北京2022冬季大会のスキー・ノルディック複合男子ラージヒル個人と団体で銅メダルを獲得した渡部暁斗選手、同じく男子ラージヒル団体で銅メダルを獲得した渡部善斗選手、永井秀昭選手、山本涼太選手が18日、記者会見に出席し、メダル獲得の心境を語りました。
■渡部善選手「選手やスタッフ含め全員がそれぞれの役割を果たした上での結果」
――メダル獲得の感想をお願いします。
渡部善選手 一晩経って徐々にメダルを獲得した実感が湧いてきているところです。まだ少しフワフワしている感じですが、夜のメダルセレモニーでメダルを受け取ったら実感するのかなと楽しみにしているところです。
永井選手 昨日は興奮して目をつむったまま一睡もできず、そのまま各局のテレビ出演をして少しずつメダルをとった実感が湧いてきています。メダルセレモニーで現実味を帯びて感じることができるかなと思っています。
渡部暁選手 今回のオリンピックはメダルを獲得できたこと以上に、コンバインドの面白さを日本の皆さまに見ていただけたと思える、手ごたえのあるオリンピックだったので、そこは正直に嬉しく思っています。メダルをとることも大事ですが、良いレースをして競技としての面白さが伝わるのも大事な部分だと改めて思えた良いオリンピックだったと思います。
山本選手 まだメダルが手元にないので実感がないですが、昨日のレースでいうと、良いレースができたのですごく楽しかったという感情の余韻に浸っている状態です。
――永井選手に質問です。小林陵侑選手が優勝した時に「岩手が盛り上がって3度くらい気温が上がった」と言っていましたが、昨日のメダルで岩手は何度くらい気温が上がったと思いますか?
永井選手 大雪が降っていたから逆に下がっていたかもしれませんが(笑)、気分は0.5~1度くらいは上げられたかなと思います。
――山本選手に質問です。暁斗選手が個人でメダルを獲得した際に、「目標を掲げてそこにたどり着くことのすごさを感じた。かっこよかった」と言っていましたが、ご自身がそこにたどり着いて感じる部分はありますか?
山本選手 まだ実感がないですね。かっこよく走れるように頑張っていたつもりですが、前の3人の先輩方がつないでくださったからこそ、あのレース展開に持ち運べたというのが自分の正直な気持ちです。(ドイツのビンツェンツ・)ガイガー選手と競ってメダルを獲得する瞬間を体験させて頂いたという立場で、先輩方がいつも以上のレースを展開してくださったので、率直に言うと自分の思い描いているところにはまだいないなと感じています。
――暁斗選手に質問です。ご自身の実力を考えるとジャンプは悔しい部分もあったかと思いますが、善斗選手がいいジャンプ、走りを見せてくれました。改めて兄弟で一緒に戦ってメダルをとれたことに関して感じることがあれば教えてください。
渡部暁選手 正直、何も感じていないです(笑)。というのも、我々は年中一緒に過ごしていて、他のチームよりも過ごす時間が圧倒的に長いじゃないですか。去年は5カ月も家に帰らずにみんなで一緒にいて、今年も(去年の)11月から家を出ていまだに帰っていません。だから、善斗だけではなく、僕にとって選手はみんな兄弟のように感じていますし、スタッフも含めて家族のような存在です。善斗が特別に弟という感覚があまりなくて、もちろん善斗もそうですが、永井さんや涼太も良いジャンプ、走りをしてくれて、みんなが家族という感覚で臨んでいたので善斗に対して何か特別な感情はないですね(笑)。そのくらい我々は一緒にいるということです。
――善斗選手に質問です。チームを救ったといえるくらいの活躍だったと感じていますが、ご自身を褒めてもいいかなという感覚はありますか? また、善斗選手も兄弟というのは関係ないですか?
渡部善選手 個人戦2試合の内容を考えると、団体戦は気合いを入れて臨まないといけないなと思っていたので、少し良い結果が出せたというのは良かったことかなと思います。やはり団体戦は1人でどうこうできるものではなく、選手やスタッフ含め全員がそれぞれの役割を果たした上での結果だと思うので、その一員として関われたことは嬉しいです。兄弟としては全く関係ないですね(笑)。
――暁斗選手に質問です。ひとりのコンバインドファンとして見た時、渡部暁斗という選手は好きじゃないという話を過去にしていましたが、今回のオリンピックでその思いに変化はありましたか?
