シドニー2000
テニス TENNIS
見どころ
(1)今大会の目標、チームの特徴
今大会の目標は杉山愛・森田あゆみの女子ダブルスでの銅メダル、杉山の女子シングルスでの銅メダル、錦織圭の男子シングルス、森田の女子シングルスでの入賞である。
チームの特徴としては、四大大会57大会連続出場の世界記録を樹立した杉山を筆頭に、若手の成長著しい森田、錦織選手と、スタッフとして、選手からの信頼も厚い竹内映二監督、馬木純也トレーナー、杉山芙沙子コーチ、丸山淳一コーチらが選手をサポートする体制で、今大会に挑む。
(2)日本チームの特徴、有力選手
日本チームの特徴は、ベテランと若手が融合したチームであると言えるだろう。杉山が33才、錦織・森田が18才である。杉山は4度目のオリンピック出場となる今大会で、1年前からメダルへのチャレンジを公言しており、若手で初出場となる錦織や森田を色々な意味でリードしてくれるに違いない。
有力選手は、3名全員。前述の通り、3名とも充分にメダルや入賞を狙える実力を持っている。
錦織は、ITF最終選考枠でのシングルス出場となった。四大大会ジュニア日本人初優勝、デビスカップ最年少勝利、世界ランキング100位最年少到達、そして戦後最年少オリンピック代表と数々の日本テニス界の記録を塗り替えてきた。08年2月のツアー優勝の際にはランキング12位(当時)のジェームズ・ブレーク(米国)を破り、08年6月のウィンブルドン前哨戦では2位のラファエル・ナダル(スペイン)とフルセットにもつれる接戦を戦うなど、ランキング上位選手にとっても脅威であることは間違いない。
杉山は、3選手の中で唯一、自身のランキングでの出場権を獲得。今季のツアー大会でも相変わらずの勝負強さを見せている。ダブルスではティアI大会で2勝しており、世界ナンバーワンのペアも破っている。シングルスでもトップ10の選手を倒しており、持ち前の速い展開を活かしたプレー振りは健在だ。前回のシドニー大会ではダブルスが3位決定戦に敗れて4位、シングルスでもベスト8とメダルに手が届きそうなところまで迫っただけに、今大会にかける思いは特別であろう。88年ぶりとなるメダルを獲得し、日本のオリンピック史に新たな1ページを加えてもらいたい。
森田は、杉山からパートナーとしての指名を得てダブルスの出場権を獲得。シングルスでも国際テニス連盟(ITF)の最終選考枠で出場権を得た。杉山とのダブルスは、フェドカップやITFサーキットで経験を積んでおり、特に今年4月のフェドカップ・フランス戦では素晴らしい活躍を見せた。シングルスでも今年の全仏オープンでランキング13位(当時)のアグネシュ・サバイ(ハンガリー)をあと一歩というところまで追い詰めており、上位選手とも互角にわたり合えることは証明済みである。
(3)他国の有力選手
男子シングルスには、世界ランキング1位の座を200週以上連続で保持し続けているロジャー・フェデラー(スイス)、今年の全仏オープンの覇者で2位のラファエル・ナダル(スペイン)、昨年から今年にかけて一気に活躍し、今年の全豪オープンの覇者となった3位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)のトップ3名が全員出場を予定している。前回のシドニー大会において、フェデラーは絶対的に金メダルを取る力があると見られていたが、1回戦で足元をすくわれる結果となっており、今大会でシドニー大会のリベンジなるかが注目である。
女子シングルスは前回のシドニー大会の覇者であり、1位の座を保持し続けていたジュスティーヌ・エナン(ベルギー)が突然の引退、代わって1位の座に着いたのは全仏オープンを制して初めてのグランドスラムタイトルを手にしたアナ・イワノビッチ(セルビア)であるが、先のウィンブルドンでは3回戦にて敗退。絶対的な力を持つプレーヤーがおらず誰がメダル争いに絡んでくるかが分からない状態である。エレナ・ヤンコビッチ(セルビア)やマリア・シャラポワ(ロシア)などトップの選手もほとんどが出場予定であり、激しい争いが展開されると思われる。
