第5回 時代とともに変わるオリンピック憲章
オリンピックとアンチ・ドーピング
- もうひとつ、最近変わったところではアンチ・ドーピングについての決まりがあるよ。
- ドーピングって、よく聞くけどなんのこと?
- ドーピングとは、禁止されている薬を使って、気持ちを興奮させたり、筋肉を強くしたりして競技することだよ。これはフェアプレーの精神に反することだから、スポーツではやってはいけないことなんだ。ドーピングは最近の問題のように思うかもしれないけど、その歴史は意外と古くて、オリンピックでは1968年のグルノーブル冬季大会とメキシコ大会からドーピング検査を行っているんだ。
- そのころから、薬を使ってしまう選手がいたのね。
- そう。オリンピックで勝ちたい一心と、プレッシャーから逃れるために、ということなんだろうけどね。その後も、検査の精度の向上と、それをすり抜けようとする選手たちのいたちごっこが続いていたんだけど、1998年、自転車のロードレースで有名なツール・ド・フランスという大会で、ドーピングで多くの逮捕者が出るという大きな事件が起きたんだ。
スポーツ大会の違反に警察が介入するという事態になって、世の中に与えた衝撃も大きかった。そこでIOCは、ドーピング問題はスポーツ界だけでなく、社会全体で取り組まなければいけない問題だと提起して、翌年に世界アンチ・ドーピング機構(WADA)という機関をIOCや各国政府などが協力して設立したんだ。 - それは、IOCとは別の組織なの?
- うん。WADAは、アンチ・ドーピング活動を中立的な立場で行う、独立した国際機関なんだよ。そして2003年に、国際的に共通ですべての競技に当てはまるアンチ・ドーピングの共通ルール「世界アンチ・ドーピング規程」(WADA規程)が作られたんだ。
- すべてに共通ってことは、こっちの大会ではOKだけど、あっちの大会では違反になる、なんてことはないのね。
- そう。ドーピングを世界統一のルールでよりきびしく取り締まっていこう、ということなんだ。オリンピック憲章でも、それまでは「オリンピック・ムーブメント アンチ・ドーピング規程」という規程を守るように定めていたんだけど、WADA規程ができた2003年以降は:
- 世界アンチ・ドーピング規程はオリンピック・ムーブメント全体に義務として課される。
- と、WADA規程を守るように変わったんだよ。世界規模の決まりを、オリンピックも守っていきますということなんだ。
- ふぅん。オリンピック憲章って、本当にいろいろ変わってきた部分があるのね。
- そう。クーベルタンが最初に唱えた理想を受け継ぎながらも、オリンピック憲章は、そのときどきの世の中の動きをいろんなところに反映してもいるんだ。
- そっかー、だからオリンピックはこんなに長く続いているのかもしれないね。「変わるのはいやだ」っていったら、新しい時代の人たちにきらわれちゃうもんね。
- いいところに気がついた。その通りかもしれないな。
- (つづく・・・次回は日本オリンピック委員会のオリンピック・ムーブメントへの取り組みについて学びます)