2010/11/27
レスリング女子 吉田は金、坂本・浜口は銅、ロンドンへのバネに
文・折山淑美
オリンピックでも金メダル有望種目となっているレスリング女子。今回のアジア大会でも当然、複数の金メダルが期待された。
だがその最初の階級である25日の48㎏級では、いきなり苦杯を飲む結果になってしまった。代表は9月の世界選手権で優勝している坂本日登美選手だった。初戦で中国の趙沙沙選手を第1ピリオド7対3で下して好スタートを切った坂本選手だが、準決勝ではソ・シムヒャン選手(北朝鮮)に第1ピリオド0対1、第2ピリオド2対5で奪われ、まさかの敗戦を喫してしまった。金メダル獲得が消滅した瞬間、彼女は泣き崩れた。
「今回は北朝鮮の選手もマークしていたけど、中国の選手を一番に考えていました。初戦でその中国選手に勝って気の緩みがでたかもしれないし、アジア大会という総合大会の雰囲気に飲まれていたのかもしれない。世界チャンピオンだからやらなければいけない、と思い過ぎていたのかもしれない……」。試合後、考え込むように言う坂本選手は、準決勝で負けた瞬間は3位では意味がないと思ったという。
かつては51㎏級で00年から08年までに6度の世界チャンピオンになっている坂本選手は、一時引退していた。だが、48㎏級でオリンピック代表を狙っていた妹の真喜子選手が09年に引退したのを機に、ロンドンオリンピックを狙って48㎏級で現役に復帰。今年9月にはいきなり世界チャンピオンまで上り詰めていたのだ。
だが、優勝して当然と思って臨んだアジア大会での思わぬ敗戦に心が折れかけた。「そんな時に、妹は世界選手権で優勝できなくて何度もこういう気持ちになっていたんだな、と思い出したんです」。妹の真喜子さんからは敗退すると直ぐにメールが来た。そこには「今は下を向いてる時じゃないよ。オリンピックのためにつまずいただけだよ。上を向いて頑張って。日本でいい報告を待ってます」とあった。気持ちを取り戻した3位決定戦は、キルギスのヌルマトワ選手を第1ピリオドで退けて銅メダルを獲得した。
「全日本選抜でも世界選手権でも減量はうまくいってたから、もう大丈夫という油断があったのかもしれない。それが負けにつながったと思います」と坂本選手は反省する。女子チームの栄和人監督は、「計量前には500gオーバーしていたが、その後動いて1.1㎏も減ってしまった。そのために動きが軽くなり、いつもの半分の力になったところを、パワーのある北朝鮮選手に力でやられてしまった」と説明する。だが逆に、簡単に1㎏以上減量できたということで、これから2年間は48㎏級でやっていけることを確認できたとも言う。坂本選手にとってこの敗戦は、次へのバネになる悔しさを植えつけただけでなく、復帰してすぐに世界チャンピオンになったことで生まれた心の隙も埋める、いい機会になったといえるだろう。
その翌日の26日、相変わらずの強さを見せたのが55㎏級の吉田沙保里選手だった。誰もが知っているように、オリンピック2連覇と世界選手権8連覇中の女王。初戦から決勝までの4試合を相手に1ポイントも与えぬ圧勝でアジア大会3連覇を果たした。前日は48㎏級で3位になった坂本選手と話をしていて、「アジア大会やオリンピックで勝つのは大変なことなんだね。ホントに沙保里ってすごいね」と言われ、明日は頑張ろうと思った、と笑顔を見せる。
「決勝の相手の張蘭選手(中国)は世界選手権では一階級上で2位になっていた選手なのでちょっ警戒していましたけど、思い切って行けて良かった。ただ第1ピリオドはすごくいい戦いができたけど、第2ピリオドは相手の飛行機投げを警戒してしまったので、少し悔いが残ります。若い選手も力を付けてきているので、もっと勉強して成長しなければいけないと思います」と、勝利に浮かれることはなかった。
63㎏級の西牧未央選手は2回戦、敗者復活戦ともに敗れてメダルを逃した。72㎏級の浜口京子選手は銅メダルを獲得。「準決勝で負けて悔しかった。でも悔しいという思いが出てきたので、『また勝とう』という気持ちが自分にあるんだなとわかりました。それでロンドンヘ挑戦したいという気持ちが固まりました」と話した。
目標の全階級制覇はならなかったレスリング女子だが、選手それぞれが、新たな気持ちを手にすることができた大会になった。