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2023.01.06 その他活動

「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催

「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」を開催(写真:アフロスポーツ)
「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
開会の挨拶を行った日本スポーツ協会の大野敬三常務理事(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は12月3日、オンラインで「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」を開催しました。

 JOCは2005年度から開催していた「JOCスポーツと環境・地域セミナー」と2020年度から開催していた「JSPOスポーツと環境フォーラム」の実績を引継ぎ、スポーツ界が一体となってスポーツと環境に関する課題に対応すべく、本カンファレンスを開催しています。令和4年度は日本スポーツ協会(JSPO)とともにオンラインで開催、中央競技団体に加盟するスポーツ団体、JSPO公認スポーツ指導者など166名が参加しました。

 はじめに、主催者を代表して日本スポーツ協会の大野敬三常務理事が開会の挨拶に立ち、地球温暖化による近年の異常気象が、日常生活だけではなく夏季・冬季スポーツに大きな影響を与えている現状を説明。それらの課題を踏まえて「スポーツに関わる私たちにとっては次世代を担う若者、さらに次の世代の人々へスポーツの機会を提供し、スポーツの楽しさを伝えていくためには、スポーツ界が積極的に取り組むべき最も重要なテーマだと考えております。皆様とともに環境保護の必要性をどのように実践するか学び、実践に関する最新情報を提供することを通じて情報交換、共有ができればと思います」と、本事業の目的を説明しました。

「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
日本スポーツ協会スポーツ科学研究室の石塚創也研究員(写真:アフロスポーツ)

 続いて、日本スポーツ協会スポーツ科学研究室の石塚創也研究員がオープニングレクチャーとして、開催趣旨説明を行いました。まず、JSPOが制作した地球温暖化によるスポーツと環境への影響をまとめた動画を紹介。地球温暖化の問題に対し、IOCはオリンピック・ムーブメントの3つの柱として「スポーツ」「文化」「環境」を掲げ、積極的に問題解決に取り組んできたことを説明しました。また、2021年にはオリンピック・ムーブメントの未来に向けた戦略を示した「オリンピック・アジェンダ2020+5」を発表し、日本での具体的な取り組みが紹介されました。そして、「このスポーツと環境カンファレンスがこれまで先駆的な取り組みを行ってきた団体から、これから始めようとする団体まで一丸となって取り組む必要性があることを再確認する場になることを期待しています」と参加者へメッセージを送りました。

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東海大学准教授でJOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会の大津克哉部会員(写真:アフロスポーツ)

■基調講演:スポーツと環境~スポーツの心、環境と未来へ~

 続いて、東海大学准教授でJOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会の大津克哉部会員が「スポーツと環境 ~スポーツの心、環境と未来へ~」をテーマに基調講演を行いました。

 大津部会員はまず、近年の環境汚染や温暖化などの問題について説明。地球温暖化により、気温が上昇した場合にはスポーツは開催時期、時間帯、場所の変更を余儀なくされることがあると指摘しました。そのため、スポーツ界における環境保全活動の必要性を示し、「特にアスリートは社会的影響力を使って自らが手本となって、ファンへ環境メッセージを発信し、環境の大切さを伝えることが重要です。持続可能性に対する意識の向上と、確実な実践を促すことが今後、スポーツ界において一層求められるのは間違いありません」と強調しました。

 このような状況を踏まえて、各スポーツ競技団体へは、「イベントがうまくいったからいいではなく、スポーツの社会的価値を高めるためにも、競技運営やスポーツイベントにおける環境負荷を低減させていく役割が求められます」とし、「世界トライアスロンシリーズ横浜大会」の事例が紹介されました。特筆すべき点として、イベントで排出されるカーボンフットプリント量(温室効果ガスの排出量)を計測した結果、1人当たり200円相当で排出分をオフセットできることを説明し、翌年から環境協力金として参加者から200円を徴収して海水を浄化する効果があるワカメの養殖に投資した例を発表しました。

 また、東京2020大会で行われた使い捨てプラスチックを活用して作成された「みんなの表彰台プロジェクト」と、使わなくなった小型家電の部品を利用する「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」の事例が紹介されました。

 最後に、大津部会員から参加者へ「この機会が皆様の行動に結びつくことを期待しています。まずは所属するNFの取り組みについて、一度精査してみてはいかがでしょうか。スポーツを通じて次世代に何を残せるのか、ゲストの方々の発表からヒントが得られればと思います」とメッセージが送られ、締めくくられました。

「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
日本セーリング連盟の永井真美業務執行理事(写真:アフロスポーツ)
「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
冬季産業再生機構の皆川賢太郎会長(写真:アフロスポーツ)

