとのミスで旗門をまたいでしまうようなこの競技、どうなることだろうと見ていた。
途中棄権が続出したレース展開で、4名出場した日本の選手は、3名が1回目に3位、8位、17位とトップ30位に残り、17位の湯浅直樹選手でもトップと1秒39差。誰が来てもおかしくないという状況に。
トリノ市内のメインメディアセンター内でもスキーを知っている放送関係者は肩に力が入ると、大興奮。

夢を賭けた2回目は、ナイターレース。1回目で上位30位までの選手が、2回目は30位の選手から逆の順に1位の選手まで滑るルールで、30番目に滑る選手がゴールした時点で、優勝と順位が事実上確定したことになる。
日本代表選手として最初に滑った湯浅選手は、スーパーランでトップに立つ。
それから来る1回目で湯浅選手より速かった選手がそのタイムを抜けないまま、8位だった佐々木明選手が登場。いつもより少し固い表情だったが、攻撃的なすべりを期待。しかし、旗門をまたいで途中棄権。オーストリア勢が湯浅選手のタイムを抜き、1回目トップ3の先頭で皆川賢太郎選手登場。急斜面は少し抑え、緩斜面で稼ぐというしっかりした滑りでゴール。アルペン界の期待の重圧を跳ね返す滑り。若きホープから怪我で底を見、またトップに立った彼だからできた滑りだったといえるだろう。
しかし、ゴールした時点で3位、残る2名を待つ。1人は途中棄権。最後の選手は完璧なすべりでトップに立ち、オーストリア勢の表彰台独占となった。そして、日本の夢は100分の3秒差で4位となり、メダルはかなわなかった。
確かに、メダルまであとちょっとと思うからとても悔しい気分になるが、単独種目では、私とカルガリー冬季大会で滑降に出場した千葉信哉さんの11位が最高だったし、3名という選手がトップを狙える位置にいるという層の厚さが出てきていることを見て欲しいと思う。


写真提供:アフロスポーツ

ここに書いた荒川選手と皆川選手はどこか似ている。
技術もさる事ながら動じない心を持った2人のように感じた。 
今回、メダルが取れなかったといわれているが、苦手といわれているクロスカントリー女子で入賞者が出るなど、昔から行われている競技で頑張りがあったと私自身は感じでいる。逆に新しい競技については、実力というより事前の報道が過剰であったとも思う。どの選手も全力で戦ってきたことは間違いない。
17日間、いろいろな結果だった。でも、オリンピックの舞台に立つことができない私たちは、「夢をありがとう、また次への夢をみせて」とすべての選手にエールを送りたいと思う。

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