2011/05/09
東日本大震災:JOC医療ボランティアチーム活動レポート
東日本大震災の被災地支援にむけて編成したJOC医療チームが、岩手県大船渡市の避難所を拠点に活動しました。医師による内外科の診察のほか、トレーナーによるリハビリ、健康維持のための体操教室などを実施。医療が機能していない被災地で、多方面からの健康サポートを行っている医師・トレーナーたちの活動を報告します。
JOCでは、オリンピックやアジア大会などの国際総合競技大会時に、日本代表選手団本部としてメディカルスタッフ(ドクター)を現地に派遣し、選手の健康面のサポートをしています。今回は、阪神・淡路大震災で医療ボランティアとして派遣された経験があり、日本代表選手団本部ドクターの経験もあるJOC情報・医・科学専門部会の増島篤医師の呼び掛けで、被災地へのJOC医療チーム派遣が決定しました。
「JOCの競技大会本部での医療サポートと、震災ボランティアの医療サポートには出張して、医療本部を作りサポートをするという共通点があり、震災翌日にテレビを見ながら、自分たちの専門性を生かして、被災地のために出来ることがあると考えました」と増島医師は振り返ります。
医療チームは、内外科を担当する医師と、リハビリを行うトレーナー、そして運営をサポートする事務局員により編成。JOCの声がけにより、医師のべ16人、トレーナー13人が手を挙げ、3月28日から4月28日までの約1か月間を4日間交代で計9チームの派遣が決定しました。
ボランティアとして被災地に赴く場合、まず最初に必要なのは、ボランティア自身の衣食住やトイレなどの生活手段を確保することです。JOC医学サポート部会長の赤間高雄医師のネットワークから、被災者やボランティアの受け入れをしている本増寺を活動拠点にすることが決まりました。
現場は混乱しているため、支援活動する避難所などの情報は事前に入手できません。JOC医療チーム第一陣は、「まずは行って現状を見ることが先決。行けば何とかなる」(増島医師)と、3月28日朝8時半に味の素ナショナルトレーニングセンターをワゴン車で出発しました。午後4時過ぎに大船渡市に到着すると、大船渡市役所保健福祉課を通じて、支援医療体制を確認。高台にあった大船渡病院が無事だったため重症・重傷の患者の受け入れが可能になっている一方、町医者がまったく機能していないことが判明しました。
翌日の29日は大船渡中学校の避難所を担当。岡山県から派遣されて来た保健師が、すでに被災者のヒアリングとカルテ作成を済ませていたことから、すぐに医師とトレーナーによる適切な処置が出来ました。31日以降は、市民文化会館「リアスホール」に拠点を移動。医師による診療所と、トレーナーによるリハビリルームを開設しました。診療所を置いていない避難所へは、各県から派遣されている保健師が巡回し、患者が見つかると医師が往診。また毎日夕方には大船渡市の保健福祉課によるミーティングに参加し、保健師や全国から集まっているボランティア医療チームらと情報交換を行いました。毎日刻々と変化する被災地のニーズを把握しながら、翌日以降の体制を検討することになりました。
大船渡市に拠点を置いたJOC医療チーム、増島医師
診 療所に訪れる患者の多くは、被災直後は健康だった方々。数週間にわたる避難所での生活のうちに、頭痛や発熱、下痢、胃腸炎、打撲、腰痛などさまざまな症状 を発症しているそうです。また震災から約1カ月後くらいからは、津波が残したヘドロが乾き、その粉塵を吸って肺炎になるケースも急増しました。訪れる患者 は、一日に約20人程度。医療現場が崩壊している震災間もない時期から4月末にかけて、合計で300人強の方々に医療を施しました。
ま たリハビリルームでは、理学療法士の資格を持つトレーナーたちによる治療を実施。震災前からリハビリ中だった方だけでなく、避難中に怪我をした方、避難所 生活で筋力が落ちてしまい歩けなくなってしまった高齢者の方などが、多くリハビリルームに通って来ます。温熱治療器で温めたり、マッサージをするなど、適 切な筋肉トレーニングや運動を指導し、回復を図っていました。
JOC 医学サポート部会のトレーナー、板倉尚子さんは、「皆さん気持ちが落ちているので、『大丈夫だから』という声がけから始まります。手や背中を触ったりして 安心してもらい、気持ちを元気にすることが大切です。今後、避難所を出て仮設住宅で生活する日に備えて、活動性を上げ、外で暮らしていける体力をつけられ るような運動を提供したいと思っています」と話します。
も う一人のトレーナー原木早智さんも、温かく親身に接するリハビリを心がけているとのこと。気持ちが塞ぎこんで寝たきりになっていく高齢者の方に、「大丈 夫。自分で立てるよ、あせらずにね。」などと励ましの声をかけながら、手を握ったり身体をさすったり、心溢れるリハビリを実施。その甲斐あってか、震災後 は車椅子生活をしていた高齢者の方が、人に支えられれば歩けるまでに回復していました。
やさしく声がけする原木トレーナー
さ らに、避難所生活は運動不足になりがちなことから、各避難所を回って1日1回の体操教室を行いました。気持ちが落ち込んでいると、肩を落として猫背になっ た姿勢のまま固まってしまう方が多いため、肩回りの筋肉をほぐしたり、楽しくゲーム感覚で出来る運動などを行います。体操教室では、被災者のみなさんに笑 顔が見られました。
体操教室でみなさんの笑顔を誘う板倉トレーナー
JOC医療チームは、4月末まで活動。その後は、被災地の医療体制が復興への道をたどり始める時期となり、地元行政による支援へとバトンタッチします。
班 長の増島医師は活動を振り返りこう話しました。「ここは、困っている人を助けるという医療の原点。こちらから声をかけて、医療やリハビリを行います。救急 の現場で様々なことを目の当たりにして判断して動くということは簡単なことではありませんが、被災者の方々が1日でも早く元気を取り戻してもらうことを願 う一心で活動してきました」。
今こそ“Team Japan”として日本が一つにならなければいけない時です。JOCはスポーツの力を信じて、今後も新たな復興支援活動を継続して行っていきます。
医療チームが設置した血圧計は、避難所の方々が自由に利用できる