■事例報告:日本セーリング連盟における取り組み・雪資源確保に向けた取り組み

 次のプログラムでは2つの事例報告が行われました。まず、日本セーリング連盟の永井真美業務執行理事が今年10月に広島県の観音マリーナで実施した国際大会「2022ハンザクラスアジアパシフィックチャンピオンシップ&パラワールドセーリングチャンピオンシップハンザクラス広島」の活動報告を行いました。2022ハンザクラスアジアパシフィックチャンピオンシップでは、日本セーリング連盟が重視している「DEI」(Diversity、Equity、Inclusion)に基づき、障がいの有無や老若男女問わず誰にでも操作しやすい構造の船が採用されており、参加者全員が楽しめる環境になっていることが紹介されました。また、SDGsへの取り組みとして、展示イベント会場を設け、海中にどれくらいマイクロプラスチックが入っているのか顕微鏡で確認できるスペースを用意したことを述べました。これらの他にSDGs活動を評価するレースを実施し、専用アプリから選手たちの環境保全への貢献度が見られるようにし、ランキングで表彰したことを語りました。日々の貢献について項目を細分化し、大会の1か月前からスタートすることで海外から参加する選手にも地元でもSDGsを意識できるように働きかけました。そして、これらの活動に対して、「今回のアプリを使った環境保全活動は初めての試みでした。ランキングやポイントを見える化することで選手からはやる気に繋がったと聞いています。地味な活動の積み重ねですが、実際に自分たちが食べる魚や塩にも跳ね返ってくることですので、他人事ではなく自分事として皆で切磋琢磨し、普通になるように変えていけたら嬉しいなと思います」と、環境問題への積極的な取り組みを呼びかけました。

 次に、冬季産業再生機構の皆川賢太郎会長が雪資源確保に向けた取り組みについて事例紹介を行いました。まず始めに、日本のスキー、スノーボードの競技人口が2000年から一気に減少傾向となっていることを説明。産業としての衰退により、選手たちの競技環境も無くなってきている中、産業の発展に加えJOCアスリート委員会とともに環境問題の対策を一緒に行っていることを紹介し、活動を見える化させること、ロールモデルを作っていくことに注力していることが明かされました。そして、「活動とトライを掛け合わせてロールモデルを作っていくことがアスリート、OB、OGにできることだと思います。全体で束になって社会に対してスポーツができる価値を見出して貢献できたらと思います」と語り、事例紹介のプログラムは終了しました。

「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
「スポーツと環境の関わり方」をテーマにパネルディスカッション(写真:アフロスポーツ)
「令和4年度スポーツと環境カンファレンス」をオンラインで開催
閉会の挨拶を行った小谷実可子JOC常務理事

■パネルディスカッション:「スポーツと環境の関わり方」

 次に、「スポーツと環境の関わり方」をテーマにパネルディスカッションが行われました。大津克哉氏がモデレーターを務め、基調講演で登壇した永井業務執行理事と皆川会長に加えてオリンピアンの近江谷杏菜選手(カーリング)と小口貴久氏(リュージュ)がゲストとして参加。オリンピックや競技活動を通しての経験談を交えながら議論を深めました。

 まず昨今の温暖化による影響や、競技施設が環境へ与える影響などが議論され、環境問題を意識するきっかけについて近江谷選手は「世界各地を訪れて、友人が住む地域の自然災害のニュースを目にすることが増えてきて、少しでもいいからやらなければと思い、行動するようになりました」と語りました。
 次に近江谷選手から永井業務執行理事の事例紹介に対して組織の意識改革・体制作りについて質問され、永井業務執行理事から「トップダウンからのメッセージは大事だと思います。セーリング連盟の会長が環境を推進していくと表明したことで組織としても行動していくための後押しとなりました」と語りました。また、ともに冬季競技のオリンピアンである小口氏から皆川会長へ日本がヨーロッパのように雪が根付いていくためにすべきことについて質問されると、皆川会長は「スキー場の外にあったコンテンツを中に入れることで雪解けの雪を使って観光資源や地域資源にできないか模索するなどスキー場はスキーをする場所、という感覚を変えていくようにする必要がある」と語りました。

 最後にディスカッションのまとめとして参加者から今後の活動への抱負が語られました。小口氏からは、「身近なところからできることを今日参加いただいた皆様とも手を組みながら、ぜひ積極的にやっていきたいと思います」 と述べました。
 近江谷選手から「自分もベテラン選手として、未来のスポーツ界を考えていき、周りとも連携できるような取り組みもしていきたい。子ども達に楽しいスポーツを残していける社会にしていきたいと思っているので、ここからまた地道に勉強し取り組んでいきたい」と自身の思いを述べました。
 大津氏からは「まずは現状を認識することが重要です。これはオリンピックに出場するようなエリートレベルだけでなく草の根レベルでも当然です。また、スポーツと環境の接点について理解すれば社会を変える大きなきっかけになります」と述べ、JOCの環境メッセージの「まずは環境に対して興味を持つこと、そして自分のできることから行動すること。この考え方を指導者やアスリートに伝え、アスリートが家族や周囲の人に広めていくことがスポーツを楽しめる環境を50年後、100年後の子供達に残すことに繋がるのだと思います」と述べて締めくくられました。

 すべてのプログラムが終了し、閉会の挨拶として小谷実可子JOC常務理事が登壇者とパネリストへ感謝を述べた後、「皆様には自分事として考え、所属団体のみならず多くの方々に学びを広め、巻き込んでいただきたいと思います。今後は情報を取りまとめて横の連携を持っていけるようなお手伝いを進めていきたいと考えています。本日のカンファレンスがスポーツ界の一員として、豊かな社会づくり、環境保全活動を進める次なるステップの軌道になりましたら幸いです」と総括し、カンファレンスを締めくくりました。

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