2010/12/17
第7回スポーツと環境担当者会議を開催
JOCは10月29日、「第7回スポーツと環境担当者会議」を味の素ナショナルトレーニングセンターで開催しました。JOCスポーツ環境専門委員、スポーツ環境アンバサダー、競技団体の担当者など約90名が参加、スポーツと環境に関する啓発・実践活動の理解と相互連携を図りました。
■開会の挨拶
今回のテーマは『スポーツと環境・新たな取り組みについて』。はじめに、国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと環境委員の水野正人JOC副会長があいさつ。「IOCは1990年代に、『環境』をオリンピックムーブメントに加えることを決定し、環境活動に取組んできました。各競技団体で、これなら取組んでみようかということを考えながら今日のセミナーに参加いただきたいと思います」と話しました。
■環境省との連携 チャレンジ25の推進と協力
第一部では、「環境省との連携について〜チャレンジ25とスポーツ間の連携について〜」と題し、対談が行われました。環境省地球環境局地球温暖化対策課国民生活対策室の植田明浩室長と、JOCスポーツ環境アンバサダーの中村淳子さんを招き、JOCスポーツ環境専門委員会の板橋一太委員長がコーディネーターを務めました。
植田室長は「JOCと環境省は長い間連携し活動をしてきました。スポーツ界を通じた広報普及活動は、今や切っても切れない関係になっております」と話し、環境省が現在進めている「チャレンジ25」と、2009年度まで行っていた「チームマイナス6%」について紹介しました。1990年比での温室効果ガス6%削減を目標にした「チームマイナス6%」は2005年度から始まり、同25%削減を目指す「チャレンジ25」は2009年度から推進されています。植田室長は「どちらもストップ温暖化に向けて国民一丸となって取組むという点では同じ。ただし、6%の削減は身近な取り組みで達成出来る目標だったことから、こまめに電気を消すなどの個人が取組めるものが中心でした。しかし25%削減という目標となると、社会全体や地域全体で取組む必要が出てきます。エコ住宅、カーボンオフセット、地産地消などの取り組みが加わったことが新しい点です」と紹介しました。企業・団体と個人それぞれでチャレンジャーの登録を募集しており、個人チャレンジャーはすでに40万人を超えているそうです。
最後に植田室長は、「スポーツと連携して地道に広報啓発活動をしなければならないと感じています。ストップ温暖化の活動は、自転車に乗るなど健康じゃないと出来ない取り組みも多いです。健康=エコというイメージがあるので、スポーツ活動をされる方々に活動をぜひ広めていただきたいと思っています」と呼びかけました。
続いてアンバサダーの中村さんが身近な取り組みについて話しました。中村さんは柔道女子48㎏級の元選手で、昨年に第一子を出産、子育てと柔道指導者の生活を両立されています。「家庭で生活していると毎日のゴミの量に驚かされています。アンバサダーという立場になり、環境省のウェブサイトを見て勉強するうちに、小さな意識の差で取組めることがたくさんあると分かりました。まずは新しく購入する電化製品を省エネタイプにするなど意識しています」と中村さん。
また住んでいる自治体の取組みについて紹介しました。「私の自治体での取り組みは、これまでの3R(Reduce,Reuse, Recycle)から5R(3RとRepair, Refuse)になり、それを参考にしています。Repairは壊れたものも修理して使うこと、Refuseは不要なものは買わない、もらわないということです。買い物をした時に過剰な包装紙を断ったりする心がけを始めました。また児童館では、牛乳パックの空き箱で椅子を作ったり、空のペットボトルでおもちゃを作ったりしているのを見て、新しいものを買わなくても工夫次第で出来ることがあるのだと気付かされています」と話し、小さな心がけの積み重ねが大切だと訴えました。最後に、「私たちは、世界を目指すスポーツ選手・指導者なので、世界全体の環境を意識した啓発活動を考えていきたいと思います」と気持ちを引き締めていました。
