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トリノ2006


スペシャルコラム

トリノに舞った髙橋大輔選手

後藤忠弘さん

ショートプログラムで1番、シングルフリーでは最終の24番—、偶然とはいえ最大限にプレッシャーのかかる滑走順が髙橋大輔選手を待ち受けていた。
オリンピックのような大舞台で多くの選手の勝敗を決めるのは、技術力の差より精神力の差によることが多い。ショートプログラムの髙橋選手は、トリプルアクセル(3回転半)ジャンプの着地が決まらなかったほかは無難に演技をこなし、昨年(2005年)世界選手権2位のジェフリー・バトル選手(カナダ)を抑えて5位につけた。


写真提供:アフロスポーツ

しかし、一日置いたシングルフリーでは、またしても“試練”が髙橋選手を待っていた。ショートプログラムとは逆に、今度は全選手の中で最終滑走の24番となった髙橋は、シングルフリーのプログラムの最初に4回転ジャンプを組み入れた。“守り”の姿勢を捨て、“攻め”に出たわけだが、朝の練習では決まっていたという4回転ジャンプは、無念にも、この大一番では失敗に終わった。


写真提供:アフロスポーツ

これが尾を引いたのか、次のコンビネーションにする予定だったジャンプが単発に、アクセルを軸にしたコンビネーション・ジャンプは、二つ目のジャンプの回転が足りずに着地するなど、プログラム前半のジャンプに失敗が目立ってしまった。後半はジャンプをきちんと決め、スピンも申し分なかったが、シングルフリーでの総得点は131.12点で9位。73.77点を獲得したショートプログラムとの合計得点は204.89点で8位となった。8位という成績は1964年インスブルック冬季オリンピックの佐藤信夫選手とのタイ記録で、日本男子の歴代2位(最高位は前回のソルトレークシティー冬季オリンピックでの本田武史選手の4位)。


写真提供:アフロスポーツ

土壇場での演目の難しい方への変更は、そのこと自体が大変に難しく、成功の確率は低いものだ。結果として高橋選手の挑戦は失敗に終わったが、改めて勝ちにこだわった姿勢は評価できる。昨年からの新しい採点法の実施により、高い点の採れる“4回転ジャンプ競争”が始まっている。しかし、中には“背伸び”をしての競争も見られ、そのことが逆に3回転ジャンプの失敗を誘発しているように思える。今大会の上位者にもそれが見られた。フィギュアスケートはジャンプ競争ではない。ジャンプを成功させるのも、基はエッジワークであり、それが端的に見られるのはスケーティングやステップである。その意味で、すでにそれに定評のある髙橋選手の今後が待たれるところだ。

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