2010/02/28
成功と失敗が紙一重のアルペン〜男子回転 決勝
文:松原孝臣
2月27日、降りしきる雪の中、ウィスラー・クリークサイドで、アルペンの最終種目、男子回転が行われた。日本からは皆川賢太郎と佐々木明が出場。皆川にとっては4度目、佐々木は3度目のオリンピックである。
皆川の1回目のスタート順は39番。
スタートして10秒ほど。細かなターンの続くセクションを抜けたあと、コントロールを失ったのか、コースアウトする。
「中途半端に終わるつもりはありませんでした。そういう意味では、悔いなく出られたと思います」
安全策をとるより、存分に攻めようとしたことがうかがえた。
4年前のトリノでは、表彰台までわずか0.03秒差の4位。日本選手50年ぶりの入賞という快挙を成し遂げた。その後、2006年12月には右膝靱帯断裂の重傷を負う。懸命のリハビリで復帰したが、怪我の影響は小さくはなかったはずだ。それでも、諦めることなく、さらに速さを求めて取り組んできたからこそ、辿り着けた舞台である。その過程は、十分敬意に値する。
しかし、積み重ねた努力の時間が、一瞬で無になるのが、アルペンである。
「4年という時間が、こんなにあっという間に終わってしまうのかと思いました」
皆川は言う。レースは10秒ほどで終わったが、改めてアルペンの残酷さと、短い時間に凝縮された重みを思い知るレースでもあった。
皆川選手は攻めのレースをした結果、無念のコースアウト(写真提供:共同通信)
一方の佐々木は1回目、27番スタート。
上手くコースを攻めると、首位とは1秒62差の49秒41で、1回目は14位と、上位を狙える位置につける。
迎えた2回目。緩斜面でバランスを崩し、スピードを失う。タイムは52秒35。1、2回目の合計タイムは、1分41秒76で18位に終わった。
「やっちゃいけないところでやっちゃいました」と、佐々木は振り返った。
2回目のレースで失速し、天を仰ぐ佐々木選手(写真提供:AP/アフロ)
それでも、佐々木は、納得のいく表情で、こう語った。
「結果はどう考えても満足できないけれど、ここまでの過程にはすごく満足しています」
昨シーズン、大会で怪我をしたことで、今シーズンは調整が遅れた。そこから間に合わせての今大会である。まして、トリノでは2回目に途中棄権している。それもあっての満足だったのだろう。
昨シーズンの怪我を乗り越えて出場した佐々木選手は18位(写真提供:ロイター/アフロ)
今後について、皆川はこう語る。
「続けられる体であれば続けたいですが、プロとして求められていることは当然ある。応えられるかどうかで判断したいです」
一方の佐々木。
「次のソチも、できればその次も出たいですね」
一瞬の中に、成功と失敗が紙一重で存在するアルペン。両雄の戦いは、ひとまず終わった。