日本オリンピック委員会(JOC)は12月24日、「令和3年度JOCコーチ会議」をオンラインで開催しました。ナショナルコーチ・専任コーチ等をはじめ、国内競技団体(NF)の選手強化に関わるスタッフ等の関係者、JOCの役員、選手強化本部をはじめ各専門部会の部門員等、約330名が参加。東京2020大会の総括、北京2022冬季大会とパリ2024大会に向けた情報共有のほか、「JOC Vision 2064」と「TEAM JAPAN」ブランド、JOC選手強化中長期戦略プロジェクトに関する説明などが行われました。
1.オープニングセッション
プログラムの実施に先立ち、JOCの星野一朗専務理事が挨拶に立ち、はじめに東京2020大会で日本代表選手団が獲得したメダル総数58、入賞総数136はいずれもオリンピックでは最高の成績となったことに改めて感謝の言葉を述べました。続けて、現在も新型コロナ禍が続く厳しい状況だからこそ、アスリートに最も近い存在である現場の指導者、強化担当者らが相互に、またJOCと連携していくことが重要だと語った星野専務理事は「現場を支える皆さまには今後、一層の連携と強力、各NF内への情報共有をお願いいたします」と参加者に呼びかけました。
2.JOC選手強化本部について
最初のプログラムでは「JOC選手強化本部について」と題し、JOCの尾縣貢選手強化本部長が新体制の概要、メンバーなどを紹介。JOC選手強化本部内に設けている専門部会より、ナショナルトレーニングセンター専門部会の岩渕健輔部会長、アンチ・ドーピング専門部会の古谷利彦部会長、情報・医・科学専門部会の土肥美智子部会長がそれぞれ挨拶を述べた後、尾縣選手強化本部長は「TEAM JAPANとしての真価が問われるのは、まさにこれからです。第3期スポーツ基本計画を踏まえながら、JOC全体のビジョンのもとスポーツ庁、JSCなど関係団体との連携を図り、NFの皆さま、現場を支える指導者やスタッフの皆さまとともに戦略的、計画的にアスリートの育成、支援を進めていきたいと思っております」と決意を述べました。
3.来賓挨拶
続いて、来賓を代表してスポーツ庁の南野圭史競技スポーツ課長が挨拶し、東京2020大会開催に対する感謝と北京2022冬季大会に向けたサポート、来年度の競技力向上事業の予算案、東京2020大会後も持続可能な国際競技力向上プランの策定について説明。そして、スポーツ庁としても東京2020大会の成功を一過性のものとせず、「予算や新しいプランで我々の意気込みや決意を示させていただいていると思いますので、ぜひ皆さまといっしょに取り組みを進めていきたいと思っております」と、今後も選手強化の更なる継続に注力していく旨を述べました。
4.東京2020大会の検証 バスケットボール・柔道が事例紹介
次のプログラムである「東京2020大会の検証」では、まずJOC 情報・医・科学専門部会の杉田正明副部会長が東京2020大会の検証結果を発表しました。この中ではメダル獲得競技・種目の広がり、若い世代の活躍、女子種目で過去最多のメダル獲得、初のオリンピック出場となったエリートアカデミー出身選手のメダル・入賞数、競技別ナショナルトレーニングセンター(NTC)及びハイパフォーマンスセンターの活用等、東京2020大会へ向けた強化施策の成果を報告。また、東京2020大会後に実施した各NF向けのアンケート調査・結果なども報告した杉田副部会長は、今後に向けた展望と課題として「持続的で強固な強化体制の確立(ナショナルチームづくり)」「NTCでの継続的な強化支援と競技別NTCの拡充」「オリンピックにおける特別支援体制の確立(早期からの着手)」の3つを挙げました。
続いて、東京2020大会における事例報告として、日本バスケットボール協会の東野智弥技術委員長が強化戦略について説明しました。バスケットボールは東京2020大会において5人制男女、3×3男女、車いす男女とすべての種目で出場を果たした唯一の国となり、5人制女子、車いす男子でともに初の銀メダルを獲得するなど躍進。この成果について、「国際バスケットボール連盟の制裁による日本バスケットボール協会の再編というゼロからのスタートがキーポイントだったと思います」と振り返った東野技術委員長は、技術委員会をハブとした強化のPDCA、同協会が掲げている「バスケットボールで日本を元気に」の理念とJapan's Wayの追及、東京2020大会期間中の活動などを紹介しました。
そして、長期的な強化方針として普及・発掘・育成・養成・強化を一気通貫して継続し、1つのオリンピックを周期として考えていくことが大事だと述べると、「開催国としての東京2020大会でのレガシーを一つのフェーズとして考え、今後もパリ、ロサンゼルス、ブリスベンとオリンピックが続く中で、そのスポーツの文化を作る上での一歩を考えながら、様々な仕掛け、取り組みが必要ではないかと思っています」とまとめました。
同じく東京2020大会における事例報告として、全日本柔道連盟の金野潤強化委員長が、金9個を含む合計12個のメダルを獲得するなど過去最高の成績となった東京2020大会についての総括、強化施策などについて説明。この5年の歩みの中で、柔道特有の取り組みとして第一に挙げたのが日本代表選手の新しい内定制度の構築であり、「これが一つの好結果の要因だったのではないかと考えています」と振り返りました。
また、そのほかの取り組みとして、地元の利を生かしたシミュレーション、所属チームとの連携、コロナ禍における集団練習から個別練習への対応、他競技とのクロストレーニングなどを紹介する一方、「人と人との和がやはり非常に大事。選手や監督、コーチの能力が高くても、人の和ができなければチームとしての力は発揮できない。その意味では男子代表の井上康生監督、女子代表の増地克之監督がチームをしっかりまとめてくれたことが良かったと思います」と語った金野強化委員長。パリ2024大会に向けた新体制のチームはすでに始動しており、「新しいチームも最高の人材を配備することができました。この最高の人材とともにチームの和をもって、パリ大会では東京大会に負けない結果、内容、パフォーマンスを見せていきたいと考えております」と、新たな抱負を述べました。
