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TEAM JAPAN DIARY

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2010年9月

2010/09/21

「JOCナショナルコーチアカデミー」 杉田正明氏がワールドカップの高地対策について講義

真のエリートコーチ育成を目指し味の素ナショナルトレーニングセンターで行われている「JOCナショナルコーチアカデミー」で9月9日、サッカー・ワールドカップに高地トレーニングの専門家として帯同した杉田正明・三重大准教授による講義が行われました。杉田先生は、今回取組んだ高地対策について報告するとともに、医科学サポートを現場で生かすためのノウハウをコーチ陣に伝えました。

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今回のワールドカップでは、日本が出場する予選リーグ3試合のうち2試合が標高1400m以上の高地で行われました。酸素濃度が低い高地でも「走るサッカー」を実現しようと考えた岡田武史監督は、1990年代から陸連で高地トレーニングを研究している杉田先生に対策を依頼したのです。杉田先生は、高地でトレーニングすることで筋肉の酸素利用効率を上げる「高地順化」が適切な対策だと判断。「事前準備」「11日間の高地合宿中にやること」「低地に下りてから効果を維持するために行うこと」と、段階を分けて長期計画を立てました。

◆事前準備、低酸素吸入で効果アップ

まず2月から、高地での貧血予防のための血液検査を行いました。高地では、血液中のヘモグロビンや総たんぱく、血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄)などが失われやすいため、値が低かった選手には、栄養指導やサプリメント配布を行いました。また4〜5月には、JISS(国立スポーツ科学センター)の低酸素環境を使い、高所適応テストを実施。標高2000m相当の疑似高地で走ってもらい、動脈血の酸素飽和度や心拍数から、高所への適応が早い選手・遅い選手などを事前に把握し、現地での対策の参考にしました。

日本代表のメンバーが発表されたのは5月10日。出発前に取組んだのが、事前準備のメインともいえる「低酸素吸入」でした。高地合宿にスムースに入り効果を上げるために、低酸素状態に身体を慣らしておくものですが、JISSの低酸素施設に集まることが不可能なため、携帯式の低酸素マスクを利用。これは日本初の試みでした。「初めての取り組みを現場に納得してもらうためには理論武装が必要。英語のマニュアルを日本語に訳して渡し、必要性を理解していただきました」と杉田先生。海外から取り寄せた低酸素マスクを協会から選手1人1人に配り、自宅で吸入を行ってもらいました。

◆高地合宿、毎日の尿検査で疲労チェック、高酸素も吸入

5月26日からいよいよ、標高1800mのスイス・ザースフェーでの高地合宿がスタートしました。マラソン選手などの間で「高地トレーニング」と呼ばれるものは、血液中の酸素含有量を増やすもので3週間以上の滞在を必要としますが、今回行われたのは筋肉の酸素利用効率を上げる「高地順化」。日本代表が滞在した11日間でも十分な効果を得られます。

杉田先生は、全選手に対して、毎日の尿検査とアンケート等を行い、高地順化、脱水、筋肉や内臓の疲労度など、緻密なコンディションチェックを行いました。

さらに高地滞在中には高酸素吸入も行いました。30%の高濃度酸素(平地の酸素濃度は21%)を吸入できる携帯式装置を日本から選手分持参したのです。選手やスタッフからは、「低酸素トレーニングに来ているのになぜ高酸素を吸うのか」と疑問を投げかけられ、杉田先生は「高地では体力が奪われやすいため身体がぼろぼろになる。高酸素で疲労を回復しやすい状態を作りながら、トレーニングすることが大切」と説明。みな納得し、ほとんどの選手が高酸素吸入を行いました。

Sugitasaasfee1_2ザースフェーの練習場で高地順化のサポートをする杉田先生

また高地合宿終盤に選手の疲労がピークに達していることに気づいた杉田先生は、低地に下りた後にトレーニングの強度を下げるよう提案。岡田監督は、初戦のカメルーン戦3日前はオフ、その前も強度を減らすメニューを決定しました。「試合直前に休むのは異例のことだったそうですが、監督が大きな決断をして下さった」と杉田先生は振り返りました。

