アテネ2004
スペシャルコラム
むらさき色のメダル-浜口京子選手-
青島健太さん
17日間におよんだアテネオリンピックの戦いが終わろうとしている。
各競技、各種目における日本人選手の活躍は本当に素晴らしかった。
メダリストのみなさんには、すべてインタビューさせてもらった(残念ながら競泳の中村礼子選手だけは、競技の都合でお話を伺えなかった)。
金メダル、銀メダル、銅メダル。
3つのメダルには、それぞれ様々な思いがあって、また同じ色のメダルでも、その受け止め方は人によって違った。
金メダルの喜びを最もストレートに表現したのは北島康介選手だろう。
「チョー気持ちいい!」
これ以上ない喜びが、現代の若者の言葉に集約された。
共に「ホッとした」と語ったのは、柔道の谷亮子選手と野村忠宏選手だ。2連覇と3連覇。金メダル以外では喜べない2人は、達成感の中で「フーッ」と息を吐いた。
喜び半分、悔しさ半分の銀メダルは、ハンマー投げの室伏広治選手だ。前回のシドニーは9位。そこからの銀メダルは素晴らしい躍進だが、現役世界最高記録を持つ室伏選手にとっては、やっぱり悔しい結果だろう。
銅メダルのソフトボールのみなさんも、まったく喜べないメダルだった。シドニーで銀、打倒アメリカを果たして金メダルを獲ることが、この4年間のエネルギー源だった。しかし、この銅メダルの悔しさが、日本のソフトボールの実力をさらに上げることに期待したい。
落胆の奈落から見事に立ち上がって銅メダルをつかんだのは、女子レスリングの浜口京子選手だ。
15歳で始めたレスリング。ここまでの歩みはまさに人生を賭けた戦いだった。父親のアニマル浜口さんの課したトレーニングを死にもの狂いでこなしてきた。世界選手権大会を5回制覇。残るはオリンピックの金メダルだけだった。しかしその夢が準決勝の敗戦で消える。
控え室に戻った浜口選手は、まさに放心状態だったという。
過ぎる時間、迫る3位決定戦。
真っ白になった浜口選手の頭の中に、ある疑問が浮かぶ。
「私はオリンピックまで来て、いったい何をしているんだろう。これでレスリングが終わる?そんなことはない。私はレスリングが大好きなんだ。だったら目の前の試合を精一杯戦おう。それがこれまでずっとやってきたことじゃないか」
迷いのなくなった世界王者を、もう誰も止めることはできなかった。攻めて攻めて攻め続けた銅メダル。
「たくさんの人たちに応援していただいてここまで歩んでこれた私の経験は、金メダル以上の財産です」
メダルの色は、あくまでも相対的な順位だ。浜口選手がつかんだ気持ちには順位がない。そのメダルは力の限り戦って腫れ上がった右まぶたの色。むらさき色のメダルこそ、勝ち負けのない最強のメダルと言えるだろう。
- 青島健太さん
- Vol.1 「開会式によせて」
- Vol.2 「オリンピックで戦うということ」
- Vol.3 「緊張の中で戦うということ!」
- Vol.4 「オリンピックの極意-アーチェリー -山本博選手-」
- Vol.5 「むらさき色のメダル -浜口京子選手-」
- 原田裕花さん
- Vol.1 「勝ちたい気持ちを気迫に込めて」
- Vol.2 「なにごとにも揺らがない芯の太さを持とう」
- 沢松奈生子さん
- Vol.1 「アテネオリンピック・第10日・女子マラソンを観て」
- Vol.2「気持ちの切り替え、そして人間の大きさ」