男子ダブルスの本命はランキング同率1位で絶対的な力を誇るボブ・ブライアン、マイク・ブライアン(米国)の双子のダブルスペア。普段のツアーでは国籍が違う選手同士が組んでいる事が多いため、普段からペアを変えることなく組み続けており、デビスカップの代表としても数々の経験を得ている彼らのペアは、大きなアドバンテージを持っていると思われる。対抗となりそうなペアはグランドスラムの優勝経験もあり、普段からペアを組むことも多い、フランスのアルノー・クレマン、ミカエル・ロドラのペアか。ただしオリンピックの男子ダブルスでは前回のシドニー大会で優勝したチリのペアのように大きな番狂わせが起きることも多く、波乱含みの展開になると予想される。
女子ダブルスは、地元中国の国民が最も注目する種目と言える。長期計画で今大会でのメダル獲得を目標として重点強化してきたこの種目が、4年も早くシドニー大会で金メダルを取ってしまったからだ。シドニー大会で金メダルを取ったのは李※(女ヘンに亭)と孫甜甜のペアであったが、現在は晏紫、孫甜甜、彭帥、鄭潔の4名がランキング上位におり、誰にでもチャンスはある。ただし、シドニー大会でのメダル獲得以降、中国人選手にかかる国民の期待が大きく、選手達には大きなプレッシャーとなっているようで、そのプレッシャーが期待に応えようというモチベーションとして吉と出るか、精神的な重圧として凶と出るかは分からない状態である。日本は杉山、森田ペアがこの種目でのメダル獲得を狙っているが、地元中国人選手以外にライバルとなるのは、ランキング2位のダブルス巧者であるリーゼル・フーバーと、出産でのブランクはあるもののダブルスでの実績も十分のリンゼイ・ダベンポートが組む米国のペア、同じく米国のセリーナ、ビーナスのウィリアムズ姉妹のペア、荘佳容、詹詠然のチャイニーズ台北ペア等と思われる。
その他特筆すべき事項
(1)話題性のある選手
海外選手での注目はマリア・シャラポワ(ロシア)、オリンピックの開会式における旗手を自ら志願するも断られるなど、事前に話題をふりまいている。オリンピックに対してのモチベーションはかなり高いようで、自分にとってのビッグチャンスとして捉えているようだ。また、国を背負う戦いとなるオリンピックという意味で注目なのはノバク・ジョコビッチ、アナ・イワノビッチ、エレナ・ヤンコビッチらのセルビア勢で、セルビアが独立した国家となってはじめてのオリンピックだけに、力が入っていると思われる。
(2)過去の大会でのエピソード
日本のテニスは、オリンピックで、さん然と輝く歴史の1ページを築いた。初参加の1920年アントワープ大会で、2個の銀メダルを獲得した。この2個のメダルは、日本のオリンピック参加史上初めてのものだった。
アントワープ大会には、陸上(11選手)、水泳(2選手)とともに、テニスも熊谷一弥と柏尾誠一郎の両選手を派遣した。熊谷は慶応義塾大学卒業後、三菱合資会社に、柏尾は東京高等商業学校(現在の一橋大学)卒業後に三井物産に入社し、当時、ともにニューヨークに駐在していた。熊谷は1919年に全米ランキング3位になったこともあり、米国テニス界において、すでに名を知られた存在だった。当時は、日本テニス協会が設立されていなかったため、大日本体育協会(日本オリンピック委員会の前身。当時は同委員会と日本体育協会の2役を兼務)が両選手の活躍を耳にして派遣を決めたようだ。
