アトランタ1996
金メダリストインタビュー
恵本裕子選手 女子柔道 61キロ級
- プロフィール
惠本裕子 (えもと ゆうこ)
72年12月23日、北海道生まれ。
94年広島アジア大会で2位となり95年世界選手権代表に選ばれるが一回戦で敗退。しかし見事に立ち直り、96年のブルガリア国際で優勝しアトランタでの金メダル獲得に結びつけた。得意な技は内またと大内刈り。
- 私には神様がいてくれた
「コーチから、五輪には魔物が住んでいると言われていましたが、私には神様がすぐそばにいてくれた気がします」。流行語になった女子マラソンの有森選手の「自分で自分をほめてあげたい」にも負けない名セリフ。金メダル獲得直後の会見で恵本選手が口にした言葉です。日本の女子選手がオリンピックの個人競技で金メダルを獲得したのはわずかに4人目。競泳意外では初めての出来事でした。恵本選手の金メダル獲得は、まさに神様を味方につけた快挙だったのです。
- 選考会で一回戦敗退。「残念会をやってました」
でも、恵本選手の柔道人生は順風満帆だったわけではありません。代表に選ばれた95年の世界選手権では一回戦開始早々に一本負け。悔し涙を流しました。アトランタ五輪の選手選考会でも、大方の予想に反して一回戦で敗退。敗者復活戦で勝ち上がり3位になったものの、試合後は「会場のレストランで残念会をやってました」。ところがその残念会の場所に届いたのが「五輪代表決定」の朗報だったのです。女子6階級のうち5階級は選考会の優勝者が代表に選ばれました。もちろん恵本選手の実績と実力が評価されてのことですが、日本代表の権利獲得にも「神様」が味方していたのかも知れません。
金メダルが決まって一番うれしかったのは、「持田典子コーチ(恵本選手が所属する住友海上火災柔道部コーチ。現在は古賀選手などを育てた東京・世田谷の全寮制柔道塾「講道学舎」コーチ)の笑顔を見れたこと」だと言う恵本選手。敗退した世界選手権でも、アトランタ五輪でもずっと一緒に過ごしてきた持田コーチは「いつでも私の壁になって守ってくれた人ですから」。金メダル獲得は、神様だけでなく信頼するコーチがいたからこその栄冠だったのです。
決勝の試合前はコーチに抱きしめられて激励されました。恵本選手自身は試合直前の記憶はぼんやりとしか残っていないそうですが、持田コーチには「抱き合ったときに落ち着いていたから、いけると思っていた」と祝福されたということです。苦楽を共にしてきた師弟ならではのエピソードですね。
- コーチとの出会いも神がかり
恵本選手が柔道を始めたのは北海道立旭川南高校一年の九月。金メダリストにしては遅すぎるスタートです。高校時代は3年のインターハイ団体戦で3位に入ったことがありますが、全国的には無名に近い選手でした。その実力が注目されるようになったのは、91年、持田典子コーチに誘われて住友海上火災に入ってから。でも、持田コーチとの出会いも偶然でした。前年暮れ、持田典子コーチは恵本選手のいる旭川南高校へスカウトに行きました。目的は別の選手。ところが、稽古の乱取りで「ボコボコに投げてもとにかく向かってきた」のが恵本選手。ここで恵本選手の柔道人生は大きく一歩を踏み出したのです。
選手としては遅いスタート。世界選手権での無惨な敗退のショック。いいことも悪いこともたくさんあった柔道人生ですが「今までの経験は、すべてこのオリンピックのためにあった気がします」と恵本選手。「あとになって考えてみると、95年の世界選手権で負けたからこそオリンピックで優勝できた気がするんです」。敗戦を無駄にせず努力を続けたことが、今回の金メダルに結びついたのです。
- 金メダルを目指していた私がすごかった
オリンピック前は「どんなに練習してもやり残したことがあるようで不安だった」と恵本選手。どうすれば「世界に勝てるかが見えなかった」。でも、そこでがむしゃらにやったおかげで「オリンピックの試合が始まるとゴールにたどり着いたような気分で、無欲で戦えた」のだそうです。「今、振り返ってみると、金メダルを獲ったことがすごいんじゃない。金メダルを目指して稽古している姿がすごかったんだって思います」。世界と闘うために自分と戦ってきた恵本選手らしい言葉です。
オリンピックの後、右足の痛みや肩の炎症といった故障に見舞われた恵本選手。一度は現役引退も本気で考えたそうです。でも、福岡国際女子を欠場してほかの選手の頑張りを見ているうちに「引退して本当に後悔しないのか」と思い直しました。「みんなの試合を見て、うらやましいと感じたんです」。だから、こういう気持ちが少しでも残っているうちは自分も頑張りたいと、再び闘志に火がついたのです。「自分の中での目標はパリで開催される次回の世界選手権。もう一度世界の舞台に立ちたいんです」。地道な頑張りを続けて栄光をつかんだ恵本選手。96年は金メダル獲得、そして第46回日本スポーツ賞を受賞するなど、すばらしい年になりました。うれし泣きの涙を流しながら飛び跳ねたアトランタの感動ドラマを、きっとまた再現してくれると信じています!
- 柔道・今後のおもな大会日程
- 2月8・9日 フランス国際
- 2月22・23日 ドイツ国際
- 4月6日 第30回全日本選抜柔道体重別選手権大会(福岡市民体育館)
- 4月13日 平成9年全日本女子柔道選手権大会
- 4月27日 第20回全日本女子体重別選手権大会
- 4月29日 平成9年全日本柔道選手権大会
- 10月9日〜12日 第20回世界柔道選手権大会(フランス・パリ)
- 10月9日〜12日 第20回世界女子柔道選手権大会(フランス・パリ)
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