2010/11/28
サッカー男子 前評判を覆しU-21が金 ロンドンオリンピックへのスタートダッシュに
文・Masaki ASADA
「本当にメダル獲りたいなって思うし、優勝して、『オレらでも出来るんだ』っていうところを見せたい。そういう気持ちは選手一人ひとりが強く持っていると思います」。しっかりとパスをつないで攻撃を組み立てる、日本らしいサッカーで勝ち上がる中で、準々決勝を前にMF水沼宏太選手がそんなことを話していた。
日本のサッカー男子において、アジア大会初となる金メダル獲得。その要因が、この言葉に集約されているのではないかと思う。一言で言えば、「意地」である。
アジア大会のサッカー男子には、他の競技と異なり、出場資格に23歳以下という年齢制限がある。オーバーエイジの年齢制限を受けない選手は3名まで加えることができる。
だが日本の場合、アジア大会を2年後のロンドンオリンピックへの準備過程と位置付け、21歳以下のチーム、すなわちU−21代表で臨んだ。なぜなら2年後のオリンピックもまた、23歳以下という年齢制限があるからだ。つまり、他の国が23歳以下のチームでオーバーエイジの選手まで加えているとなれば、日本にとっては格上のチームということになる。例えば、韓国、北朝鮮、イランなどがそうした編成で臨んでいた。
しかも日本はこの時期、Jリーグが最終盤を迎えており、所属クラブの主力選手は招集できないという事情もあった。その結果、「所属クラブで控えのJリーガー+大学生」という編成になったのである。そうした事情もあって、大会前の評価は低いものだった。アジア大会初制覇を期待する声は皆無だったと言ってもいい。だがしかし、そうした低評価が選手たちを奮起させた。
大会が始まってみると、流れるように人とボールがピッチ上を動き回り、相手チームを翻弄。思わずスタンドからため息が漏れるような美しいゴールを量産した。
攻撃だけではない。守備でも5試合連続無失点を含め、全7試合でわずかに失点1。個人能力の高さでねじ伏せるような力強さはないものの、安定した試合運びは、全出場国・地域のなかでも際立っていた。
若い選手は、時に短期間の大会中で驚くほどの成長を見せるものである。こうした国際大会で優勝するチームというのは、「大会中に強くなっていく」と表現されることがあるが、まさに今大会の日本がそれだった。国際経験豊富とは言えない選手が多かったが、一戦一戦勝ち上がるごとに自信をつけている様子は、手に取るように伝わってきた。
「一戦一戦、自分たちの力を発揮しながら成長してきている。選手個人でもチームでも成長が見られます」。関塚隆監督も大会中、そうした手応えを口にすることが多かった。アジア大会に臨むにあたり、チーム立ち上げからわずかに1週間程度の準備期間しかなかったことを考えれば、指揮官の目にも、選手たちの成長があまりに頼もしく映っていたのかもしれない。
その一方で、確かに幸運に恵まれた面があったことも否定できない。決勝トーナメントでは、強豪国がことごとく日本とは反対の山に入り、日本と対戦する前につぶし合った。また、準決勝、決勝では、相手の決定的なシュートがゴールポストやクロスバーに当たって救われるという場面もあった。
それでも、21歳以下の若いチームが、大会を通じて素晴らしいプレーを見せたことだけは疑いようがない。それは金メダルという結果だけを指してのことではなく、日本が世界と互角に戦っていくために目指すべき「パスサッカー」を実践できていたという意味である。
金メダルを胸に水沼選手は言う。「これ(金メダル)を目標にやってきたので、とてもよかった。でも自分が目指すのはオリンピック。この経験を生かして、これからにつなげられるように頑張っていきたい」。U−21代表にとって低評価からの猛追撃は、来年始まるロンドンオリンピックのアジア予選に向けて、これ以上ないスタートダッシュとなった。