計画通りの対策を行った杉田先生でしたが、初戦前夜は「いい準備ができている自信はあった。それでも『選手の足が動かなかったらどうしよう』と考えると、眠れなかった」といいます。しかしそんな心配をよそに、高地順化した選手たちは「走るサッカー」を実現し、初戦のカメルーンを撃破。そして試合後、うれしいことがありました。マッサージを受けていた遠藤保仁選手がこう話したのです。「ここって本当に高地なの?ぜんぜんキツくなかったよ」。それは高地対策の勝利でした。

◆研究を現場に生かす、チームの一体感にカギ

高地対策の成功を支えたのは、入念な計画だけではありません。杉田先生は、研究に基づく自分の意見を伝えるのに、文章にしたり、なるべく簡潔に話したり、必要だと思えば言いにくい雰囲気でも伝える、といったやり方を貫きました。「専門家としてのプライドを持ちながら、科学者ぶらずに自分のやれることは積極的にやる。選手に慣れ慣れしく近寄らない、挨拶をきちんとするなどの態度も大切」と杉田先生。スタッフとコミュニケーションを図りながら、自分の研究を現場に還元していく姿勢が重要だと伝えました。逆に現場側となるコーチたちに対しては、「スポーツ医科学を活用することは、研究者の資質もふまえながら人を使うこと」と前置きし、コーチ側も研究者とうまく付き合うことを提案しました。

杉田先生は「今回のワールドカップでは、監督をはじめコーチ、スタッフ、選手すべてに一体感がありました。いい準備が出来ている、支援はしっかりやったと全スタッフが思うことができて、それを選手も感じていたことが、結果につながったのだと思います」とまとめました。

どんなに優れたスポーツ医科学の研究でも、実際に現場で結果につなげるためには、やはり研究者と現場スタッフとの交流が重要になります。スポーツ医科学の分野でもまた、チームジャパンとしての結束力が求められていることを痛感させされる講義となりました。

Sugita2 ワールドカップ帯同の経験から医科学サポートについて語る杉田先生

2010/09/17

柔道世界選手権2010東京大会 女子は金6、銀3、銅4獲得

文:松原孝臣

各階級に各国2名のエントリーが認められた影響がもっとも大きかったのは、実は日本の女子だった。
大会を振り返ると、あらためてそう思える。
8階級、日本勢同士の対戦となったのは、48kg級、52kg級、63kg級と、実に3階級にわたった。

これらの階級の中で最初に行なわれたのは、3日目、9月11日の63kg級である。昨年ロッテルダムで行なわれた世界選手権では、上野順恵選手がオール一本勝ちで金メダル。連覇をかけて決勝に臨んだ上野選手の前に立ちはだかったのは、初戦からオール一本勝ちで勝ち上がってきた田中美衣選手だった。

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2回戦を除き全て一本で勝ち上がってきた田中選手(アフロスポーツ)

これまで何度も対戦し、互いに手の内を知る両者の戦いは、拮抗した者同士ならではの緊迫感に包まれるものとなった。隙は見せられない、ポイントは与えるわけにいかない。決め手のないまま、時間は過ぎていく。延長でも勝負はつかず、旗判定にもつれこむ。

結果は、3−0で上野選手。見事、連覇を遂げることになった。

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昨年に続く2連覇を遂げた上野選手(フォート・キシモト)

4日目に行なわれた女子の2階級、48kg級と52kg級は、日本勢が決勝の畳を独占する。
48kg級には福見友子選手、52kg級には中村美里選手と、昨年の世界選手権を制し、世界ランク1位の第一人者がいる。
当然、優勝争いの本命と見られていた。だが、両階級は国内の代表争いのほうが世界で勝つより難しい、と言われるほど、層の厚い階級である。それを裏付けるように、決勝に進んだのは、48kg級が浅見八瑠奈選手、52kg級は西田優香選手だった。「第2代表」とみなされて出場した彼女たちは、自分にも世界で戦う力があることを証明するために、強い決意をもって大会に臨んでいた。

「負けたらあとがないと思っていました」浅見選手(右)
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今年の4月に開催された全日本選抜柔道体重別選手権の決勝戦では福見選手(左)に敗れている(フォートキシモト)


