2010/11/21
中国に差をつけられたシンクロ・デュエット 挑戦者の気迫で再出発
文・折山淑美
昨年の世界選手権ではチームとデュエットのテクニカルルーティン4位が最高で、全種目で中国の後塵を拝したシンクロナイズドスイミングの日本チーム。アジア大会ではその差をどこまで詰めているかが見どころだった。
今大会は、テクニカルルーティンとフリールーティンがともに決勝種目となっている世界選手権方式ではなく、オリンピックと同じテクニカルルーティンとフリールーティンの合計で争われる方式で、会場は広州市に隣接する佛山市のアクアティックセンター。競技初日の19日にはデュエットが行われ、日本ペアは昨年の世界選手権デュエットのテクニカルルーティンで4位になった乾友紀子選手と小林千紗選手のペアが出場。対する中国は前回のドーハ大会で優勝し、北京オリンピック4位、世界選手権3位と力を伸ばしてきている双子姉妹ペア、蒋文文選手と婷婷選手が出場した。
午前中に行われたテクニカルルーティンから、日本ペアは苦戦した。乾選手と小林選手の得点は93.375点。それに対して中国ペアは96.375点のを出し、昨年の世界選手権の時の1.334点差を、3.000点差まで広げられてしまったのだ。
テクニカルルーティンの演技、乾選手(右)と小林選手(共同)
午後7時30分から始まったフリールーティン。7番目の登場だった乾選手と小林選手は、スピードのある演技をした。「今年1年間やってきたルーティンなので、何も恐れることなくやっていこうと思っていました。まだ直さなければいけないところはあるけど、今の時点での力は出せたと思います」と小林選手は言う。また乾選手は、「これをやり始めてからは高さとスピードを重点的に練習してきたので、それを意識してやりました。まだ世界の上位に近づくには足りないことがいっぱいあると思うけど、一歩ずつやっていきたい」と話した。
花牟禮雅美コーチも、立っていた場所が演技をよく見られない場所だったからと、ことわりながらも、「演技の前には、『思い残すことのないように思い切り自分の力を出しなさい。積極的にいくように』と言いましたが、よく頑張ったと思います。ただ、やろうとしていたことは十分にやったけれど、目指すところにはもう一歩足りないですね」と言うように、得点は世界と戦うためのひとつの目標にしている95点には足りない、93.500点に止まった。
スピードのある演技となったフリールーティンの乾選手(前)と小林選手(共同)
テクニカルルーティンと合わせた得点は186.875点。日本ペアはその時点ではトップに立った。だが、マレーシアの演技を間にして登場した、最終演技者・中国ペアの演技は、レベルがもう一段違った。175㎝の身長で息もピッタリの双子姉妹の演技は、スピード感にあふれて動きにもキレがあり、余裕すら感じさせるものだった。
花牟禮コーチも「高さとシャープさがすごい」と評価する実力。得点でも日本を大きく上回る97.000点を獲得し、合計得点も193.375点と圧勝し、日本ペアとの差を見せつけた。その結果を受けて小林選手は、「採点競技というのは、一気に成長できるものではないと思います。だから一つ一つの試合で成長しているところを見せなければいけないと思います。まだ力強さや技の正確さなど課題は多いけれど、二人で私たちの存在感を大きく出来るように頑張りたいです」と話す。
かつては国際大会で表彰台の常連だった日本だが、北京オリンピック後に日本代表となった乾選手も小林選手もその味を知らない選手であり、まだ挑戦者でしかない。この日、世界選手権のメダリストである中国ペアは風格さえ感じさせる演技をしていた。それに対して乾選手と小林選手の演技には必死さがみなぎる、挑戦者そのものだった。
現時点で彼女たちが出来るのは、そんな必死さとひたむきさしかないのだろう。今回は完成度を増しつつある中国ペアに、昨年より差を広げられる結果となった。そんな日本にとってまずやらなければいけないことは、中国に差を広げられず、逆に迫ろうという強い気迫を持ち続けることだ。それが挑戦者として世界へ立ち向かう、第一歩なのだろう。
銀メダルを獲得した乾選手(左)と小林選手(共同)