幼少期にスカッシュを始め、その難しさに惹かれてのめり込む。12歳でマレーシア、19歳でイギリスへ留学し、葛藤とコロナ禍を経てプロとしての覚悟を決めた。現在は日本人初の世界ランキング10位以内に到達し、海外を拠点にプロツアーを回りながら活動している。自国開催となるアジア大会への思いや競技の魅力、そしてロサンゼルス2028大会での金メダル獲得を見据えた意気込みを聞いた。

――スカッシュを始めたきっかけを教えてください。
スカッシュをやっていた知り合いのお母さんに勧められ、8歳の時に出会いました。体を動かすことが好きでいろいろなスポーツをやっていましたが、道具を使うスポーツをやったことがありませんでした。他の競技では最初苦戦しても比較的すぐできるようになることが多かったのですが、スカッシュをやってみて中々上達しない難しさが新鮮で、そこにのめり込みました。
――そこから単身留学などたくさんの選択をしていったと思いますが、どういう心境で選択を行ってきましたか?
全てスカッシュ中心の選択です。とにかく「スカッシュを強くなりたい」という思いでマレーシアやイギリスに留学しました。
――留学を決めた際は、将来についてどのようにイメージされていたのですか?
初めて12歳でマレーシアに留学した時は、ただ漠然と強くなりたいと思っていました。明確な将来が見えていたわけではなく、子どもの頃の夢みたいな感じですが「スカッシュで世界一になりたい」という夢がありました。19歳でイギリスに留学した時には、夢から明確な目標に変わっていたので、「イギリスで何を学んでどう強くなるか」というのを自分の中で確立してから留学しました。
――現在、プロとしてスカッシュ一本でご活躍されていますが、その決断に至った理由をお聞かせください。
最初は、このまま自然にプロになると思っていました。しかし、ジュニアからシニアへ切り替わる18〜19歳の時期に成績が伸びず、人生選択に悩んだ時期があり、そのときに初めて「スカッシュをやめようかな」とまで考えました。その葛藤を経て、自分でしっかり覚悟を持って「プロになろう」と腹を決めました。スポーツの業界は甘くないので、イギリスに行く段階で「プロでやる」と決め、そのときには自分でちゃんと覚悟を持って目指すようになりました。
――言える範囲で、どういうことに対して悩んだのでしょうか?
ジュニアからシニアへの転換期だったのでどうしても試合で勝てず、自分の中で「スカッシュ一本でやっていきたいな」という思いと結果が伴っていなくて悩んでいました。あとは同世代の周りの子たちは進学などしっかり将来設計を立てていたので、「自分はこのままでいいのかな」と悩みました。でも、コロナの影響で競技ができずラケットが触れない期間の中で、「やっぱりスカッシュが好きなんだな」と自覚でき、しっかり覚悟を決めてプロにチャレンジしたいと思いました。また、コロナ禍であったことや怪我により競技を続けることができなくなってしまった時のことを考え、「やっぱり大学も出ておかないといけないな」とも考えました。イギリスだと両立が可能な大学が何校かあったので、イギリスに留学して大学とツアーを回ってプロを目指すという両方を行う選択をしました。
――今、その決断を振り返ってみていかがですか?
今のところ後悔はしていないです。良い選択になったかなと思っています。ただ、唯一後悔していることがあるとすれば、もっと早くにしっかりと覚悟を決めて両方をやっておけばよかったなと思います。その2年間が無駄だったとは思いませんが、2年も時間があったらもっといろいろなことができたなというのは今になって思います。ただ、その2年間があった分、今は無駄にしないようにしようと思えています。

――そういう道のりを経て、日本人初の世界ランキング10位以内ですね。これは想像していた未来だったのか、自分でもびっくりするような未来だったのか、どちらでしょうか?
半々ですね。そこを目指して頑張りたいなと思って覚悟を決めてイギリスに留学したので、目標をしっかり達成したという意味では自分の自信になりましたし、予想していたというよりはそこを目指していたので、非常にびっくりというわけではないです。プロとしての覚悟を決めた時も「そこまで行けるかどうか」という気持ちもあったので、コロナ禍が明けて5年ほどで今のポジションまで来られたのは、半分びっくり、半分ちゃんと目標達成できたなという感じです。
――いろいろな悩みなどを経てやってきたと思いますが、スカッシュは常に面白いですか?
「スカッシュがつまらないからやめようかな」と考えたことはないと思います。それよりは、「将来これで本当に食べていけるのか」という点でした。趣味に変更するのか、本気でやるのかという悩みだったので、スカッシュが楽しくないからやめたいというのはなかったです。勝てない時や、目指しているランキングにたどり着かない時は難しいですけど、初心に戻るとその難しさが楽しさに変わります。苦しい時期も無くはないですが、その時間もなるべく楽しみたいなと思っています。
――スカッシュの魅力はどこですか?
ラケット競技で目の前に壁があるのが特徴で、ネットを挟んで相手と向かい合わずに、対戦相手と肩を並べて試合します。駆け引きがたくさんあり、選手の頭脳戦を楽しんでいただくことももちろんできます。また、躍動感やスピード感はもちろん、ジャンプして打つなど目で見ても楽しめると思うので、両方に注目して見ていただきたいです。
――この限られたコートの中だからこそ、圧倒的なスピードを感じますね。
そうですね。コートのサイズに限界があり、ボールは抜け切らずに戻ってきます。プレー中は「どうやって相手を動かさないか。速さと頭脳戦のどちらで抜きに行くか」を考えています。スピード感を持って早く打つという選手もいれば、逆にペースを落として頭を使いながらやっている選手もいるので、様々なプレースタイルを楽しんでいただけます。
――いろいろな選手がいる中で、渡邉選手のプレーの中での注目ポイントはどこですか?
私の持ち味はスピード感とパワーです。自分の好きなショットは、言葉を選ばずに言うと相手の選手を出し抜くような、打つまでの時間を使って相手選手を騙すショットです。スカッシュはラリーをしっかりしていくスポーツなので、サービスエースで一発で決まることは少ないのですが、ラリーの中のチャンスボールで相手を出し抜く瞬間を見て、「今うまくハマったな」と楽しんでいただけたらと思います。
――自国開催となる今回のアジア大会は、ロサンゼルス2028大会を見据える上でも非常に大きな意味を持つと思います。日本での開催ということもあり、周囲の期待も大きいのではないでしょうか。
たくさんの方から「自国開催はプレッシャーじゃないの?」と言われます。もちろんプレッシャーがないわけではないですが、アジア大会という大きな舞台への出場も、正式競技として初めて実施されるオリンピック(ロサンゼルス2028大会)への出場権がかかる大会に参加することも二度とないことなので非常に楽しみですし、ホームという自分にとってのアドバンテージをしっかり活かしていきたいなと思います。
――愛知・名古屋アジア大会ではどんなプレーを見せたいですか?
私は現在、拠点を海外に置いていますし、大会自体も海外主催が多く、あまり日本の皆さんに現地でスカッシュを見ていただく機会がないので、生で私の試合を見てもらえるというのは非常に嬉しいです。いろいろな方に「応援に行くからね」と声をかけていただけるのも力になります。自分が今まで培ってきたもの、大変なことや楽しいことも全部含めて、集大成をオリンピックに持っていきたいと思っていますが、まず目の前のアジア大会で、日本の皆さんの前で現在の自分の最大限を見せられたらと思います。