「ここで負けたらロンドンオリンピックはない」西田選手(右)
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決勝で対戦し、中村選手の強さを実感したと語る(フォート・キシモト)

言葉にもそれが表れていた。
先に決勝が行なわれたのは48kg級。準決勝まですべて一本勝ちで進んだ浅見選手だったが、決勝の福見選手相手には、たやすく技をかけるわけにはいかない。序盤は組み手争い、特に釣手で福見選手がうまく先手を取る。
だが徐々に浅見選手も技を仕掛けると、福見選手に2つの指導が与えられ、浅見選手に有効のポイントが入る。そのまま試合は終了。浅見選手が初出場で優勝を果たした。

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48kg級。世界選手権連覇を狙った福見選手(左)を降し、優勝した浅見選手(右)(フォート・キシモト)

続く52kg級決勝。国内外の7大会連続優勝中の中村選手に対し、西田選手は立ち上がりから巴投げを仕掛ける。思いがけない技に、中村選手の体が浮く。
ポイントを取るまでには至らなかったが、西田選手が対策を十分に練ってきたことが分かる瞬間だった。さらに背負い投げを中心に責める西田選手。すると、中村選手に一つ目の指導が与えられる。ここから、激しい技の掛け合いが始まる。延長に入っても均衡は破れない。
旗判定の結果は、3−0で西田選手だった。

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西田選手は 得意の投げ技で北京オリンピック銅メダリストの中村選手に挑んだ(アフロスポーツ)

「1回戦のときから、決勝の相手は中村選手と思ってやってました」
 まさに執念の勝利だった。

こうして本命が敗れる展開に、全日本女子の園田隆二監督は言った。
「守ろうとする者と、後がない、と攻める立場にいる者との差が出ました」
国内でも僅差の争いを続けてきただけに、力に大きな差はない。その中で勝敗を分けたのは、たしかに、気持ちの部分だったのかもしれない。

それは初日の78kg超級で金メダルを獲得した杉本美香選手にも言える。
アテネオリンピック金メダル、北京オリンピック銀メダルと絶対の第一人者の塚田真希選手の陰に隠れていた杉本選手にとって、2名の代表枠は大きなチャンスであり、ここにかける気迫が優勝につながったのだ。杉本選手は最終日の無差別級も制し、2冠を達成した。

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78kg超級、無差別級と2階級を制した杉本選手(アフロスポーツ)

このほか、57kg級では松本薫選手が昨年5位に終わった悔しさをばねに、初優勝を果たした。ちなみに松本選手の金メダルは、日本通算100個目でもあった。

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世界柔道通算100個目のメダルは松本選手がもたらした(アフロスポーツ)

さらに70kg級で國原頼子選手、78kg級で緒方亜香里選手、78kg超級で塚田選手、無差別級で田知本愛選手が銅メダルを獲得し、5日間で獲得したメダルは、金が8階級中、実に6個、銀が3個、銅が4個。

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70kg級の國原選手(左)(フォート・キシモト)、78kg級の緒方選手(右)(アフロスポーツ)

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78kg超級の塚田選手(左)、無差別級の田知本選手(右)(アフロスポーツ)

2名のエントリーが可能になった大会で、国内の激しい争いが世界の舞台に持ち込まれたのが今回の世界選手権だった。そして日本はまざまざとレベルの高さを見せつけた。
今後、海外からのマークはさらに厳しくなる。その中で今の地位を保つためにはいっそうの切磋琢磨が求められる。
いや、きっと言われるまでもなく、敗れた第一人者たちも、勝者も、すでに次へと目を向けているはずだ。でなければ、この激しい争いの中で勝ち残れないことを知っているからだ。
 

2010/09/17

柔道世界選手権2010東京大会 男子は金4、銀1、銅5獲得

文:松原孝臣

柔道の創始者であり、アジア初のIOC委員に就任した嘉納治五郎の生誕150周年にあたる本年、世界柔道選手権は9月9日から13日の間、52年ぶりに東京で開催された。各階級に各国2名(無差別級は4名)のエントリーが認められたほか、いきなり足を取るなどの攻撃が禁止されるなど、変革の波の中での大会となった。

