2010/11/23
クルム伊達、進化し続ける40歳が日本チームを奮起
文・高野祐太
40歳になったクルム伊達公子選手が日本のエースとして女子団体、シングルス、ダブルスの3種目に出場するフル回転の活躍。世界ランキング46位、第1シードとして出場した女子シングルスでは世界ランキング72位、第4シードで地元中国の彭帥選手との準決勝で敗退したものの、銅メダルを獲得した。
アジア大会特有の過密なスケジュール。この前日には、森田あゆみ選手と組んだ女子ダブルス準々決勝でフルセットの敗戦の後、わずか1時間30分しか間隔を空けずにシングルスに臨み、李珍雅選手(韓国)をストレートで下していた。加えて、長いシーズンでたまった疲労が限界すれすれまで来ていた。
それだけに、もう少しだけ休息が与えられていたなら、優勝した1994年広島大会以来の決勝進出も十分にあり得る——そんな中身の濃い2010年シーズンの締めくくりだった。クルム選手にしかできない高等技術。尽きることのない精神的なタフさ。重要な場面でこそ試みる大胆な攻撃。どれを取っても40歳のアスリートのものとは思えないパフォーマンスが演じられていった。
世界ランキング20〜30位にまで上がったことのある実力者の彭選手に対し、クルム伊達選手が手にする武器は、ボールの上がりばなをたたくライジングショットだ。タイミングが速いため、相手に時間的な余裕を与えず、角度のある打球でウィナーを重ねていく。第1サービスの確率が悪く、サービスゲームを有利にスタートできない苦しい状況でも、このショットを駆使して前に進んだ。
第1セットはタイブレークの末に落とす。だが、ここで展開を変えて来るのが2度目の現役ながらも現代テニスに挑んでいるクルム伊達選手の真骨頂だ。相手の隙を突いては前に詰めて、ボレーで仕留める攻撃を織り交ぜ出した。加えて、ドロップショットやバックハンドのスライスなども組み込み、相手のパターンを崩すと主導権を引き寄せた。村上武資監督は「ネットをからめた速い展開が、他の女子には一番無いところ」とクルム伊達選手の優秀さを指摘した。
最終第3セットは力尽きたが、フルセットを戦い切った。幾度もピンチは訪れ、リードされる場面も多かったが、2時間半の間に精神的に根負けするということはなかったように見えた。
そんなクルム伊達選手の奮闘振りは、日本チームに大きな刺激となった。女子団体、女子ダブルス、混合ダブルスに出場した19歳の新鋭・土居美咲選手は「伊達さんからはゲームの流れを読む力とかこれをやると決めたらやり切ることとか、学ぶことがたくさんあります。ボレーへの出方がすごくうまい。私も持ち味のフォアストロークを生かすため、ネットプレーに挑戦している最中なので、そこを一番学びたい」。村上監督も「あれこれアドバイスする訳ではないが、戦い方や集中力など、試合を見ていれば学ぶものはすべてある」と語った。
未だ衰えぬテニスのレベルや日本テニス界への貢献を考えると、2年後のロンドンオリンピック出場を期待してしまう。それに関しては「考えていません。まずは来年1年間を怪我なく戦い抜くこと。それもまったく予測はつかない」と否定したが、「今年はグランドスラム大会では全仏で1回戦を突破しただけ。オフは課題に取り組み、来季は良いパフォーマンスをしたい」と来季に向けて意欲を高めている。
今季は9月の東レ・パンパシフィックオープンでマリア・シャラポワ選手(ロシア)を破るなど、復帰後も確実に前進を続けるクルム伊達選手。チャレンジの先には、いずれ2年後も見えて来るはずだ。
女子ダブルスにも出場し若手に刺激を与えたクルム伊達選手(奥)(共同)
女子団体にも出場した伊達選手(右)(PHOTO KISHIMOTO)