2010/05/19
期待の女子スプリンター福島千里選手が、今季もさらに加速中 〜国際グランプリ陸上大阪
文:折山淑美
4月29日の織田記念陸上100mと、5月3日の静岡国際陸上200mで日本新を連発していた福島千里選手。
3戦目となる5月8日の国際グランプリ陸上大阪大会の100mでは、隣のレーンに北京オリンピック200mの金メダリスト、ベロニカ・キャンベル=ブラウン選手(ジャマイカ)がいた。
福島選手はそのキャンベル選手をスタートから10m強まで リードし、30mあたりまで肩を並べ競り合った。中盤からは徐々に離されてオリンピック女王の強さを見せつけられたが、自己3番目の11秒27でゴールした。
北京の金メダリスト、キャンベル選手と競り合うレースを見せた福島選手
(写真提供:フォート・キシモト)
3試合連続の日本記録更新とはならなかった福島選手だが、レース後こう話した。
「静岡(国際陸上)くらい疲れていなかったらもう少し良かったかも知れないですけど、後半力んでしまった織田(記念陸上)よりは良かったと思います。
キャンベル選手が隣のレーンですごく緊張したけど、一緒に走れるのは光栄なことだから楽しめました。少しだけでも前を走れたので、いい自信になったと思います」
昨年、100mで11秒24、200mで23秒00の日本記録を樹立した福島選手は、世界選手権に出場した。結果は両種目とも準決勝進出を逃したが、100mでは0秒03、200mでは0秒05での惜敗。戦える可能性が見える結果だった。
さらに11月に中国の広州で開催されたアジア選手権の100mでは、向かい風1mの悪条件ながら、自身が持っていた日本記録に0秒03まで迫る11秒27で圧勝。条件さえ良ければ11秒1台を出せる実力の片鱗を見せていた。
今年の春先、彼女を指導する北海道ハイテクACの中村宏之監督は、「年末は腰痛が出てしまってほとんど練習を出来なかったが、今年はケガもなく順調にきている」と笑顔で話していた。福島選手自身、この冬は体重の増加を目標にして自炊も始めた。
もっと速くなりたいという意欲も強く、練習では監督に与えられたメニュー以上のこともやる。その効果が約2㎏の体重増加となって表れた。さらに走りも、中村監督が「高速ピッチは変わらないが、一歩一歩が力強くなった」と評価するように進化。福島選手自身が、パワーアップの確かな手応えを得てのシーズンインとなった。
織田記念陸上の100mで日本新を樹立(写真提供:フォート・キシモト)
その成果は初戦の織田記念陸上100mで、早々と出た。予選は本来のスタートが出来ず不安だらけだったが、決勝ではそれを修正して11秒21の日本新を叩き出したのだ。
さらに4日後には、静岡国際陸上の200mで、「1回レースをこなして体も動いてきたから、日本新は出ると思っていた」という中村監督の言葉通り、向かい風0.2mの条件の中でも22秒89の日本新で走り抜けたのだ。この記録を出したことで、100mで11秒0〜1台、200mで22秒中盤という、世界大会での決勝進出レベルの記録も見えてきた。
静岡国際陸上では日本女子史上初の22秒台を出した
(写真提供:フォート・キシモト)
そんな状況で臨んだ5月8日のオリンピック女王との初対決では、キャンベル選手に11秒02の走りを見せつけられた。だが福島選手はショックを受けるどころか、いい経験が出来たと喜ぶ。
「キャンベル選手のタイムは自分が目標としているところだから、そこまでどのくらいの差があるかを実感できたのはすごく良かったです。離されてからも後半に力まなかったことも収穫でした。今年はまず日本選手権でアジア大会の代表権を獲得して、アジア大会で優勝することが目標です。
でも今回は自分がキャンベル選手から体2つ分くらい離されていると感じたから、今の自分より体2つ分前を走れるくらいの練習をしたいと思います。これからが楽しみになりました」
キャンベル選手との対決は、彼女の速くなりたいという気持を、さらに燃え上がらせる機会になったといえる。
今年の陸上競技の開幕シリーズは福島選手の快走が目立ったが、一方この大阪では、男子短距離勢で、北京オリンピック男子4×100mリレーの銅メダリスト、塚原直貴選手が100m、髙平慎士選手が200mに出場。ともに3位ながら日本人トップに入り、存在感を見せつけた。
髙平選手はケガにより、練習不足での出場となった(写真提供:アフロスポーツ)
髙平選手は4月10日の順大記録会で右の半膜様筋を断裂してしまい、今回が実質的な開幕レース。「初めてケガをして休みましたが、スタートは本能的に抑えてしまった。まだ練習が足りないからこれから試合を積みながら上げていきたい」と話す。
一方の塚原選手も、今年はアメリカでトレーニングをするようになり、この大会が初戦だった。向こうではスタートの動きを指導されているという。
「今回はスタートから10mまでを意識しただけで、後は惰性で走った。意識した部分はうまく行っているので、一つ一つ段階を踏んで作り上げていきたい」と、今後のレースへの意気込みを語った。ともにシーズン後半を意識したスタートになっている。
今季初戦。100m10秒36で3位となった塚原選手(写真提供:アフロスポーツ)
さらに女子100mハードルでは、向かい風0.2mの条件ながら、昨年の世界選手権に出場した寺田明日香選手が、自己記録に0秒08差の13秒13と、マズマズの発進をしている。
また女子5000mの福士加代子選手も、最後は競り負けて3位にとどまったが、4000m過ぎまでは先頭を引っ張る積極的な走りをした。今年の目標は10000mの日本記録樹立、とクリアになり、久しぶりに強気な姿勢が戻ってきているだけに楽しみだ。
寺田選手(写真左)は4位、福士選手(写真右)は3位でそれぞれ日本選手トップ
(写真提供:アフロスポーツ)
■財団法人日本陸上競技連盟
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