渡部暁選手 やはり客観的に見た時に、まだそんなに好きにはなれないかなという感じがします。僕がファン目線でフラットに国も関係なく見るなら、ガイガーとか(ヨハネス・)ランパルターの方がいい選手だなと思いますし、そのあたりの選手を応援するかなと思います。自分もいい選手だなとは思いますが、ベストではないですね(笑)。
――山本選手に質問です。日本代表にとっても区切りの大会になると思いますが、若い選手が今後を担っていくという思いを聞かせてください。
山本選手 自分のできることをできるだけ多く発揮しようと、このオリンピックに臨んでいました。選手生命がそんなに長くない競技なので、これをきっかけにではないですが、次世代の選手がどんどん出てきて競技に加われるようなレベルになっていくことが、今後求められると思います。僕がその代表というわけではないですが、できる限りのことをして日本チームを盛り上げていけたらと思っています。
■永井選手「進化を止めることなくやってこられた」
――善斗選手、永井選手、暁斗選手に質問です。オリンピック、世界選手権を通じては団体では2009年リベレツ世界選手権での金メダル以来の表彰台となりましたが、チームとして強化の方針、練習方法など長年取り組んできた変遷で特徴的なものがあれば教えてください。
渡部善選手 僕はリベレツで金メダルをとったメンバーの後にAチームに入ってきた身なので、(日本は)強いチームだなと思っていたんですが、いざ団体戦に自分が出てみたら絶対に届かないんじゃないかという差を他の国に毎回見せつけられました。その中で暁斗がチームを引っ張ってくれていましたが、手探りの状況が続いていて、毎年いろいろなことにコーチといっしょにチャレンジしながら過ごしてきました。平昌でもまだ届かなくて、そこから4年間かけてまたチームも個人もそれぞれで模索をして、やっとここ2年くらいで少し成果が出てきて、今回の結果につながったと思います。今までの期間で先輩方が教えてくれたこと、築き上げてきたものを今後の世代に生かせるような強化ができていると思うので、ここからが勝負だなと思います。
永井選手 僕も2009年のリベレツはテレビで見ていて、実際の状況は詳しくわかりませんが、そのあと2012年の途中から合流しました。その時は上位の強豪国とはクロスカントリーの力の差があったので、毎年そこの強化を図っていました。もちろん持久系の種目は一朝一夕でどうにかなるものではないので時間をかける必要はありますが、なかなか目に見える成果は出てきませんでした。でも、ここ数年でチーム全体の走力、走り方、戦略も含めて力がついてきた結果が、昨日のメダル獲得につながったと思います。ジャンプに関しては日本チームの強みでもありますが、レギュレーションや用具のルールが毎年変わっていくので、常に進化を求めていかないといけない状態です。その進化を止めることなくやってこられたのが団体戦のジャンプにも出ていたのかなと思います。
渡部暁選手 リベレツから具体的に取り組んできたことは、ここで話し切れる内容ではないと思うので、是非ロングインタビューしにきてください(笑)。自分の気持ちや心持ちの話をさせていただくと、先ほどの質問で自分を好きか嫌いかというお話もありましたが、自分がコンバインドという競技を見たときにどういう選手のレースが面白いか、応援したくなるかを考えていました。自分が好きだなと思えるような選手になるためにどういうレースをしたらいいのか、どうしたら応援してもらえるような走りができるのか、どういう選手が勝つのにふさわしいのかなど、常に頭で考えて体現できるようにいろいろなことに取り組んできました。それが僕の生きざまとして、勝つ姿ももちろんですが、負ける姿も含めて最終的にレースに表せるようになってきたと思います。
――山本選手に質問です。若手の積極的な起用や育成がチームにもたらせるものなど、何か感じていることがあれば教えてください。
山本選手 ひとつ前の質問のようにすごく長い時間をかけて強化を積んできて、僕がW杯に上がってから数年しか経っていないにもかかわらず、こういった成果を出せることについてはチームとして取り組んでいることが徐々に身について、個人のメダルだけではなく、チーム全体としてレベルアップしてきていることが結果として表れ始めていると思います。チームの良さが出始めていると思うので、これを機に若者がもっと出てくるような環境づくりができていくのかなという期待はあります。
――暁斗選手に質問です。2009年の世界選手権は大学生だったと思いますが、若い時の成功体験をする大切さや意味はどう考えていますか?
渡部暁選手 自分がリベレツで金メダルを獲得したときを思い返すと、当時ジャンプの調子がものすごく悪くて30、40番の順位しかとっていないシーズンでした。そういった中でも先輩たちに引っ張ってもらって、メダルをとれたことが本当に自信につながったと思っています。「こんな自分でも成功することもあるんだ」という体験はそのあとの自分の成長につながったと思うので、涼太は実際にメダルをとりましたし、(谷地)宙はメンバーには選ばれませんでしたが、我々が(メダルを)とる瞬間を間近で見ているので、そういう成功体験を積むことで先につながっていくきっかけになると、僕の経験からはそう思います。
――暁斗選手に質問です。これまでのオリンピックで銀2つ、銅2つとなりましたが、金メダルへの思いは?