熊谷、柏尾の両選手は、1920年7月11日に、客船オリンピック号でニューヨークを出航。17日に英国サウサンプトンに着き、シドニーに2週間ほど滞在し練習を積んだ。8月2日に、英ドーバーから乗船してベルギーのオステンドに着き、当地で開催された前哨戦に出場し、シングルスは熊谷が柏尾を破り優勝。ダブルスも両選手が優勝するなど、オリンピックに向けて最高の調整ができた。
アントワープ大会のテニスは15日に始まった。シングルスで、柏尾は3回戦で敗退したが、熊谷は実力を発揮し決勝まで進出した。しかし、決勝は雨中の試合となり、熊谷は眼鏡がぬれて曇った不運も手伝い、南アフリカのL. Raymondに7-5、4-6、5-7、4-6で惜敗した。熊谷は柏尾とのダブルスでも準優勝に終わったが、もう1つの銀メダルを手にした。
この年、オリンピックに先立つ6月末、日本選手としてウィンブルドンに初めて参加した清水善造が、前年度優勝者に対する挑戦権を懸けたオールカマー決勝まで進んだ。清水はこの時、三井物産のカルカッタ(インド)駐在員。インドのベンガル選手権で5年連続優勝を果たす活躍をしていた。東京高等商業学校で1年後輩に当たる柏尾は、大日本体育協会に連絡を取り、清水をオリンピックに派遣してもらえるよう要請したが、承諾を得られなかった。もし、清水が参加していれば、アントワープ大会で日本人同士の優勝争いが展開されていたかもしれない。
日本は1924年パリ大会に4人の男子選手を派遣したが、シングルスで原田武一が準々決勝まで進んだのが最高の成績だった。テニスが1988年ソウル大会からオリンピック競技に復帰すると、日本選手は世界のトッププロを相手に苦戦を続けてきた。 しかし、1996年アトランタ大会で伊達公子が女子シングルスでベスト8に進出。2000年シドニー大会では、杉山愛と浅越しのぶの女子ダブルスが、日本テニスにとって84年ぶりのメダル獲得まで残り1勝と迫ったが、惜しくも4位入賞に終わった。また、男子は、初めてシングルス、ダブルスともに出場権を得られなかった。
国際大会での日本チームの成績
錦織 圭
・4大大会シングルス:08年ウィンブルドン1回戦
・ツアー・シングルス:08年デルレービーチ国際優勝、07年インディアナポリス選手権ベスト8
・チャレンジャー・シングルス:08年バミューダ優勝、マイアミベスト4
・チャレンジャー・ダブルス:8年イズミル(Levine(米))優勝
杉山 愛
・4大大会シングルス:00年全豪、04年ウィンブルドンベスト8
・4大大会ダブルス:00年全米(アラール・デキュジス(仏))、03年全仏、ウィンブルドン(ともにクライシュテルス(BEL))優勝、
00年ウィンブルドン(アラール・デキュジス(仏))、01年ウィンブルドン(クライシュテルス(BEL))、04年ウィンブルドン(フーバー(RSA))、
06年全仏(ハンチュコバ(SVK))、07年全仏、ウィンブルドン(ともにスレボトニク(SLO))準優勝
・ツアー・シングルス:97年ジャパン・オープン、98年豪州女子ハードコート選手権、ジャパン・オープン、
03年ステートファーム女子クラシック、ジェネラリ女子、04年アンクルトビーズ・ハードコート優勝
・ツアー・ダブルス:00年エリクソンオープン(アラール・デキュジス(仏))、01年テニスマスターズ(アレント(米))など36回の優勝
・総合:94年広島アジア大会女子団体金メダル、ダブルス(長塚京子)金メダル、04年シドニーオリンピックシングルスベスト8、
ダブルス(浅越しのぶ)4位
森田 あゆみ
・4大大会シングルス:07年ウィンブルドン、08年全仏1回戦
・ツアー・シングルス:07年コモンウェルス銀行クラシック、ハンソル韓国オープンベスト8
・ツアー・ダブルス:07年pttバンコクオープン(波形純理)準優勝、07年ハンソル韓国オープン(波形)、
・総合:ストラスブール国際(フェダク(UKR))ベスト4、05年マカオ東アジア競技大会シングルスベスト8、ダブルス(波形)ベスト8