板橋委員長は、「IOCでは『サスティナブル(持続可能)なスポーツ活動』という観点から環境活動を展開していますが、言葉は違っても中身は同じ。JOCと環境省で連携しながら環境対策を進めていくことが、IOCの目指すサスティナビリティにつながっていきます」とIOCとの関わりについて触れ、対談を締めくくりました。
■バンクーバー冬季オリンピックの環境対策
続いて「オリンピックと環境について〜バンクーバー冬季オリンピックを終えて〜」と題し水野副会長と、JOCのホームページ担当としてバンクーバー大会の取材をした博報堂DYメディアパートナーズの野口美恵さんが対談しました。
水野副会長は「バンクーバー大会は、私たちはスプリングオリンピックと呼んだほど暖かく、雪不足に悩まされた大会でした。組織委員会では、SSET(持続可能性・スポーツ・イベント・道具箱)という手法を立ち上げて環境対策に取り組んでいました」と、バンクーバー大会の概要を説明。大会組織委員会の取り組みについて、野口さんは「大会誘致が決定した7年前から、組織委員会は環境の専門部会を作り、計画を実行してきました。環境専門のコンサルタント会社と契約するなど、地域や社会を取り込み組織的に環境対策に取組んだ大会として、ロゲIOC会長や各メディアでも高い評価を受ける大会となりました」と全体像を紹介しました。
そして具体的な取組みとして(1)シンボルとなる建物の建設、(2)グリーンビルディングガイドラインの設定により一定の指標作り、(3)氷関連施設の廃熱を電気に再利用、(4)政府や企業を巻きこんだ活動——という4つの柱が紹介されました。
野口さんは「まず(1)のシンボルについては、松くい虫の被害にあったパイン材を天井に利用したスピードスケート会場『オリンピックオーバル』の取り組みが特徴のある活動で人々の心に印象付けることが出来ました。さらに(2)のグリーンビディングガイドラインは、建物の環境配慮を評価するものですが、これまでバンクーバーには環境基準がなかったので新しい取り組みでした。(3)の廃熱の再利用は、日本のスケートリンクでもプールを併設するなど昔から行われている取り組みですが、すべての施設で行ったという所に意味があります。(4)はスター制度という表彰で、環境貢献・社会貢献・経済貢献などにつながる活動をしたスポンサーや納品業者、政府など62の団体が、選手のメダルセレモニーと同じ会場で表彰を受けました」と具体的な取り組みを取り上げ説明しました。
そして最後に、「この組織委員会が目指したゴールは、デモンストレーションです。さまざまな取り組みを可能な限り行い、1つでも多く人々の目に触れ、次の行動へのお手本やきっかけになることが目標です。会場の売店で使う食器を再生紙や廃材を使うなど目に見える小さな取り組みをする一方で、選手村の建物の全体で非常にエネルギー効率の高いシステムを導入するなど目に見えない部分で大量の温暖化ガス削減も実行している。ソフト面とハード面から上手に環境対策を実行し、これ以上思いつかないくらい全力で取り組んだことが、バンクーバーの組織委員会が目指したサスティナビリティの形でした」と結論しました。
また大会組織委員会の取り組みという観点から、水野副会長は日本水泳連盟の取り組みについても紹介。「大会時のリザルト等紙で配布していたものを、ネット上に掲載するようにし、消費する紙を削減しました。また選手・役員に配布していたペットボトルの水も、大きなタンクを用意し、マイボトルを使うか紙コップを1人1個まで配布する方式にして、ペットボトル削減につなげました。各競技団体でも参考にしていただければと思います」と話しました。
■FISフリースタイルスキー世界選手権猪苗代大会でのカーボンオフセット
第二部は、「競技会場の施設と環境について〜スポーツ大会の運営とその施設での実践活動〜」として、猪苗代で行われた2009FISフリースタイルスキー世界選手権猪苗代大会(2009年3月2日〜8日、猪苗代町・磐梯町)での取り組みについて、福島県会津地方振興局の畠利行局長が報告しました。