渡部暁選手 完全に諦めきれていないのが正直な気持ちです。自分でも今年で決めるというプレッシャーをかけてやってきたので、先のことは考えられないなという気持ちの方が大きいです。
■山本選手「4年後は今回のよりもいい色のメダルを」
――オリンピック後もまだシーズンが続きます。今回コンバインドに集まった注目をW杯につなげていくために、どんなパフォーマンスをしていきたいですか?
渡部善選手 オリンピックは力が必要な大舞台ではあると思いますが、各国4人しか来ていないのが、W杯になると各国6、7人が出てきて、もっとレベルの高いところで試合が始まるというのは間違いないです。今回で成長できた部分はすごくあったのでW杯を転戦する中で出していきたいです。暁斗と永井さんたち世代から受け継いで、僕が下の世代に伝えて、もっと良い色のメダルをとるチームを作っていく時代を始めなきゃいけないと思っていて、それはW杯の戦いから始まるので気合を入れてしっかり戦っていきたいと思います。
永井選手 これで少なくとも注目されるきっかけにはなったと思うので、これがまぐれだったと言われないように、さらに気を引き締めてW杯でも良い結果を日本チーム全体でとっていくことが必要だと思います。
渡部暁選手 過去2大会でもメダルを獲得して、その時も注目されなかったわけではないと思っていますが、結果を出すだけじゃダメだと思っています。僕は一区切りとして今回は自分のことだけに集中して結果を出しにいきましたが、この先は(競技を)続けるか続けないかという話は別として、違う角度からコンバインドを盛り上げたいと考えています。コンバインドはマニアックな競技で玄人向きというか、選手の個性やルールなど見方がわかってくるとより楽しくなってくる競技です。自分たちが結果を出すだけだと、注目は今までと同じように下がっていくと思っているので、SNSや必要であればYouTubeとか、メディアのみなさんにも協力してもらって、コンバインドの面白い見方を自分から発信していって、自分たちや若い世代が出す結果をより面白く見られるようなことにトライしてもいいのかなと考えています。
山本選手 オリンピックは初出場で、これだけ多くの記者さんやテレビカメラを向けられる機会はW杯ではなかったので、注目度は必ず違ってくるなという実感はあります。W杯は人数が多い中でまた違った複合の良さや面白さが出るのですが、なかなか注目を浴びないので、オリンピックに引き続き表彰台を目指してやっていくことが今できることだと思っています。
――山本選手に質問です。初めてのオリンピックを終えて、いろいろな思いがあったかと思いますが、改めてオリンピックへの思いと、4年後への決意を教えてください。
山本選手 昨年の世界選手権でもお話をさせていただきましたが、オリンピックと世界選手権はメダルを獲得しないとそもそも意味がないと思っていますし、メダルをとらないと取り上げてもらえることが少ない状態です。数年に1度しかないビッグな大会で結果を出すということはすごく意味があると思いますので、4年後は今回とったメダルよりも良い色のメダルを目指すべきだと思いますし、オリンピックとはこういう大会なんだと経験を積むこともできたので、また金メダルに向かっていきたいという気持ちです。
――暁斗選手に質問です。先ほどコンバインドを盛り上げるというお話もありましたが、現状の競技環境についてどう感じていますか?
渡部暁選手 ヨーロッパに比べると、日本の競技環境はそんなに良いものとは言えないかもしれません。ただ、僕は環境ではなく、工夫次第で国内でもできることはたくさんあると思っています。僕が学生の時、海外留学という選択肢もあるなかで、国内、しかも地元の白馬でやることに意味があると思い、そこでトレーニングを積んでしっかり結果を出してきた自負もあります。環境自体が問題ではなく、工夫でチームを強くすることの方が大事だと思います。
――永井選手に質問です。38歳まで競技を続けられた原動力は何ですか?
永井選手 パッション(笑)。冗談っぽく言いましたが冗談ではなく、やはり熱意がなければここまでできないと思います。それに協力してくれている会社や家族などいろいろな人の支えがあって、ここまで一緒に自分の夢を追いかけてくれた人たちがいるからこそやり遂げられたと思います。38歳になって初めてぎっくり腰もしましたけど(笑)、諦めずに今日まで来られました。
――永井選手に質問です。メンバーから外れてしまった谷地選手は同じ岩手の後輩になりますが、4年後に向けて悔しさをバネに頑張ってくれると思います。エールがあればお願いします。
永井選手 彼は今回の短い期間でさまざまな経験ができたと思います。どこでそれが役に立つかは分かりませんが、競技人生で必ず彼のためになってくれることが巡ってくると思いますので、その時に今回の経験を生かして自分の競技の糧にしてもらえればと思います。優秀な選手だと思うので、僕のようなパッションを引き継いでくれると思います(笑)。
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