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本大会、日本が獲得したメダル総数は過去最多の23個(金10、銀4、銅9)(アフロスポーツ)

その中で、日本男子代表のテーマは、「雪辱を果たす」ことにあった。昨年、ロッテルダムで行なわれた世界選手権では金メダルがゼロ。痛烈な批判が浴びせられ、監督陣や選手自身も大きな悔しさを残した1年前からの復活をかけての戦いである。
ましてや自国開催、大会を前にどこか重圧を感じているかのような雰囲気もあったが、それを打ち破ったのが、大会初日の9月9日、100kg級に登場した穴井隆将選手だった。

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穴井選手は前回ロッテルダム大会では銅メダルだった(アフロスポーツ)

初戦で一本勝ちを収めると、2回戦では開始わずか5秒の一本勝ちで波に乗り、決勝ではグロル選手(オランダ)を相手に圧力をかけ続け、指導2つで有効を奪い優勝。自身初、そして日本男子今大会第1号となる金メダルを獲得したのである。

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決勝戦では延長戦の末念願の世界チャンピオンに (アフロスポーツ)

それは2つの点で大きな意味を持つものだった。学生時代から常に大きな期待を集めてきた穴井選手は、長年壁を破れずにきた。立ち技の切れ味は、他の日本代表選手も認めるほどずば抜けている。だが、どこか勝負強さに欠けてきた。メンタルの弱さを指摘されてもきた。ようやく初出場となった昨年の世界選手権でも銅メダルに終わっている。

だが今年は違った。象徴は、デスパイン選手(キューバ)との準決勝である。先に投げ技で有効を奪われる苦しい展開となりながら、攻勢に出る。相手の指導2つで追いつき延長戦へ入り、内股で技ありを奪い勝利をおさめた試合だ。

それまでなら、追いつくこともなく敗れていたかもしれない。だが今までにない執念が試合に表れていた。試合後の言葉が印象的だ。
「とにかく気持ちを前に出そうと思いました。去年と違うのは精神面ですね」
自身の殻を破った勝利は、日本男子の呪縛を解き放つことにもつながっていく。

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決勝戦では篠原監督に「自信を持って頑張れ」と言われ臨んだ(フォートキシモト)

大会2日目には、90kg級、19歳の西山大希選手が前に出る積極的な柔道で銀メダルを、続く3日目には73kg級で秋本啓之選手が金メダルを獲得する。

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西山選手は試合後、「金メダルしか考えていなかったので結果には満足していない」とコメント (アフロスポーツ)

秋本選手は高校時代、66kg級ながら無差別で行なわれる全国高校選手権を制すなど、将来を嘱望された。だがその後、減量苦から摂食障害になった上に怪我も追い打ちをかけ、苦しい日々を過ごしてきた。
昨年73kg級に階級を上げると、本来の能力を発揮。今大会でも初戦から得意の背負い投げや寝技で順調に勝ち上がる。準々決勝では粟野靖浩選手から背負い投げで一本を奪うと、準決勝では北京オリンピック銀メダリストであり世界選手権連覇中の第一人者、ワン・キチュン選手(韓国)を相手の堂々の勝負を挑む。再三寝技を中心に攻め立て、旗判定で3−0の勝利。決勝のエルモント選手(オランダ)も抑え込みで一本を奪った。
「(金メダルを獲って)いろいろな思いが巡っていました。このメダルは重みが違います」

世界の壁が厚いと言われる73 kg級での金メダルは、日本にとっても価値の大きなものとなった。

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世界選手権2連覇中のワン選手との準決勝は延長戦の末勝利。秋本選手は親子2代での世界選手権チャンピオンとなった(フォートキシモト)

今大会は、2名エントリーが認められたことから、前述の西山選手を含め、将来性も考慮しつつ、二十歳前後の若手も代表に名を連ねた。その一人が4日目の66kg級に登場した森下純平選手だ。
内股を得意とする森下選手は、1回戦から4回戦まですべて一本勝ちという思い切りのいい柔道で快進撃を見せる。準々決勝では昨年のチャンピオン、ツァガーンバータル選手(モンゴル)に優勢で勝利すると、決勝ではクナ選手(ブラジル)から払い腰で一本勝ち。見事、優勝を決めた。