この大会は、大会開催に伴い排出された二酸化炭素をグリーン電力証書によってオフセットするという、非常に画期的な取り組みで注目を集めました。畠局長は「まず大会全体での二酸化炭素の削減努力をしました。エコカーやハイブリッドカーの利用、ゴミの分別持ち帰り、公共機関利用の呼びかけと、鉄道での輸送。さらに自然エネルギー導入の検討として、太陽光発電や温泉廃湯利用ヒートポンプの導入などを検討しました」と、二酸化炭素の削減努力について紹介。「4つの競技会場、宿泊施設、式典会場、交通機関やシャトルバスなどの消費電力量や使用量から算出した排出量は272t。これを、郡山布引高原風力発電所や太陽光発電設備で生み出された自然エネルギーの環境価値分によるグリーン電力証書で、カーボンオフセットしました」と説明しました。この事業は、平成20年度(2008年)環境省カーボン・オフセットモデル事業にも認定され、補助金を受けて実施したそうです。
さらに事業の成功だけでなく、普及啓発活動にも発展させました。「福島県スキー連盟の協力をいただき、未来の環境共生スキーヤー育成事業を行いました。まず小中学生を無料送迎バスでのべ36台1700人招待し、競技観戦を通してスキーに関心を持ってもらいました。同時に、地球温暖化に関する学習の時間を設け環境教育を行いました。スキーは温暖化が進むと出来なくなってしまう競技です。温暖化防止に一丸となって取り組んでいます」と、非常に先進的かつ組織的な取り組みをした事例を紹介いただきました。
■競技施設での取り組みを紹介、水野IOCスポーツと環境委員
続いて、「環境活動の今後の展開について」として、水野IOCスポーツと環境委員が登壇。地球温暖化の原因や、IOCにおけるこれまでの環境活動や決議を説明。その上で、各競技施設ではどんな取り組みが行われているかを、各競技施設の写真を交えながら紹介しました。「大阪市中央体育館は、天井全体が緑で覆われており、雨水も再利用しています。北神戸田園スポーツ公園は、緑をたくさん残した施設で、太陽光発電なども行っている。東京都はすべての小学校の校庭で、芝生化を進めています。今後のオリンピック招致においても環境活動への取り組みが重要になってきますので、日本国内での事例をこれからも多く集めていきたいです」と話しました。そして最後に「スポーツ競技には、その施設が欠かせません。私たちは、施設の環境に配慮していくことを考えていきましょう」と呼びかけました。
■競技団体環境活動についての報告
(財)日本陸上競技連盟 石上敬久総務部長から、連盟主催の大会において、環境ブースのテントを必ず出して、環境啓発、チャレンジ25への会員の呼び掛け等を行っていること。紙削減の取り組みとしてパソコンやiPadを取り入れる計画などを検討していること。また、キッズアスリートプロジェクトの中で花の種を参加者に配布し、花一杯運動を実施していることを報告。
(財)日本サッカー協会 玉利聡一総務部係長(環境プロジェクトメンバー)から、サッカー協会として取り組んでいる『クリーンサポーター活動』と題した、試合後観客と一緒に清掃活動を行う取り組みについて説明。また、今後の展望として、指導者を対象に、環境啓発について理解してもらえるプログラムを作成し、競技指導と併せて環境啓発への理解を持ってもらえるようコミュニケーションを図るシステムを検討中と報告。
(財)日本テニス協会 生沼明人JTAスポーツ環境委員から、協会作成の環境啓発ポスターを紹介。ジュニア選手の大会を中心にポスターを掲載し、指導者でもある松岡修造氏を中心に環境啓発活動を行っていることを報告。
(社)日本アマチュアボクシング連盟 寺崎誠常務理事より、大会では紙削減、ゴミの分別などを呼びかけると共に、懇親会等の場で寺崎常務理事から地球温暖化をテーマにした話しを行い、環境問題についてより多くの方に理解してもらうよう取り組んでいることを報告。
■閉会の挨拶
最後に、板橋委員長から「バンクーバーの環境活動はIOCの環境活動のスタンダードになっていくと思われます。猪苗代の取り組みは、カーボンオフセットの考え方や二酸化炭素排出量を測定するという姿勢が重要だったことから紹介いただきました。今回得た情報をもとに、それぞれの立場から環境対策に取り組んでいただきたいと思います」とあいさつし、有意義な会議を締めくくりました。
(写真提供:フォート・キシモト)