2010/11/27
ローラースポーツ 西木がトリプルアクセル失敗も演技力で金メダル、世界選手権へ意欲
文・折山淑美
「ダメですよ。最初のトリプルアクセルも、練習では成功してたのに失敗してしまったし。メダルは無理でしょうね。せっかく来てくれたのに本当にすみません」。演技を終えた西木紳悟選手は、申し訳なさそうな顔をして弱気な言葉を口にした。26日に行われたローラースポーツ男子アーティスティックスケートのシングルフリー。前日のショートプログラムで1位になっ西木選手。この日のロングプログラムは第2グループの1番滑走だった。
魅力ある演技でショートプログラム1位となった西木選手(アフロスポーツ)
一般的にはなじみが薄いローラースポーツのアーティスティックスケート。足に履くのは4輪のローラースケートで、滑るのはフローリングの上。スケートの氷の上ではないということ以外は、フィギュアスケートとまったく同じことをやる競技なのだ。
9歳の時に地元の徳島市のローラーフィギュアクラブでこの競技と出会って以来、西木選手はずっとローラースポーツを続けてきた。アーティスティックスケートは、南米とヨーロッパが強いという。この種目で彼は、08年の世界選手権は10位に。09年7月にチャイニーズ・タイペイで開催されたワールドゲームズでは、トリプルアクセルを跳んで5位になっている。アジア大会で初めて採用された今回、彼はその実績から優勝候補の筆頭と誰もが認めていた。
だが、初めて経験する大舞台での試合にプレッシャーは大きかった。最大の武器である冒頭のトリプルアクセルが、両足着地になる失敗となった。その後は連続3回転ジャンプの後の3回転フリップでバランスを崩して焦ってしまい、コンビネーションを予定していた最初の3回転ループで転倒。さらに、終盤のダブルアクセルでも転倒してしまったのだ。得点は253.8点で、前日のショートプログラムとの合計は338.7点。
「3回転フリップでバランスを崩したあとは、演技が曲からズレてしまって、ヤバイ、ヤバイと思って滑っていたんです。ダブルアクセルも、練習でも失敗したことがないのに今日は失敗してしまって…。今までの試合の中で一番残念な結果ですね。プレッシャーに負けてしまったことが悔しいです」。演技直後にこう話していたが、その後の選手の得点もなかなか伸びず、3位以内、2位以内とどんどん金メダルに近づいていく。
最終演技者は西木選手が強敵だという葉家成選手(チャイニーズ・タイペイ)。だが、ジャンプはほとんどをきれいに決めたものの、その得点は思ったほど伸びず248.4点で合計330.3点にとどまり、西木選手の優勝が確定した。驚きの表情をした彼に優勝の感想を問うと、何度も「申し訳ないですよ」と答えた。自分は失敗しているし、他の選手も頑張っているから優勝はできないものだと思っていたと。
だが演技を見てみれば、ジャンプこそ失敗しているが、サーキュラーステップやストレートラインステップ、つなぎの滑りの質は他の選手とは違っていた。スピード感が豊かでキレのいい滑り。「そこが自分の売りなんです」ともいう滑りと表現力は見事だった。
会場となったベロドロームを埋めつくした観客も、そのことをよく分かっていた。彼のステップが始まるとその迫力に声を殺したまま見つめ、音楽が一瞬止まる場面で西木選手が動きを止めると一斉に拍手が沸きあがった。そして再び響き出した音楽とともに彼が動き出すと、歓声まであがった。
そんな反応は、5人の審判が出した得点にも表れていた。葉選手の芸術点の最高点が8.3点だったのに対し、西木選手のそれは8.7点。「初めてこういうオリンピックのような大会に出られて嬉しいですね。その大会で金メダルを獲ったということで、日本の人たちにも喜んでもらえるだろうし。この結果でローラースポーツがみんなに知られるようになれば嬉しいですね」。
西木選手は来春大学を卒業してからは保育園に勤めることになっていて、競技が続行できるかどうかは不確定な状況だという。競技を続けられる環境であれば、まだ続けたいとも。しましまだ、その道は見えてきていない。「まずの目標は12月の初旬にポルトガルで開催される世界選手権ですね。以前は跳んでいた人もいたけど、去年からは試合でトリプルアクセルを跳んでいるのは僕ひとりだけなんです。そこでしっかりトリプルアクセルを決めて、ひと桁の順位には入りたいと思っているんです」。西木選手は、満面の笑みを浮かべながら話した。