【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】阿部一二三・詩：感謝の気持ちを忘れず、胸を張って畳を下りようと思っていました

　JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

阿部一二三（柔道）
男子66kg級金メダル

阿部詩（柔道）
女子52kg級金メダル

拡大写真を表示

日本初の兄妹同日金メダルを達成した阿部一二三選手（左）と阿部詩選手（写真：フォート・キシモト）

■「これが始まり」という思い

――改めまして、きょうだいそろっての金メダル獲得おめでとうございます。率直な感想をお願いします。

一二三　金メダルを取れてホッとしている気持ちで、本当に良かったなと思っています。

――本当におめでとうございます。詩選手はどうですか？

詩　ずっと目標にしてきた東京2020オリンピックで金メダルなので、今はすごく喜びを感じています。

――試合後の二人の表現の仕方が対照的でした。詩選手は喜びを爆発させていたように見えましたが、一二三選手は全ての感情を内に込めているように感じました。試合直後は今振り返るとどんな思いでしたか。

詩　勝った瞬間はすごくうれしくて、そのうれしい気持ちを全て表現した形があのようになりました。本当にうれしさが爆発したっていう感じです。

――こちらも清々しい気持ちになりました。一方で、一二三選手からは重みを感じました。

一二三　このような難しい時期ということもあり、開催を否定する声が私の耳にもたくさん届きました。ですから、畳の上に立ったら常に感謝の気持ちを忘れず、ある意味「これが始まり」という思いを持って、胸を張って畳を下りようと思っていました。

――今大会の開催の是非についていろいろな意見がお二人の耳にも入ってきたと思います。それについてはどのように受け止めていらっしゃいましたか。

詩　オリンピックが本当に開催されるかどうか分かりませんでしたが、気にし過ぎるのも良くないと思い、そういう世間の声に関しては自分の頭に入れないようにしながら、オリンピックに向けてしっかり準備をしていました。

――開催される前提でしっかり準備をされていたということですね。一二三選手はいかがですか。

一二三　そうですね、オリンピックはあると信じるしかなかった。信じていました。

――東京大会は1年延期になりました。そして、一二三選手は、丸山城志郎選手との東京オリンピック66㎏級代表の座を争う決定戦に挑まれました。あの試合によって、ご自身の中で何か変化が起こるとか、もしくはあの試合があったから今があるといったことはありますか。

一二三　あの試合は今の自分と全てつながっていると思います。あの時の試合がなければ今の自分はいないので、あの試合があって良かったと思っています。

拡大写真を表示

無観客での開催は「想像とは違う会場の雰囲気と、緊張感があった」という阿部一二三選手（写真：アフロスポーツ）

拡大写真を表示

兄・一二三選手の魅力は「一発の技の威力」と語った阿部詩選手（写真：アフロスポーツ）

■追いかけられる立場として

――オリンピックを目指す中で、日々どのようなことにチャレンジしてきましたか。

一二三　変わったことはしていないですね。いつも通りに自分のことをやるだけ、練習を大事にしていました。あとは、自分の柔道にいろいろな枝をどんどん付けていくという感じで。でも、基本的に、本当にやることは変わらずにやってきたという感じでしたね。

――詩選手は、3年前のインタビューの時に、少しずつ追いかけられる立場になってきたとおっしゃっていました。今大会では完全に海外の選手たちから研究される存在になっていたと思います。ここ2～3年のご自身の成長を、そして、相手選手に対してどのように感じていましたか。

詩　やはり3年前とは全く違って、今大会では追いかけられる立場だったので、相手選手も研究をしてきていたと感じました。思うように自分の組手になれなかったり、自分の技に入れなかったりという部分が多くなっていましたので、私自身、重点的に苦手な組手を練習して、粘り強い戦い方を考えて本番に挑みました。

―― 一二三選手は、かつてユースオリンピックに出場しました。東京2020オリンピックという真のオリンピックに出てみて、想像と違う部分、もしくは想像と同じだったこと、どのように感じていますか。

一二三　オリンピック特有の緊張感に加えて、今回は無観客ということでそれも独特の雰囲気がありました。自分にとって無観客はあまり関係がなかったのですが、想像とは違う会場の雰囲気と、緊張感がありました。

――詩選手は初めてのオリンピックに実際に出てみてどうでしたか。

詩　2日前くらいからすごく緊張して、「ああ、これがオリンピックなんだな」と思って。オリンピックに飲まれないようにと思いながら試合に挑んだのですが、実際に試合をしてみると、普段の試合と変わらないようにいつも通りの自分で畳に立てました。そういう意味では、オリンピックというものに負けなかったのかなと思います。

――柔道家として、お互いに良いと思っているところを教えてください。

一二三　立ち技も寝技も素晴らしいところだと思います。立って良し、寝て良し。そこはすごいと思います。

詩　一発の技の威力っていうのが本当にずば抜けていると思います。そういう部分は尊敬しています。

――お二人とも今後ますます注目されると思います。これからも素敵な柔道に期待していますので、ぜひ頑張ってください。

一二三　ありがとうございます。

詩　ありがとうございます。

■プロフィール
阿部一二三（あべ・ひふみ）
1997年8月9日生まれ。兵庫県出身。三人きょうだいの次男で、6歳の時に柔道を始める。2014年、第2回ユースオリンピックの男子66㎏級で優勝。同年、講道館杯に出場し、高校2年生で最年少優勝。さらに初めて挑むシニア大会となったグランドスラム東京でも、66㎏級で金メダルを獲得。2017年、18年の世界選手権男子66kg級で2連覇。21年東京2020オリンピックでは男子66㎏級で金メダルを獲得し、日本史上初の「きょうだい同日金メダル」を達成した。パーク24（株）所属。

阿部詩（あべ・うた）
2000年7月14日生まれ。兵庫県出身。三きょうだいの末っ子。5歳の時に兄二人に続き、柔道を始める。16年、高校1年生の時にグランドスラム東京の52㎏級で準優勝。翌年には同大会で優勝を果たす。2018年の世界選手権で金メダルを獲得し、きょうだいそろって世界王者に。21年東京2020オリンピック女子52㎏級で金メダルを獲得。日本体育大学所属。