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オリンピックでの金メダルが目標と語る20歳の森下選手(アフロスポーツ)

最終日には無差別級で21歳の上川大樹選手が、決勝で100kg超級との2冠を狙ったリネール選手(フランス)を旗判定で下し優勝。

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世界ランク1位のリネール選手を降した上川選手(アフロスポーツ)

終わってみれば、日本男子は金メダルが4個、銀が1個、銅が5個。昨年の雪辱を見事果たした。そして、エースと目されてきた穴井選手の勝利や、世代交代が叫ばれる中、若い世代の中に結果を残す選手が出たことなど、今後へ向けて中身の濃い大会となった。

昨年から強化をより厳しくしたことも、今大会の成果につながったと言える。
例えば、昨年8月末のロッテルダムの世界選手権での不振のあとで、代表選手は欠場してもおかしくない11月の講道館杯への出場を義務付けるなど、代表選手も含めた一律での競争を促した。全日本合宿では、1日に3部の練習を課すこともあった。ことあるごとに、「金メダルじゃなければ負け」と言い続け、意識改革を求めた。

さらに、「組んで技をかける柔道」方向を目指すルール改正も追い風だった。
だが安穏とはしていられない。今回の活躍で海外からのマークも一層厳しくなるはずだ。金メダルを獲得した個々の選手について評価する全日本男子の篠原信一監督も言う。
「絶対に来年は厳しくなります」
ほんとうの勝負は2年後のロンドンオリンピック。敗れた選手たちも含め、今大会を糧に、さらなる飛躍を期待したい。

2010/09/13

JOCキャリアアカデミー フィギュアスケート選手の保護者にセミナー

トップアスリートの育成には家庭でのサポートも重要となることから、JOCキャリアアカデミーは、長野県・野辺山で、フィギュアスケートの保護者向けにセミナーを開催。オリンピックのアトランタ、シドニー、アテネの3大会でメダルを獲得したシンクロナイズドスイミングの武田美保さんの母、珠子さんに興味深いお話をご講演いただきました。

講演会は、日本スケート連盟が主催するフィギュアスケートの「全国有望新人発掘合宿」の初日に行われました。この合宿では、9〜11歳で規定の級に合格した選手を集め、全日本ノービス選手権大会への推薦出場などをかけた選考会が行われます。お子さんたちを選考会に引率した保護者らが、不安と期待の入り混じる様子で講演会に参加しました。

Zentaidsc01747多くの保護者が参加した

Takeda講演した武田さんの母

武田美保さんは7歳でシンクロナイズドスイミング教室に入り、13歳でジュニア日本代表に。17歳でナショナルA代表入りをすると、1996年アトランタオリンピックから3大会連続で5つのメダルに輝きました。

母の珠子さんは、美保さんを育てるにあたり、家庭での会話を大切にしていたそうです。「練習については基本的にはコーチにすべてお任せしていますが、自宅に帰ってきたら『今日は何を怒られたの?』と聞くようにしていました。子供は自分が何を注意されたのかを私に伝えようと思い出すことで、頭の中で整理できるんですね。これを毎日繰り返すことで、だんだん自分が何を怒られているのか、ちゃんとした文章で話せるようになっていきました。怒られるということは先生から見てもらえているという意味ですから、良いことなんです。私たちは怒られて喜ぶ家族でしたね」と珠子さん。日記をつけて振り返りをする選手も多くいますが、美保さんの場合は家族の会話の中で振り返りをしていたということです。

また、コーチ選びについても話しました。選手や保護者のなかには、より良いコーチを求めて指導法を比較してしまうこともありますが、「コーチに対して異論を持ってはダメです。様々なコーチが違う指導をしたとしても、それぞれの教えを信じて練習することでその技の感覚を体感できて、色々な体感を会得できることで自分のやり方を見つけていくんです。だから親があれこれ言ってコーチを選ぶのはおかしな話ですね」と話し、コーチを信頼することが大切だと話しました。

