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TEAM JAPAN DIARY

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2010/02/14

この悔しさをラージヒルで!〜ジャンプ ノーマルヒル個人 決勝

文:折山淑美

スキー・ジャンプの最初の種目であるノーマルヒル個人戦、2月12日の開会式前に行われた予選のトライアルまでは、日本チームも10日からの公式練習の勢いを保っていた。最初に登場した竹内択が104.5mを飛び、なかなか調子の上がらなかった栃本翔平も100m。バラツキがあった葛西紀明も100mを飛び、伊東大貴は104.5mまで飛距離を伸ばした。トップクラスとは助走をスタートするゲートの違いがあるとはいえ、十分戦える可能性を示していたのだ。

だが予選が始まると、重苦しい風が吹いてきたような雰囲気になった。一番手で登場の、好調だった竹内は96mに止まり、二番手の栃本も95m。ともに予選を突破したとはいえ、「スカッと本戦へ」というわけにはいかなかったからだ。

「緊張はしてなかったがアプローチを意識しすぎていて、片足だけ重心がつま先の方へ行ってしまい、飛び出しで曲がってしまった。ここへ来てからこんな失敗は初めてです」と、竹内は苦笑する。とは言っても彼は、2007年と2009年の世界選手権では惜しいところで代表を逃していて、今回は待ち続けた初の世界大会出場なだけに力が入ってしまうのはしょうがない。続く栃本もうまく飛距離を伸ばせず、K点の95m着地。「多分緊張してたんでしょうね。力が入って踏切のタイミングを外してしまいました」と苦笑する。2人とも30位台で無事に予選は通過したとはいえ、勢いに乗れなかったのは確かだ。

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初のオリンピックで決勝に進出も、2本目には進めなかった竹内選手(写真提供:アフロスポーツ)

その2人の分を葛西が105.5m、伊東が104.5mの大ジャンプでカバーした。だが葛西は「トライアルも予選も踏み切りのタイミングが合わなかった。ここへ来て1本も合ってないから、『何回外せばいいんだよ!』っていう感じですね」と自嘲的に笑う。伊東は「良からず悪からず、普通のジャンプでした」と淡々した姿勢を崩さない。

結局はテレマークでミスをした葛西が6位、伊東が4位で予選を通過したが、予選が免除になっていて順位には入らないワールドカップランキング上位10選手は、予選メンバーより低いゲートからスタートして100mをポンポン超えてきて、楽観できるような状況ではなかった。

翌13日の決勝、一夜明けて流れは変わるかと期待したが勢いは取り戻せなかった。

試合前のトライアルでは竹内がリラックスした踏み切りで98.5mを飛んだが、栃本は94mで葛西は95.5m、伊東は96.5mとなかなか飛距離を伸ばせない。

さらに試合になると公式練習や予選より低いゲート設定になり、助走スピードが遅いうえに追い風が基本という難しい条件になった。そんな中でのジャンプ、最初の竹内は94.5mしか飛べず、栃本も93.5mとオリンピック初出場の厳しい洗礼を受けて2本目のジャンプへ進めず。99mを飛んだ葛西と100.5mの伊東は2本目に進んだが、葛西は19位で伊東は10位。4位までは2m差くらいの接戦だが、トップ3には3m以上の差をつけられ、メダル獲得は難しくなった。

「ちょっと踏み切りのタイミングは遅れたけど、ジャンプは悪くなくて失敗した感じはしませんでした。飛んだ後は電光掲示板の上の方に名前が出るのをイメージしてたけど、ちょっと違いましたね。ゲートが低いので助走スピードが遅かったというのもあると思うけど、今の力はこんなものだと思いますね。試合で100%の力を出すのは難しいから、80%でも成績を出せるようなジャンプにしていかなければいけないと思います」と、竹内は言う。また栃本も「調子を上げることができなかったのが一番の原因。感覚的にブレているけど、ラージヒルまでには何とかしなくてはいけませんね」と気持ちを引き締めていた。

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「19日のラージヒル予選までに感覚的なブレをなくしたい」と栃本選手(写真提供:フォート・キシモト)

2本目はワールドカップ総合トップ2のアマン(スイス)とシュリーレンツァウアー(オーストリア)に、マリシュ(ポーランド)が加わっての白熱した優勝争いになった。まず1本目7位だったシュリーレンツァウアーが106.5mの大ジャンプで浮上すると、3位だったマリシュが105mを飛んでそれを僅差で上回る。さらに1本目105mでトップに立っていたアマンが、最後に108mのヒルサイズ越えの大ジャンプを飛び、2人を一蹴するという結果だった。

それに対して日本勢は、残念ながらも上位争いに食い込むことができなかった。葛西は100.5mで17位まで上げたが、伊東は100mで順位を15位に落とした。

「順位を狙うような気持ちではなく、今できることをやろうと自分のジャンプだけに集中しました。僅差で順位を落としたのは悔しいですね。ただ、完璧ではないけど今の調子を見れば、悪くはないジャンプができたと思います。その自信をラージヒルにつなげたいと思います」伊東はこう語った。

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決勝2本目の後、悔しい表情を浮かべる伊東選手(写真提供:アフロスポーツ)

一方、葛西は「結果は良くなかったけど、試合の1本目からやっと助走のアプローチでしっかりと乗れるようになったんです。スピードもまあまあ良かったし」と明るい表情で話す。「踏み切りのタイミングは少し外したけど、気流が悪かったですね。弱い風の中にも強弱や追い風と向かい風があって、日本チームには向かい風が当たらなかったんです。僕ここ1週間は、アプローチのことばかりに悩んでいたから、頭の中がカッカしてる感じでした。やっとそこも良くなってきたから、頭を少し休めてラージヒルにこの悔しさをぶっつけます」

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ベテランの葛西選手は「ラージヒルにこの悔しさをぶつける」と語る(写真提供:フォート・キシモト)

ヘッドコーチのユリアンティラも、風条件の違いを口にした。追い風が基調ではあったが、追い風と弱い向かい風の間には秒速1.2mくらいの開きがあると。特に伊東の時は2本とも最悪の状態だったという。もしその条件が少しだけ違っていれば、接戦での順位は大きく変わったはずだ。

「とはいってもテクニック的な問題はまだあります。伊東はいいフィーリングで飛ぶようになったが、踏み切りで脚と状態が同時に動きだすのではなく、上半身から動いている。それに葛西は自分に重圧を懸け過ぎて動きが固くなっている。竹内と栃本も本来のいいパフォーマンスには近づいているが、それを出せているわけではない」

さらに、大会前の国内調整は大倉山でやったため、ノーマルヒルの練習は大会直前のウィスラー・オリンピック・パークでやっただけと不足していた。

ラージヒルは些細な失敗なら空中で揚力を受けている段階である程度の修正はできる。しかしジャンプ台が小さくて受ける揚力が少ないノーマルヒルは、脚力やパワーをしっかり使って完璧な踏み切りをしなければきちんと飛距離を伸ばすことはできない。その意味では技術的な部分が、今回の日本チームはいまひとつだったという。

だがユリアンティラコーチは、「選手たちは今、ノーマルヒルよりラージヒルの方が飛びやすく感じていると思う」ともいう。「技術を完ぺきにしなければいけない」というストレスが軽減されれば、選手は当然、力みも消えて自分のジャンプを出来るようになるはずだ。そこへ期待をかける。

それはもちろん相手側も同じだが、日本チームはまだ、勝負を諦めなければいけない状況ではないのも確かだ。

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