――よく試合映像を見て分析していると伺いました。
分析するのが好きで、自分が試合するときも対戦相手のノートを作ります。ランキングによって大会への出場が決まるので、毎回同じような顔ぶれではありますが、同じ人に対しても新しいページを作ります。自分もそうですし、対戦相手の人も常に上を目指しているので、新しい技術が加わり変化があります。もちろん、コーチと動画を一緒に見て意見交換などもしますが、まずは1人で、時間をかけるときは相手1人に対して2〜4時間かけてノートを作ります。データとして残しておくことが好きです。
――では、だいぶデータが集まってきているのですね。
だいぶ自分のランキングが上がってきたので、上位陣の情報がストックされてきています。大学を卒業して、24-25シーズンと25-26シーズンを経験しましたが、この2シーズンで上位選手と対戦することが増え、作ったノートの枚数も増えたので、なんとなくその相手がどういう選手かというのは分かってきたかなと思います。
――ロサンゼルス2028大会でスカッシュが正式競技に決まったことはどういう意味を持ちますか?
今まで何度かオリンピックの正式競技として候補に挙がっていましたが、なかなか正式競技になりませんでした。正直、自分とは関係ないものと思っていたのが、ロサンゼルス2028大会でスカッシュがオリンピック競技になったことで初めて目指せるものになったというのは、全スカッシュ選手にとって大きなことだったと思います。また、その機会が自分の現役中に来たというのは非常に嬉しく、私にとっても大きな意味を持つ大会だと思います。
――世界のトップを目指しているアスリートとして、他の選手にどのような思いを伝えていきたいですか?
私自身今まで先輩方に非常に良くしていただいて、頼もしい背中を見せてもらったので、自分も下の世代につなげていけたらという思いはあります。オンコートではもちろんスポーツマンシップに則ったプレーを、オフコートでは気さくに話しかけやすいようなアスリートでいることを心がけています。
――すでに日本を代表する選手という存在だと思いますが、スカッシュの未来について思うことはありますか?
自分が言うのも少し照れくさいですが、私自身が「スカッシュがさらに有名になり、多くの人に知ってもらえるきっかけ」になれればいいと思いますし、そういった部分で今回のアジア大会は大きな意味を持つと思います。また、スカッシュを知ってもらうきっかけになると同時に、すでにスカッシュをやっていて上を目指している選手に「日本人選手でもここまで行けるのだよ」というところを見せていけたらと思います。

――ロサンゼルス2028大会への意気込みをお願いします。
まずはオリンピックへの出場権を獲得し、金メダルを持って帰りたいという思いはあります。今自分で設定している目標はある程度クリアできているので、金メダルを目指せる位置にいるかなと思っています。アジア大会までの期間はもちろん、ロサンゼルス2028大会までの時間で自分と向き合っていきたいと思います。
――では、オリンピックでの目標は金メダルですか?
はい、金メダル獲得を狙います。まずはアジア大会で金メダルを獲りたいです。
渡邉 聡美(わたなべ さとみ)
1999年生まれ、神奈川県出身。幼少期にスカッシュを始め、12歳でマレーシア、19歳でイギリスへ留学。大学進学とプロツアーの両立を選択し、日本人初の世界ランキング10位台に到達。現在は海外を拠点に活動し、スピードと知能戦を武器に世界と戦う。独自に相手を研究する分析ノート「サトペディア」をつくり上げるほどの分析力を持つ。自国開催となるアジア大会での金メダル、そして新たに正式競技に採用されたロサンゼルス2028大会での金メダル獲得を目指す。
注記載
※本インタビューは2026年7月17日に行われたものです。