ドーハアジア大会
第15回アジア競技大会(2006/ドーハ)
ドーハの熱き風〜スペシャル現地レポート
充実感のあった大会、ドーハ2006
文:折山淑美
ホッケー女子日本チーム(写真提供:アフロスポーツ) |
水球日本チーム(写真提供:アフロスポーツ) |
醍醐直幸選手(写真提供:アフロスポーツ) |
選手意識の向上が金メダルにつながる
大会最終日を残す12月14日を終え、アジア競技大会での日本のメダル獲得数は金50、銀71、銅77の合計198個と決定。金メダル数では惜しくも、韓国を上回ることはできなかったが、前回の釜山大会からは6個増。また、金メダルとはいかなかった競技でも、中国についで2位になった女子ホッケーは北京オリンピックの出場権を獲得。中国に敗れて2位に終わった男子水球も、準決勝で宿敵カザフスタンを破って、来年3月の世界水泳選手権の出場権を獲得という成果を挙げた。
日本の金メダル獲得状況を見た時、大きな貢献をするとともに、最も成果を上げたと言えるのは競泳だろう。金メダル数では前回より5個増やす16個だが、その数より価値があるのはアジア最強を誇り、来年の北京オリンピックヘ向けて若手に切り換えて強化を進めている中国と金メダル数で並んだということだ。その中でもオリンピック種目に関すれば、中国が13に対して日本は15と勝っている。前回の釜山大会の200m平泳ぎで北島康介が世界新を出して以来、世界大会のメダルを身近に感じるようになった選手たちの自信が、この結果を生んだといえる。
同じような選手の意識向上でメダル増を果たしたのは、陸上競技にも言えることだ。98年バンコク大会男子100mで伊東浩司が10秒00をマークして世界へ追いすがり始めた男子短距離は、03年世界陸上男子200mで末續慎吾が銅メダル獲得とひとつの成果を出した。その刺激がこれまで世界とは遠いと思われていた他の種目の選手に伝わり、棒高跳びの澤野大地、女子走り幅跳びの池田久美子など、世界へ通用する選手を育て始めた。それが94年広島大会に並ぶ金メダル5個獲得につながった。男子走り高跳びの醍醐直幸、男子4×100mリレーなど取れるべき金を逃したことは惜しいが、可能性は確実に大きくなっている。
大会全体を振り返って〜アジア競技力の向上と日本
大会全体を振り返れば、運営もしっかりとした、充実感のある大会だった。また競技面でも、以前からアジアが強かった柔道、卓球、バドミントン等だけでなく、これまでは世界に水を開けられていた競技でのアジアの力の向上も見られた。その代表が競泳男子自由形1500mでの韓国・朴泰桓のアジア人初の15分突破、14分55秒03のアジア新記録樹立だろう。この記録は06年世界ランキング2位となる記録。自由形は長らく、女子中国勢のみが世界へ通用する種 目だったが、やっと男子アジア人も通用する時代になった。
松田丈志選手(右)、真ん中が朴泰桓選手(写真提供:アフロスポーツ) |
大崎悟史選手(右)、真ん中がシャミ選手(写真提供:アフロスポーツ) |
また男子マラソンも、優勝したカタールのシャミの走りは、前半が極端に遅かったためにゴールタイムこそ2時間12分44秒と平凡だったが、35kmから40km間を14分52秒、ラストの2.195kmを6分27秒で制した力は、確実に世界のトップクラスの走力。中東諸国の男女中・長距離で活躍する選手のほとんどがアフリカからの移籍選手であるという問題点はあるが、彼らがそれらの国を代表している以上、日本選手も勝つ努力をしなくてはいけない。それを不利だと捕らえるより、アジアで世界レベルの戦いができると受け入れた方が今後につながるはずだ。
競泳の平井伯昌コーチは全日程を終えてこう話した。「(北島)康介が世界新を出し、世界選手権で金メダルを獲ってからは、アジア人が何故世界に通用するのかと数多くの質問を受けたんです。それと同じように今回は、韓国から朴選手が出てきた。だから言葉の壁はあるけど、横のつながりの強いヨーロッパの国々と同じように、もっと謙虚になってアジアとの情報交換をする必要があると思いますね」
これまで世界をみることばかりに捕らわれ過ぎていた各競技団体が、足元のアジアをもう一度見直すような機運が生まれてくれば・・・。それもひとつのアジア競技大会の成果だといえるだろう。
ただ、競技面でのアジア競技大会を振り返れば、審判技術の低さが今後の課題となるだろう。シンクロの得点の不可解さや、飛込みでの得点のばらつきの多さ、競歩の歩型違反の判定の甘さなど、随所に疑問を感じた。アジア競技大会がさらにいい大会になるためには、この審判問題の改善は不可欠だといえる。
(2006.12.15)
折山淑美 : 長野県出身、神奈川大学工学部卒業。スポーツライター。
主な著書に「誰よりも遠く-原田雅彦と男達の熱き闘い」「末續慎吾×高野進-栄光への助走 日本人でも世界と戦える!」「北島康介—世界最速をめざすトップアスリート」など、多数。