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2021.10.15 オリンピック

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】ウルフ アロン:プレッシャーから逃げずに向き合えたことが良かった

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

ウルフ アロン(柔道)
男子100kg級 金メダル

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】ウルフ アロン:プレッシャーから逃げずに向き合えたことが良かった
今大会の優勝で、全日本選手権、世界選手権、オリンピックの柔道3冠を達成したウルフ選手(写真:アフロスポーツ)

■目標にしていた3冠達成

――金メダルを獲得して、まずは率直な感想をお聞かせください。

 地元で開催される東京2020オリンピックということで、家族や知り合い、親戚も応援しやすい大会ということもあり、さまざまな人から応援してもらって、それを力に変えて試合することができました。

――今回攻め続けての金メダル。特に決勝は最後指導が2対2というお互いに後がない状況の中で、無尽蔵のスタミナで技をかけ続け、最後は鮮やかな一本勝ちでした。ご自身の柔道に対するこだわりはどういうものがありますか。

 僕自身の柔道のこだわりは、泥臭くても良いので、もう何としてでも勝ちをとりにいくという柔道スタイルですね。

――100㎏級の金メダルは、井上康生監督以来、21年ぶりとなります。さらにこれで、史上8人目の柔道3冠(全日本選手権、世界選手権、オリンピック)を達成しました。柔道の歴史に名を刻みましたが、今のお気持ちは。

 重量級で柔道をやっているので、この柔道3冠を目標にしていました。今回のオリンピックでその3冠を達成することができたことは、素直にうれしいです。また、3冠を取った他の方々は、世界選手権にしても複数回連覇などの結果を残しているので、この結果におごらず、もっともっと結果を積んでいきたいと思います。

――今回、金メダルを獲得できた最大の要因は何でしょうか。

 まず、自己分析がうまくできていたのかなという部分があります。また、相手のこともしっかりと研究できていたのかなと思います。

■地に足をつけた戦い

――2017年に左膝、2019年に右膝と半月板の損傷をされて、大ケガを乗り越えた上での東京2020オリンピックでした。どのような気持ちでしたか。

 柔道は過酷な競技なので、ケガは付き物だと思っています。ケガをしてしまうのは仕方がないと思いますが、ケガとの向き合い方やケガした時の自分との向き合い方をしっかりと考えてきたことによって、このような結果がついてきたのかなと思っています。

――団体戦でテディ・リネール選手(フランス)と対戦しました。体重差が30kg、身長差20cm。ご自身の膝は大丈夫でしたか。

 今もちょっと痛いのですが、世界で戦っていく上でリネール選手は大きな壁だと思っています。そのリネール選手を倒すためにもっともっとそれこそ自己分析をしたり、どうやったら勝てるのか、相手はどこが苦手なのかといった部分をしっかりと研究したりしながら、やっていかないといけないと思いました。

――今回金メダルをとって、オリンピックで勝つための戦い方と他の大会での戦い方に、何か違いを感じましたか。

 戦い方という点では、地に足をつけることを意識しました。例えば、以前までは内股をよく使っていたのですが、あまり使わずに、返しにくい大内刈を意図的に使って試合をしました。あとは、この大会に懸ける気持ちが、他の大会よりも何百倍も強かったので、そういうところの差もあるんじゃないかなと思います。

――柔道はお家芸と言われるくらい、世間からのメダルに対するプレッシャーが大きいと思いますが、実際にそのプレッシャーに対してご自身はどのような気持ちで戦っていたのでしょうか。

 そのプレッシャーから逃げることってすごく簡単だと思うんですけど、僕はあえてそのプレッシャーを全て受け入れて、ここ2カ月ぐらいは本当に毎日対戦相手のビデオを見るなどして、眠れない夜も過ごしました。日々緊張しながら練習やトレーニングをしていたんですけど、そのプレッシャーと向き合ったことによって、その試合当日には思っていたよりも大したことない緊張だなと思うことができました。しっかりとプレッシャーから逃げずに向き合えたことが良かったと思います。

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】ウルフ アロン:プレッシャーから逃げずに向き合えたことが良かった
オリンピックの価値や競技の価値を広めるために「僕たちのような第一人者が率先して表舞台に立つことが大事」と語った(写真:フォート・キシモト)

■柔道とオリンピックの魅力を発信する

――オリンピック金メダリストとして、オリンピックの価値や素晴らしさを今後どのような形で世間に伝えていきたいと思っていますか。

 柔道競技を続けていくことも一つの方法だと思いますが、オリンピックの価値やその競技の価値を世間に広めるためには、僕たちのような競技の第一人者が率先して表舞台に立つことが大事だと思います。ですから、時間がある時はメディアなどにもできるだけ露出して、柔道の人気を広げて、またそれをオリンピックの人気へとつなげていきたいと考えています。

――柔道3冠のウルフ選手には、3年後のパリオリンピックに対しての期待もあると思います。今後に向けての抱負をお願いします。

 まず、先のことを考えることは一旦止めているんですけど、これで引退するということは100%ありません。プロとして柔道をやるからには勝たなければ意味がないですし、やるからには1番をとらなければならないと思っています。

――階級の変更も検討されていると伺いました。

 階級変更を考えているから、昨日も100kg超級の選手と試合をしてみたのですが、初っ端からリネール選手だったのでキツかったですね。正直なところ、今もちょっとビビっています(笑)。

――延長戦まで戦って、見ている側としては、本当にすごくいい試合を見せていただいたと思っています。

 まだまだ、負けているようじゃダメですよね。ただ、リネール選手も全盛期じゃないですから、もう少し考えたいと思います。
 この3年間のサイクルがすごく大事です。1階級上で戦うとなれば、次の年に100kg級に戻すことができません。そのサイクルを考えた上でどうするのがベストなのかはもう少し考えます。

――3年後、期待しています。

 はい、ありがとうございました。

■プロフィール
ウルフ アロン(うるふ・あろん)
1996年2月25日生まれ。東京都出身。父親はアメリカ出身、母親は日本出身。6歳で柔道を始める。大学4年生の2017年に世界選手権に初出場し、100㎏級で金メダルを獲得。19年には全日本選手権100㎏級で初優勝、同年の世界選手権では銅メダルを手にした。21年東京2020オリンピックの100㎏級では、21年ぶりに金メダルを獲得し、史上8人目の3冠を達成した。混合団体では銀メダル。了徳寺大学所属。

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