JOCは12月3日、本年度第2回目となるナショナルトレーニングセンター(NTC)セミナーを、味の素ナショナルトレーニングセンターで行いました。NTCセミナーは、強化現場に役立つ情報を各競技団体や育成現場の担当者に提供するもので、今回のテーマは「ジュニア選手の強化戦略」です。JOCが支援している全国11ヵ所の「地域タレント発掘・育成事業」の担当者と、中央競技団体のジュニア強化担当者、スタッフなどが参加し、それぞれの取り組みについて情報交換や総合討論を行いました。
JOCの福井烈・選手強化本部担当理事は「北京オリンピックで中国は51個の金メダルを獲得し、世界一のスポーツ大国になりました。これは全国の体育技術学校を軸に優秀な選手を集め、外国人指導者の数を増やすなど強化への意気込みを強めてきた結果です。日本も立ち止まってはいられません。数々の人材を発掘して各タレント層を充実させることが大切です。ジュニアでの活躍をシニアへと繋げていくためにも、このセミナーを有益な情報交換の場としていただきたいです」とあいさつしました。
福井理事があいさつ
第一部は、「各競技団体におけるジュニア強化の取り組み」をテーマに、強化の現場から報告がありました。最初は、日本バドミントン協会の金善淑ジュニアコーチが報告。まず、小学校の時点では日本の選手が強くても、中学高校になると韓国や中国の選手が上回っていく現状を紹介。その上で、「日本は、基礎を覚える前の小学校2年生くらいから大会に参加しています。中国では、小さい頃はフットワークや無駄の無い動き、体力などの基礎を徹底的に作り、小学校の間は大会には出ません。韓国も同じく小学校のうちは基礎を練習させます」と報告。「基礎がしっかりしていると、世界を目指す年齢になったときに、結果として成長する」と金コーチは話しました。また今年度からの取り組みとして、ジュニア強化指定選手の選考基準を変えたことを紹介。これまでは試合成績を重視していましたが、昨年度から選考合宿で体力測定を行い、低年齢ほどその結果を重視するというような選考方法に変更。現時点の技術よりも将来性を見極める選考方法を模索しているそうです。
金コーチから報告があった(右)
続いて、日本体操協会の新体操委員会強化部の曽我部美佳部長が登壇。2003年から始めている一貫指導システムによる競技者育成プログラムについて説明しました。プレジュニア、ジュニア、ナショナルと、年代が上がるにつれて選手数を絞り込み、年3〜4回の合宿で専門的なトレーニングを行う体制を紹介。その選考基準としては、スタイルや柔軟性など先天的なものだけでなく、手具を使いこなす器用さなど多様な動きも求められることから、識別の条件が重要だと話し、「身長が153cmでも得意技が光り、代表に選ばれた選手もいます。長所を評価するように考えています」と報告しました。また指導者育成の面では、ジュニアの強化合宿に各選手のコーチにも参加してもらい、日本体操協会側の強化方針を伝えるミーティングを行っていることを紹介。合宿を効率的に利用していると話しました。この育成プログラムをスタートさせてから、新体操は国際大会で着実に順位を上げ、「中でも団体は、2010年の世界選手権で6位。ロンドンオリンピックでメダルを狙えるところまで来ています」と曽我部部長は報告しました。
第2部は、「地域タレント発掘・育成事業の取り組み」をテーマに、全国11カ所で行われているタレント発掘の現場のうち2カ所からの報告がありました。まず、今年度から第一期生の育成が始まったばかりの「東京都ジュニアアスリート発掘育成事業」について、東京都体育協会の梅村実可・競技力担当部長が説明。同事業は、すぐれた運動能力を持つ中学2年生を対象に、高校生になってから競技を始めてもトップを目指せる可能性がある7競技(ボート、ボクシング、レスリング、ウエイトリフティング、自転車、カヌー、アーチェリー)に特化して、転向の機会を提供するものです。7競技の体験プログラムを通して、適性を見極め、また本人の意思や、高校進学後も継続できる環境なども考慮し、最終的な競技を決定しています。
続いて、「山形県スポーツタレント発掘事業・YAMAGATAドリームキッズ」について、山形県教育庁スポーツ保健課の長崎克己・スポーツ育成主査が話しました。小学校3、4年を対象に選考し、中学3年まで育成プログラムを実施。種目は特化せずに、短期合宿を行ってトレーニングや様々な種目体験をさせ、その練習成果を確認するための巡回指導を行っています。育成プログラムでは、指導者の育成も図ることや、スポーツだけでなく語学力・人間性・社会適応能力なども育てることが特徴になっています。今後の課題について、「中学までだけでなく、高校にうまく繋げていくパスウェイの部分が必要なので、考えていきたいです」と話しました。
最後に、5〜6人のグループに分かれて、各競技団体や地域で抱える課題と解決策について総合討論と発表が行われました。
各競技団体や地域が行う様々な取り組みが報告され、今後のジュニア選手の強化に向けて縦横のつながりを強化するセミナーとなりました。
グループごとに討論と発表が行われた