2010/10/18
スポーツ祭り2010(2)味の素ナショナルトレーニングセンター探検ツアー
スポーツ祭り2010の見所のひとつが、普段は一般開放されていない「味の素ナショナルトレーニングセンター」の施設見学「親子で『味の素トレセン』探検ツアー」です。100名の参加者は、日頃は触れる機会のないトップアスリートの練習風景を、興味深そうに見学しました。
探検ツアーの冒頭、まずガイドさんから説明がありました。「最上階は3階ですが、高さは42mあります。マンションだったら15階に相当します。練習施設としての必要上、それだけ各階ごとに高さが必要なんです」。また最初に向かった体操の練習場では、ガイドさんが「来年、東京で世界選手権があるので、女子はここで22カ月合宿を行なっています」と説明。子供たちからは「すごい!」と驚きの声が上がりました。
階段を降りて2階のハンドボールのコートへ。「俯瞰(ふかん)映像を撮るシステムがあり、5秒後にはテクニカルルームで観ることができます」とガイドさん。最新の科学設備が紹介されました。1階では柔道場を見学。「ここは約1000畳あり、世界でもっとも広い柔道場です。畳は今はミズノ製ですが、オリンピックや世界選手権で違うメーカーの畳が使用される場合は、大会の畳に合わせて入れ替えます」。充実した練習環境に、感心する参加者の姿が見られました。
地下1階ではウエイトリフティングの練習場で、三宅義行さんと宏実選手親子の指導風景を見学。レスリング場では、吉田沙保里選手らが子供たちの指導にあたっており、間近に見るオリンピアンの姿に、歓声が上がりました。
エレベーターで2階に戻ると、公道上の渡り廊下から、宿泊施設の「アスリートヴィレッジ」へ。ここは一般の人はもちろん、報道関係者も入れないエリアです。「宿泊施設は東館と西館があり、全部で258ベッドあります。来春に向けて南館を建設していて、完成すると、エキストラベッドも使用すれば500人規模が泊まれるようになります」と、ガイドさんから説明がありました。
ヴィレッジに入ると、1階の食堂「さくらダイニング」へ。ここでは、ノルディック複合元日本代表の荻原次晴さんの司会で、「勝ち飯セミナー&トークショー」と題したスポーツと食にまつわる催しが行なわれました。
最初に登場したのは、今年6月のFIFAワールドカップに出場したサッカー日本代表チームの調理を担当したJヴィレッジの西芳照・総料理長、高地対策を担った三重大学の杉田正明准教授、さくらダイニングの高橋文子・管理栄養士です。
サッカーワールドカップの経験を語った杉田准教授(右から2番目)と西総料理長(右)、さくらダイニングの高橋さん(中央)
杉田准教授が編集したワールドカップ回顧のビデオを鑑賞後、体力のサポートとしてどのような工夫をしたのか話がありました。「尿検査を毎日行ない、結果を監督に伝え、翌日の練習の質や量の調整にいかしていただきました」と杉田准教授。西総料理長も「高度が上がると、300mで沸点が1度下がるのでご飯がぼそぼそになってしまう。おいしく食べてもらうために圧力釜を日本から持参しました。また杉田先生から鉄分が不足しがちだと指摘されていたので、ひじきのほか、現地でレバーを調達してレバニラにして出したり、味噌汁に鉄の粉を入れたりしました」と工夫を紹介しました。
二人からは食に関してこんなアドバイスもありました。「小さいうちから正しい食事を習慣づけることが大切です。大人になってからでは直らないものです」(西総料理長)。「サッカーの選手たちは、いつ何を、どれだけ食べればいいか、自身で把握していました。そういう部分を心がけていただきたい」(杉田准教授)。
続いて、管理栄養士の高橋さんが日頃アスリートと接している体験を交えて食にまつわる話をしました。「ジュニアの選手には好き嫌いが多く見られます。そういう選手には、『練習のとき、好きな練習だけして、嫌いな練習はしないの』と聞くんですね。選手は、練習はきちんとやると答えます。そうしたら、『食事も一緒だよ、トライしてみよう』と言ってあげるんです。ときには無理やりお皿に嫌いなものを入れたりもします。食べたときは、頑張ったね、とほめてあげる。すると、自然に摂るようになります」。ちなみにアスリートに一番人気があるのは、「鶏の唐揚げ」だそうです。ここで、用意されたおにぎり、味噌汁、小鉢料理を食べながら、第2部へ移りました。
登場したのは、競歩の山﨑勇喜選手、スノーボード・アルペンの野藤優貴選手、ショートトラック・スピードスケートの勅使川原郁恵さんです。勅使川原さんはショートトラックならではの食事の工夫を振り返り、「私の場合、500mから、1000m、1500m、3000mと、短距離も長距離も行なわなければいけませんでした。バランスが必要になるので、様々なものを摂るようにしていました。分かりやすく言えば定食ということです。また、ショートトラックは小さなリンクで遠心力がかかるため、体重が大切です。ベストの48kgをキープするように心がけていました」と話しました。
また山﨑選手、野藤選手は、試合を直前に控えると、炭水化物を多く摂るとのことで、山﨑選手は「カーボローディングといって、試合の1週間くらい前から、はじめの3日間はたんぱく質を多めに、残りの期間は炭水化物を中心の食事に切り替えます」と説明。カーボローディングによって、持久力を高めるグリコーゲンが蓄積される仕組みについて説明がありました。
最後に、自身の競技生活の経験から、3人は食の重要性を語りました。「旬の食材は栄養があります。旬のものをおいしく食べてほしいです」(勅使川原さん)。「以前はきちんとした食事をしていませんでしたが、それでは強くなれないと実感しました。今では、野菜も農薬を使っていない有機野菜にしています。子供には、良いものをたくさん与えてください。子供たちも、いっぱい食べてください」(野藤選手)。「小さい頃に食べたものの影響はのちのち出ます。僕は不規則な食生活だったために、怪我もしやすくなったと思うし、とても後悔しています。今、(お子さんが)どのような食事を食べるかが大事です」(山﨑選手)。
施設見学、食のセミナーの2本立てで、約2時間の充実した探検ツアー。参加した子供たちは「選手たちがどんな環境でトレーニングに励んでいるのか、食事の大切さも分かりました」と語り、何か得たものがあった様子。有意義なツアーとなりました。