2010/08/26
パンパシフィック選手権(1) 寺川綾、松田丈志、悔しさのメダル
文・折山淑美
■寺川綾選手、フォーム改造も悔しい銀
2010年パンパシフック選手権大会、初日。女子100m背泳ぎ決勝に進出した寺川綾選手は、ターン後にトップに飛び出たものの、ラスト10mでかわされ、悔しい銀メダルとなった。金メダルに輝いたのは、今季世界ランキング1位の59秒21をマークしているエミリー・シーボム選手(オーストリア)だった。
ゴールタイムの59秒59は自己ベストだが、1位との差は0秒14。観客席で見ていた平井伯昌ヘッドコーチは、親指と人指し指で僅かな隙間を作って苦笑し、僅差の敗戦を悔しがる。「自分の泳ぎしか考えていなかたから、タッチするまで周りがどうなっているのかわからなかったんです。でもあれだけの差だとわかってからは、すごく悔しくなりましたね」 と、寺川も大きな国際大会初での勝利を逃した悔しさを口にした。
「直前の高地合宿地だったフラッグスタッフで出来が良かったから、日本記録(59秒14)に近い所まではいくと思っていたんです。予選でも軽く泳いで59秒台かと思っていたけど、彼女の場合は国際大会ではいつも予選のタイムが遅いから…。自信をつけさせるのが難しいですね」。平井ヘッドコーチはこう説明する。
寺川選手は高地合宿に入った7月から、フォームの改造に取り組んできた。改造はうまくいったが、高地から下りて大会に入るまでの期間がこれまでより短かったため、彼女自身は自分の感覚を把握できないまま試合を迎えたという。その不安が予選では顔を出し、後半の泳ぎでリズムを崩して1分00秒41に止まるという結果になっていたのだ。
後のウォーミングアップでそこを修正し、決勝ではいい泳ぎはできたが、精神的な詰めの甘さで金星を逃した。それでも「参加人数は少ないし、去年の世界選手権でメダルを獲った人も1人しかエントリーしていない試合だから結果を出したいと思っていました。その点では銀メダルを獲れてホッとしています」。一方、翌日の50mでもラスト10mで逆転され、またしても2位に。「最後の詰めがこれからの課題です。でもこうやって一番を狙える位置にいるというのも、以前に比べたら成長したということですから」と明るく笑った。
■松田丈志選手、打倒フェルプスへの課題
もう1人、メダルを手にしながら悔しさを口にしたのは、男子200mバタフライの松田丈志選手だった。 午前中の予選は1分55秒47で2位通過。前半の100mも目標にしていた55秒切りを果たし、1位通過だったマイケル・フェルプス選手(アメリカ)との差も0秒24で戦える手応えをつかんでいたのだ。「高地合宿では順調だったし、ここへきてからの調整でも、これまでなら頑張らないと出ないタイムもスムーズに出ていたから、1分53秒台は確実に出せると思っていたんです」と久世光代コーチが言うように、彼自身も自信を持っていた。決勝でも前半の100mを予選より速い54秒82で入り、先行するフェルプスを追いかけたのだ。
「フェルプスもそれほどコンディションがよさそうに見えなかったのでチャンスだと思ったし、自分ももう少しいい記録でいけるかなと思っていたんです。最後にターンしてから一度フェルプスを見て、多分彼もきついだろうからそこから差を詰めようと思って必死に泳いだんですけど……」
苦手だった前半はスムーズにいけるようになったが、100mをターンしてからは本来の感触ではなかったという松田選手は、得意なはずのラスト50mも目標とする29秒台に及ばない30秒16もかかり、フェルプスだけでなく2位を泳いでいたニック・ダーシー選手(オーストラリア)も捕らえられなかった。結果は1分54秒81の3位に止まり、フェルプスとの差も0秒70と開いた。
「フェルプスに手が届きそうで届かないというのもありますが、去年も含めて彼以外の選手に負けているのも悔しいですね」という。08年北京オリンピック、09年世界選手権と続いた銅メダル返上こそが、打倒フェルプスへの最初の課題であることを、この大会で強く意識した。
寺川選手も松田選手も、メダルを手にしながらも悔しさを味わった。それは、彼らが金メダルを狙えるレベルにきたことの証でもある。