この2つの事例報告を受けて杉田副部会長は、オリンピックであってもいつも通りに試合に臨むためには、「情報の共有/対策」を考え「シミュレーション」を繰り返し行って臨むことが重要であり、「これらの中から隙のない取り組みを実行し、継続していくことが、最終的には結果に結びつくのではないか」とまとめました。
5.北京2022冬季大会、パリ2024大会に向けて
次に「北京2022冬季大会に向けて」と題し、北京2022冬季大会TEAM JAPANの伊東秀仁団長が日本代表選手の選考、コロナ禍における選手の練習環境、北京2022大会のプレーブックに基づく行動制限など、現時点で判明している状況などについて報告。また、本会議で発表された東京2020大会の検証内容から「コロナ禍でも結果につながったこと、マイナスに影響したことなど、夏季競技の取り組みも参考にさせていただきたいと思います」と述べるとともに、「選手に少しでも不安なく大会を迎えてもらえるよう、現場で支える指導者・スタッフなど様々な方々と今後一層の連携やサポートを図り、北京2022冬季大会での活躍がパリ2024大会、そして札幌2030冬季大会招致につながっていけるように頑張ってまいります」と意気込みを述べました。
続いて「パリ2024大会に向けて」と題し、井上康生パリ2024対策プロジェクトリーダーがプロジェクトの体制、今後の方向性などについて説明。「自覚と責任をもって取り組んでまいりたい」と述べた井上リーダーは、同プロジェクトの目的として、パリ2024大会に向けて各NFや関係組織のハブとなり、情報収集・共有をもとに全体の方向性を示すとともに、必要な支援を行いながらNFの横連携、TEAM JAPANの一体感の醸成を図ることを挙げました。そして、今後は同プロジェクトをスピーディーかつ効率的に運営していくために、プロジェクトメンバーをカテゴライズしたうえで様々な情報の収集・共有をしていきたいと話すと、「パリ2024大会に向けて、皆さまとともに戦っていくことが非常に重要と考えておりますので、何とぞよろしくお願いいたします」と締めくくりました。
6.JOC Vision 2064 とTEAM JAPANブランドについて
次のプログラムでは「JOC Vision 2064」 と「TEAM JAPANブランド」について、JOC総合企画部がその概要を説明しました。「JOC Vision 2064」に関しては策定背景、コンセプトや活動指針、それに基づく中期計画の全体像などを、また「TEAM JAPAN」ブランドについてはその使命、NFとの連携例などを紹介。「JOCは今後、TEAM JAPANを中心としてスポーツが社会にポジティブな影響を生み出すような活動をさらに加速、拡大させていくことを目指していきたいと思います。また、このブランドをハブとしてTEAM JAPANをより多くの方に身近に感じていただき、人々とトップアスリートをつなぐ役割を果たしたいと考えております」と今後の展望を述べました。
7.JOC選手強化中長期戦略プロジェクトについて
次に「JOC選手強化中長期戦略プロジェクトについて」と題し、「憧れられるアスリート」を継続的に育成するために、JOC選手強化本部としての目標の方向性や目指す姿、戦略の柱等について水鳥寿思選手強化中長期戦略プロジェクトリーダーが解説。また、具体的検討に着手している3つのWG(指導者、アスリート、データ&テクノロジー)における施策やサポートプログラム案について説明するとともに、「このような取り組みを進めることによって、コーチの皆さまの環境整備やアスリートの競技力と人間力の向上につなげていきながら、これからもTEAM JAPANとして日本のスポーツ界を皆さまといっしょに盛り上げていきたいと考えています」とまとめました。
8.令和2年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式
続いて「令和2年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式」が行われ、令和2年度の修了者41名を代表して日本陸上競技連盟の吉田真希子さんに、前原正浩JOCナショナルコーチアカデミー事業ディレクターから修了証が贈られました。吉田さんは、今この場で一番伝えたいことは感謝の気持ちであると述べると、「情熱をもって本気で取り組むことで目標は実現できることを学んだ8週間でした。来年は北京2022冬季大会、3年後にはパリ2024大会が開催されます。このアカデミーで学んだことを生かし、そして今回得た皆さんとのご縁を大切にしながら、スポーツの価値や選手の可能性を高めていけるよう、これからも学び続けていきます」と、抱負を語りました。
また、吉田さんの言葉を受けて、同アカデミーの一期生でもある尾縣選手強化本部長は「アカデミーで学んだこと、得た仲間は宝です。皆さんのこれまでのアスリートとしての経験、コーチとしての経験にこの宝を加えて、新たな境地を作り出してほしいと思います。コーチとしての大きな飛躍を期待しております。おめでとうございます」と修了者に向けてエールを送りました。
9.クロージングセッション
最後に、クロージングセッションとして尾縣選手強化本部長が閉会の挨拶に立ち、北京2022冬季大会に向けて「スポーツ界を挙げて支援していくとともに、オリンピック機運を醸成させていきましょう」と呼びかける一方、そのためにも安心安全に大会を開催し、強化活動を継続していくことが重要であることを強調しました。また、今後も引き続きNFと一体となって選手強化を推進していくとともに、「アンチ・ドーピング教育などインテグリティを重視し、憧れられるアスリートが育つことを目指していきます。皆さま、ご協力のほどよろしくお願いいたします」と新たな目標を述べ、今年度のコーチ会議を締めくくりました。
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