2010/11/16
競泳は中国と肉薄の争い 金メダルを確実に狙う我慢の大会
文・折山淑美
日本競泳陣が勢いのあるスタートを切った初日。今年7月からフォーム改良を始めている泳ぎで前半から積極的に突っ込んだ男子200mバタフライの松田丈志選手が、狙い通りに今季世界最高記録の1分54秒02で、3大会目にして初めてのアジアタイトルを獲得。その3ース前には今季急成長している男子400m個人メドレーの堀畑裕也選手が、平泳ぎで激しく追い込んできた黄朝升選手(中国)とのデッドヒートを0秒03差で制して優勝した。
だが2日目には中国の強さを嫌というほど味わされる結果になってしまった。特に、寺川綾選手と酒井志穂選手ともに優勝を狙っていた女子200m背泳ぎは、150mまでは酒井選手が優位に進めながらも、ラスト50mを30秒45という驚異的なラップで泳いだ趙菁選手(中国)に捲くられて破れた。しかも中村礼子選手が持っていたアジア記録を0秒67も更新する2分06秒46。メダルに近い種目と自負していた日本チームの自信を打ち砕くような結果だった。
そんな流れを変えるべく臨んだ3日目は、男子100m平泳ぎ北島康介選手の登場で期待が盛り上がった。だが調整が十分ではない北島選手は、見事な復活劇を演じたパンパシフィック選手権の時のような伸びのある泳ぎではなかった。「気持ちを盛り上げたけど、無理やり感はあるよね」というように、前半の50mは19ストロークと焦りのある泳ぎに。結局ラスト25mで失速して4位に終わってしまった。
だがそれを救ったのはポスト北島を以前から期待されていた立石諒選手だった。余裕のある大きな泳ぎで50mをトップで折り返すと、そのままじわじわと北島選手や予選トップのポリャコフ選手(カザフスタン)を引き離し、ただひとりの1分0秒台となる1分00秒38でゴール。「スタートが上手くはまったので、前半から気持ちよく泳げました。久々に自分の泳ぎが出来て素直に嬉しいですね。昨日の50mは0秒53差で負けたしチームにとってもあまりいい流れじゃなかったから、今日は康介さんと二人でいい流れを作ろうと思っていたんです」と笑顔で話す。記録こそ59秒台に入らずもうひとつだったが、ここで勝ったことがこれからの立石選手にとっては大きな財産となるはずだ。
そんな男子平泳ぎに続いて流れを引き寄せたのは、男子200m背泳ぎの入江陵介選手だった。泳ぎ込みが十分に出来ていない状態だったという彼は、勝つことを最優先した。スタートから十分に余裕を持った滑らかな泳ぎをし、30mでトップに立つと、50mを折り返してからは体ひとつ分にリードを広げる。結局、2位の張豊林選手(中国)に2秒以上の大差を付ける1分55秒45で、前大会に続く連覇を達成したのだ。「今年はケガもあったりして体調が上がらずなかなかいいタイムを出せなかったけど、1分55秒台を安定して出せたのは良かったと思います。来年はそれを『もっといいタイムが出せる』という自信にして頑張りたい」と、来年以降のレベルアップへの意気込みを口にした。
この大会、近年は世界に目を向けて積極的に海外から良いところを吸収しようとしている中国勢の強さに圧倒されている日本競泳陣だが、勝つべく選手が確実に勝っておくことこそ、次のチャンスでの飛躍を確実にするためには重要なことだ。我慢の大会で何個の金メダルを獲れるか。それこそがロンドンオリンピックへ向けての重要なポイントになってくるはずだ。