日本体育協会・日本オリンピック委員会創立100周年記念シンポジウム、第2回目を京都会場で開催
日本体育協会と日本オリンピック委員会(JOC)は、創立100周年記念シンポジウムの第2回目を12月11日、京都会場となる京都会館に、1200名を超える参加者を迎えて開催しました。全4回にわたり行われるシンポジウムでは、「日本のスポーツ100年~これまでとこれから~」を共通テーマに、これまでスポーツ振興に果たしてきた役割や実績を総括するとともに、これからの歩むべき方向性や取り組むべき方策について考えます。京都会場では『スポーツで考える「環境と共生」の時代』をテーマに、環境問題やその対策について考えました。
創立100周年記念シンポジウムの第2回目が行われた(出版文化社)
まず冒頭で、約9分間の、日本のスポーツ100年の歩みを紹介するビデオを上映。まず日本体育協会の岡崎助一専務理事が主催者を代表してあいさつ。「戦後復興の日本の熱い想いを受けて第一回国体を開催した地、また京都議定書締結の地でもある京都で、ぜひスポーツで考える環境と共生について話し合い、実り多いシンポジウムになるようお祈り申し上げます」と岡崎専務理事。続いて、京都府体育協会の桝岡義明会長が来賓を代表して「身近な支援を、そして日本のスポーツのあり方を考える会にしたいです」とあいさつしました。
その後、全シンポジウムのトータル・コーディネーターを務める佐伯年詩雄氏から、シンポジウムの趣旨説明がありました。佐伯氏は「この100年でスポーツを取り巻く環境は大きく変化し、またスポーツが政治・経済に与える影響も大きくなり大衆文化にもなりました。これからスポーツ界があるべき姿を考え、誇れる一歩を踏み出すためのシンポジウムにしたい」と話しました。
■基調講演「環境問題に挑戦するスポーツ」月尾嘉男・東京大学名誉教授
第1部は、月尾嘉男・東京大学名誉教授による基調講演「環境問題に挑戦するスポーツ」。月尾氏は環境問題とその対策について概要を説明したあと、スポーツ界が出来ることについて具体的に解説しました
まず人間生きるために、多くの自然を収奪している現実を様々な側面から紹介。鉱物資源、化石燃料、森林、生物、淡水などが枯渇・絶滅に瀕していることを挙げました。そして「地球の持つ自然資源に対して、計算上では人間は地球1.3個分の資源を使っているという数字もある。生活水準が向上し、経済活動が拡大すると、資源消費が増大するというのが今までの構図です」と環境問題の概要を説明。その上で、「唯一残された手段は、生活水準が向上し経済活動が拡大するところまでは同じですが、資源消費は減少するという構図を作らなければなりません。それが節約技術の導入です。例えば、白熱灯からLED灯に切り替えることで電力削減効果があり、もし日本のすべての白熱灯を切り替えると14.1%のエネルギー削減になるのです」と解決策を提案しました。そして「ではスポーツ界は何を出来るかというと、すでに多くのことに取り組んできました。ゴミの分別回収、コップのリユース、清掃活動、植樹、バイオディーゼル燃料の導入などです。日本のスポーツ人口はのべ1億6000万人、プロスポーツの観戦者は8400万人。スポーツ選手やスポーツ界が訴えかけることの影響はとても大きく、これからの活動にさらに期待したいです」と結論しました。
■パネルディスカッション『スポーツで考える「環境と共生」の時代』
第2部は、パネルディスカッション『スポーツで考える「環境と共生」の時代』。映画監督の篠田正浩氏、JOC副会長の水野正人氏、京都大学環境保全センターの浅利美鈴助教、登山家の田部井淳子氏の4人がパネリストを、筑波大学の菊幸一教授がコーディネーターを努めました。
