2010/11/09
スピードスケート全日本距離別、長島優勝、加藤2位、バンクーバー組の好タイムに沸く
文・折山淑美
バンクーバー冬季オリンピックで3個のメダルを獲得したスピードスケート。次の2014年ソチ冬季オリンピックへ向かう第一歩となる戦い、全日本距離別選手権が10月30〜31日に長野市のエムウェーブで開催された。
この大会の初日、格の違いを見せつけたのが男子500mのメダリストコンビ、長島圭一郎選手と加藤条治選手だった。この夏からは新しい靴やブレードを試していたが、新しい靴が合わずギリギリで去年の靴に戻したという長島選手は、1回目に34秒88の大会新をマークしてトップに立った。
すると2回目は、1回目2位で自身が持っていた大会記録を破られた加藤選手が、100m通過は1回目と同じ9秒69ながら、後半で同走の長島sんしゅを突き放し再び大会記録を取り返したうえに、長島選手が持っている国内最高記録に並ぶ34秒81を出した。
2本合計タイムでは長島選手が加藤選手を0秒04上回って優勝を決め、加藤選手は2位。3位にはバンクーバー代表の及川佑選手が入ったが、合計タイムは加藤選手より1秒以上遅れと、二人の強さが際立つ結果だった。
「1本目は思ったよりタイムが良くてビックリしました。7〜8割の感じで滑っていたから35秒5くらいだと思っていたんです。それで2本目はわざと力を入れて体を硬くして滑ってみたんです」と長島選手。オリンピックの500mは2本の合計タイムで競うため、両方のタイムを揃えなくては勝てない。1本目で好タイムが出たために本番を想定し、「守ってもミスがでて勝てない。ミスを恐れずに攻めなければいけない」と自分に言い聞かせ、プレッシャーをかけた状態でどのくらいで滑れるかを確かめたというのだ。その結果、加藤選手を僅かに抑えての優勝。長島選手は予想以上の成果に笑みをこぼした。
一方、加藤選手は今季、前半戦はのんびりやって後半で調子を上げていく構想を持っていた。だが1本目で長島選手に好記録を出されて燃えたという。「1本目のタイム差は0秒22だったが、その差だと、W杯では長島さんが優勝したら僕は10番くらいになっちゃうタイムだったので。さすがにノンビリやってられないと思ってリミッターを外したんです。だから2本目は勢いだけでいったようなレースでしたね。僕の場合はスケーティングが目茶苦茶でも、体さえ動けばタイムが出るというのが持ち味なんです。でも体だけに頼ったレースをしていると、後半戦でレベルが上がってくると不安なんで。もうちょっと完成度を高める必要があると思っているんです」と課題を口にした。
長島選手は2日目の1000mでも、「長距離系の練習をやっていないからダメですよ」といいながらも、1分10秒18の大会記録で優勝した。だが、「実力だとは思うんですが、なんでこんなにいいタイムが出たかわからないですよ。けっこう氷が滑っていたから、管理をする係の人に挨拶をしておきました」と周囲を笑わせた。
二人を指導する日本電産サンキョーの今村俊明監督は「加藤も長島も去年よりいいくらいで、これが去年ならと思うほどですよ。特に長島は外から見ているとほとんどミスがなくて安定している。トップスピードの精度も去年よりいいと思う」と評価した。
女子の場合はバンクーバーへ出場した選手のうち、短距離の岡崎朋美選手と自転車競技に挑戦する中・長距離の田畑真紀選手が休養。さらに吉井小百合選手と新谷志保美選手が引退と、一気に手薄になったといえる状況だ。
その中で安定した力をみせていたのが、バンクーバーは500mと1000m、1500m、パーシュートに出場して大車輪の活躍をした小平奈緒選手だ。「バンクーバーで負けた瞬間から、次の戦いは始まっていると思ったから。ここで休むかやるかが4年後に結果となって出てくると思うので、休みたいという気持はなかったですね。清水宏保さんも長野の後は休もうとしなかったというから、同じような感じだと思います」。
こう言う彼女は今年、ブレードをいくつも試したり他競技の選手に会ったりと様々なことにチャレンジしている最中だ。まだ新しい道具にも違和感のある状態だが、初日の500mは2本ともトップタイムで優勝し、2日目の1000mでも2位に0秒5以上の差をつけて優勝と底力を見せつけた。「まだブレードに不安があって、氷に力を伝えきれていない滑りになっているけど、500mを2本滑ったあとに乳酸値を計ったら、以前に同じくらいのタイムで滑った時の値に比べると全然出ていないくらい低かったんです」と小平選手。疲労の指標である乳酸値が低く出たことで、体力面の向上を実感している様子だ。「1000mは去年よりタイムは1秒遅いけど、いろんなことに挑戦している最中なので心配ないというか、これから上げていける感じです」と余裕を見せていた。
500mと1000mで優勝した小平選手(PHOTO KISHIMOTO)
他にも、初日の1500mでは振るわなかった穂積雅子選手も、得意種目の3000mでは自身が持っていた国内最高記録を大幅に上回る4分07秒89で優勝と、昨年以上の期待ができる状態だ。またスーパー中学生と注目された髙木美帆選手も、500mと1000m、1500mの3種目に出場したが、すべての種目で初のW杯代表に選ばれ、昨年の勢いがフロックではなかったことを証明した。さらに、バンクーバーには代表になれなかった中・長距離の石野枝里子選手も、所属を変えて8月くらいまではあまり練習をできなかったというが、1500mで優勝、3000mは2位と、悔しさをバネにした再挑戦を始めている。
大会終了後には11月12日から始まるW杯前半戦の代表メンバー全25名が発表されたが、うち初代表は13名。そのうち高校生は4名というフレッシュな顔ぶれになった。スピードスケート界の今後の飛躍が楽しみになる結果だった。