さらに、親の役割についても自身の取り組みを紹介。「『自分の娘がこうなったらいいな』という親のエゴは必ずあります。でも親はお金を出して、練習には口を出さないもの。だから心の面で、支えになるようにしていました。私は毎日2時間、娘にマッサージをして体が柔らかくなった気にさせたり、『あんたはオーラがある』と子供の時から言ってその気にさせたりしていました」と珠子さん。コーチと親の立場を分けることに秘訣があるようです。

また勉強との両立についても、「勉強もスポーツも両方やることが基本。引退してからの人生のほうが長いのです。勉強をすることは人間としての基礎を作ることになりますから、成績が悪いときは叱りましたし、練習の合間や昼休みに短期集中で宿題を終わらせるようにさせてきました」と、勉強もおろそかにしなかったことを話しました。

Ogawatakeda 保護者からの質問に答える武田さん(左)

どのテーマも、毎日の生活に直結する興味深い話ばかり。集まった約50人の保護者らは、メモを取り、大きくうなずきながら武田さんの講演会に聞き入っていました。保護者の方々の的確なサポートが、未来のオリンピアンにつながります。今回の講演会で学んだことを、お子さんの活躍へと繋げていただけるよう、願ってやみません。

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2010/09/11

ローマオリンピック金メダルから50年、日本体操協会が記念式典

1960年ローマオリンピックの体操男子団体総合金メダルからちょうど50年となる2010年9月7日、日本体操協会は、国立競技場で記念式典を行いました。当時の選手のほか、審判員、チームリーダーなど日本代表選手団22名のうち13名が出席。50年前を振り返るとともに、今後の体操ニッポンの飛躍を誓い合いました。

Danshi4 男子団体総合の元日本代表選手たち

ローマオリンピックで日本は、ソ連が優勢と見られた情勢のなか、男子が団体総合で初の金メダルを獲得。そこからオリンピック5大会連続、世界選手権5大会連続の団体総合金メダルを獲得し、“体操ニッポン”の黄金時代を築きました。1976年のモントリオール大会を最後に金メダルには恵まれなかったものの、2004年アテネオリンピックで28年ぶりとなる金メダルを獲得。北京大会でも銀メダルを獲得し、体操ニッポンの潮流は復活しつつあります。

式典では、男子団体総合チームの小野喬さん、相原信行さん、鶴見修治さん、三栗崇さんの4名が壇上にあがりあいさつ。1960年当時の映像がスクリーンに写しだされ、すでにご逝去された遠藤幸雄さん、竹本正男さんの演技も紹介されると、集まった方々から「懐かしい!」「さすが上手!」などと拍手喝采が起きました。

小野さんは「ちょうど50年目となるこの日に、みなで祝うことができて幸せです。内助の功だった女子選手団や先生もお元気でいらしてくださって嬉しいです。ローマの活躍を次のロンドンへつなげる気持ちで、今日の日を祝いましょう」と、あいさつしました。

Syuugou 当時の体操日本代表選手団

Medal 男子団体総合の金メダル

またローマオリンピックの水泳・競泳男子400m自由形で銀メダルの山中毅さん、ウエイトリフティング・バンタム級で銀メダルの三宅義信さんも参加し、記念すべき50年の節目を祝福。国際体操連盟のグランディ・ブルーノ会長からも祝電が届き、「1960年のローマで、日本の体操選手から受けた感動を鮮明に覚えています。真のサムライたちがパーフェクトを求め、集中して練習していた姿に多くのものを学びました」と、お祝いのあいさつをいただきました。

Miyakeyamanaka あいさつする山中さん(右)と三宅さん

さらにアテネ大会の男子団体総合で金メダルの米田功さんと鹿島丈博さんも駆けつけました。2人は体操のコーチとして、ロンドンオリンピックのチームジャパンを支えています。米田さんは「体操界で伝説のオリンピック5連覇のことを聞き、何度も皆さんの映像を見て、自分も金メダルを目指して頑張りました。これからはコーチの立場で、日本体操協会に恩返ししていきたいと思っています」とあいさつ。鹿島さんも「28年ぶりの金メダルを獲った時に、体操ニッポン復活と言われましたが、日本体操協会の多くの方々が積み重ねてきたものが僕たちにつながったのだと感じています。これからは指導者として、この栄光をつなげていきたいです」と話し、気持ちを引き締めていました。