篠田氏は、1972年札幌冬季オリンピックの公式記録映画を製作した映画監督で、早稲田大学時代には箱根駅伝の2区を走ったランナーでした。篠田氏は「昭和20年に敗戦し、昭和21年にはもう第一回国体が開かれ、社会としてまた人間として復興する日本の活力はスポーツでした。私は昭和23年の福岡国体に参加しましたが、焼け野原のなかに立派な国体道路が作られていたのを見たときに大きな感動を受けたのを覚えています。また箱根駅伝も、日本の正月の神事のように日本の活力となるものでした」と、自身の体験談を振り返りました。そして札幌オリンピックについて「IOCがアルペンの会場に求めた標高差や傾斜の条件を満たす山は札幌周辺には恵庭岳しかなく、その原生林を伐採することでコースを作りました。そのためオリンピック終了後すぐにコースを閉鎖し、自然に戻すための環境対策を行うことになりました。これはスポーツが初めて環境問題に対面した時。これが契機となりJOCは環境対策に全力で取り組むようになりました」と振り返りました。
続いて水野副会長が、JOCの取り組んだ活動について紹介しました。オリンピック憲章では、オリンピックムーブメントを「スポーツ」「文化」に「環境」も加えた3本柱としています。これを受けJOCは、各競技団体などの担当者が集まり理解と連携を図る担当者会議のほか、各都市にてスポーツ関係者とともに行う地域セミナーを、それぞれ年1回開催。環境保全・啓発活動を進めていることを説明しました。さらにポスターを作成し啓発するほか、各競技団体と連携して様々な対策を実施している現状を話しました。そして特徴的な事例として日本水泳連盟の活動を挙げ「大会で配っていたリザルト用紙をウェブ上に公開することで紙の削減につなげました。その効果は年間約200万枚で、植林木の150本を切らずに済んだという計算になります。もし日本水泳連盟加盟の47都道府県水泳連盟(協会)が主催する全国の大会で行えば、2億2500万枚、1万7000本の木に相当する削減が可能になると考えられます」と話しました。また最近では大会で排出した二酸化炭素量をカーボンオフセットするなどの考え方も導入するなど、スポーツが行うことができる取り組みが多くあることを示しました。
浅利助教は、環境問題の専門家の視点から発言。「日本人が一日に出すゴミの量は1kg。その二酸化炭素量は1年間で10tに相当します。ゴミの中身は近年変化し、使い捨て商品や未開封の食品が増えています。利便性と引き換えにゴミが増えているというのが現状です」と説明しました。また月尾氏と同様に、地球1個分以上の資源を人間が使っている現状について紹介。「今スポーツ界が目指しているのはサスティナビリティ(持続可能性)ですが、このままではサバイバビリティ(生存可能性)になってしまいます」と環境対策に乗り出す重要性を訴えました。最後に、「2012年に行われる京都マラソンは、市民の力でエコマラソンにしたいです」と宣言しました。
田部井氏は、1975年、女性として初めてエベレストに登頂した登山家。田部井氏は、「登頂に挑戦したのではなく、純粋に山に登りたかった。自然に触れたかった」と、登山の魅力について語りました。そして「今の登山は、ゴミを持ち込まない、出したら持ち帰るというのは鉄則。エベレストでも包装などのゴミをしっかり持ち帰ります」と、屋までの環境対策も年々ルール化されつつある現状を紹介しました。最後に「ぜひ多くの女性や若い人たちに、自然を身体で受け止めて、五感を磨いて欲しい。人間は2本足でどこまででも歩くことができる生物。山を歩く魅力を伝えられれば、それが自然を大切にする気持ちにつながっていくと思う」と話しました。
コーディネーターの菊氏は「スポーツは身体を使うものです。私たちをとりまく環境が、生命へ与える影響をもう一度考え直すと、環境と私たちの身体が持続可能な共存を続けるための答えが見えてくるのではないでしょうか」とまとめました。約4時間にわたり、画期的な意見や歴史を振り返る内容が報告され、充実したシンポジウムとなりました。
(写真提供:出版文化社)
※本シンポジウムは「スポーツ振興くじ(toto)」の助成を受けて実施しています。