日本オリンピック委員会(JOC)は4月12日、オリンピック・パラリンピック強化指定選手およびその指導者を対象とした講話「覚悟〜メダリストの闘い〜第1回」を味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で開催しました。
第1回目の講師は、1984年ロサンゼルスオリンピック柔道男子無差別級金メダリストの山下泰裕JOC選手強化本部長。現役時代のエピソードや、指導者として実践してきたことなどを中心に、東京2020大会を目指すアスリート、指導者たち約200名を前に話をしました。
約2時間におよぶ講話のあと、囲み取材に応じた山下本部長は「一番伝えたかったことは、プレッシャーに対してどうやって向き合ってきたか」と明かし、「私は現役時代、不安がなくなったと思ったら、急に大きな不安が出てきた。不安がなくなれば、不安がなくなったことが不安になる。つまり、不安がなくなることはない。不安はあって当然だということ」を、自身の体験した事例をもとに伝えたと述べました。
また、日本代表選手や監督になって、マスコミや周囲からは「勝たなきゃいけないから大変ですね」という声を多く掛けられたそうですが、それは「大きな勘違いです」と山下本部長。むしろ、日本代表選手や監督はとてもやりがいのあることであり、「東京2020大会で日本代表になれるかもしれないなんて、こんな幸せなことはない。日々生き生きと自分の夢にチャレンジしてほしい」と、東京2020大会を目指す選手、指導者にエールを送りました。
その一方で、たとえ自分の夢に到達できなかったとしても、「失うものなんか何もない。思い切りチャレンジしたことは後の人生に生きてくる」と持論を述べ、柔道界の事例として、全日本男子の井上康生監督の経験を挙げました。井上監督は2000年シドニーオリンピックの柔道男子100kg級において全試合一本勝ちで金メダルを獲得。しかし、連覇を目指した2004年アテネオリンピックでは準々決勝で敗れ、そのショックを引きずったため敗者復活戦でも敗退し、メダルに届きませんでした。井上監督はこの時の教訓をリオデジャネイロオリンピック時に選手たちに伝えたことにより、決勝に行けず敗れた選手たちはもう一度発奮し、男子柔道は全階級でメダルを獲得。後日、井上監督は山下本部長に「アテネであの経験をして良かったと、初めて思えた」と話したそうです。このことを踏まえ、山下本部長は「全力を尽くして、たとえ夢に届かなくても、その経験は指導者となって、また後の人生に生きてくる」ということを、参加者にメッセージとして強く伝えたと振り返りました。
最後に、第1回目の講話を終えた感想として山下本部長は「人それぞれで様々な捉え方があると思います。押し付けじゃなくて、選手たちが自分の成功、失敗の中から感じた経験の中で、私がきょう話したことを少しでも自分の練習に励んでいく糧にしてもらえれば十分です」と述べました。
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