50年目の節目を祝った日本体操協会の関係者たち。体操ニッポンの継承に向けて、新たな歴史がスタートしました。

Yoneda Kashima コーチとしての活躍を誓う米田さん(左)と鹿島さん

2010/09/02

シンクロ 選手主導の新チームで広州・アジア大会へ

シンクロナイズドスイミングの日本代表チームが、9月のワールドカップと11月の広州・アジア大会に向けた、チームのテクニカルルーティン(TR)やコンビネーションの演技を報道陣を前に披露しました。

Aflo_qdwa017118アジア大会に向け練習を重ねるマーメイド・ジャパン

Aflo_qdwa017122 熱のこもった指導をする花牟礼ヘッドコーチ

■広州・アジア大会新種目 コンビネーションに注力

今年のアジア大会で注力しているひとつが、コンビネーション。2003年の世界選手権から導入された種目で、ソロ、デュエット、チーム、トリオなど編成を変えながら自由に演技するものです。将来的にオリンピック種目に導入する潮流のなか、今年のアジア大会で新種目に加わりました。日本代表チームは、ミュージカル『オペラ座の怪人』を選曲。クリスティーヌと怪人による愛の掛け合いのシーンを盛り込むなど、ストーリー性のある構成に仕上がっています。

また、チームのテクニカルルーティンTR三味線で奏でる和風ロックのプログラム『大和(やまと)』。選手がデザインを考えたという紫、緑、白の幾何学模様の衣装を作製しました。花牟礼雅美ヘッドコーチは「全編テンポよくいける曲を選びました。和風の雰囲気が入っているいい曲だと思います」と手ごたえを感じている様子です。チームのフリールーティン(FR)は映画『レッドクリフ』のテーマ曲で、こちらは「戦い」をテーマに、赤をイメージしたメイクと衣装で挑みます。

小林千紗主将は「イメージしやすいテーマにしたことで、気持ちも入っています。まだ高さが足りないのが課題ですが、頑張りたいです」と、気持ちを高めていました。

Aflo_qdwa017116より高いリフトを目指し練習する選手たち

■選手主導の新チームで世界を目指す

北京オリンピックで逃したメダルの奪還を誓い、シンクロの日本代表チームは今年5月に世代交代を行いました。毎朝8時から112時間の練習をこなしている選手たち。乾友紀子選手は「どの国でもやっていることなので、強い気持ちで耐えていきます。試合で思い切りできるように練習して、本番に臨みたいです」と意欲的です。

新チームの特徴は、コーチが一方的に指導するのではなく、選手主導で進める練習スタイル。振り付けや衣装などのアイデアを選手が提案していきます。「『オペラ座の怪人』のプログラムでは、マスクをかぶるなどの振り付けを取り入れたり、VTRを見ながらこうしよう、ああしようと話し合いながら練習しています」と乾選手。花牟礼ヘッドコーチも「コンビネーションの『大和』では手を扇にする動作を選手が考案するなど、話し合いながら選手が作っていく感じにしています」と話します。

新チームは5月の日本選手権後に結成。2012年のロンドンオリンピックを見据え、世界の大型化の潮流に乗ろうと、身長165cm以上の選手を中心に集めました。水面から出る体積が技術点の評価に影響する傾向があるため、長身の選手によるダイナミックな演技が必要と判断したそうです。

実際、この日に公開された練習でも、長身の選手による迫力ある若々しい演技が見所となりました。花牟礼ヘッドコーチも「身体が大きくなった分、迫力はあります。ウエイトトレーニングも毎日練習前に行うようになりました。まだまだ鋭さや確実性、技術が足りないけれど、エネルギッシュな若さを失わないようにしていきたいですね」と評価。小林主将は「自分たちが考えた振り付けなので、思い入れも強いですね。チームを引っ張っていくと言う意識より、自分が世界のレベルに近づけば自然にみんなのレベルも上がると思います」と話し、ワールドカップそして広州・アジア大会での活躍を誓いました。

新しいマーメイド・ジャパンの活躍に注目です!

(写真:アフロスポーツ)

Aflo_qdwa017123選手と話し合いながら練習を進める小林主将

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