JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
山田 恵理(ソフトボール)
金メダル
■感謝の気持ちを伝えたい
――金メダル獲得、おめでとうございます。
ありがとうございます。
――率直な感想を聞かせてください。
2008年の北京オリンピック以来、13年ぶりのオリンピックでしたが、自国開催ということもありましたし、前回金メダルをとっているということもあって、本当に重圧のなかでの大会となりました。結果として金メダルをとることができてすごく良かったと思いますし、この13年間で本当にたくさんの方々の支えによってこの場に立てているとあらためて感じました。感謝の気持ちを伝えたいと思っています。
―― 一夜たってのお気持ちは、金メダル獲得直後とどう違いますか。
どうですかね、終わったんだなっていうような感じはありますけど、まだ周りの状況も分からないので、どれだけ伝わったのか分かりません。本当にたくさんの方々が応援してくださったと思うので、これからは感謝の気持ちを伝えたいですし、少しでも皆さんの力になれていたらうれしいです。
――金メダルを獲得できた最大の理由は何だと思いますか。
準備力だと思います。オリンピックに復活すると決まってからここまで、相手や自分自身を分析・研究することをチームの中でやってきたので、その準備の成果だと思います。
――今大会、ご自身が最も良かったと評価するのはどんなところでしょうか。
予選の前半でなかなか結果が出ず、ミスもしてしまい、チームに貢献できませんでした。苦しくてつらい思いをした後、後半になって結果を残せたこと……、悪い状態から良い状態にいけたということのどちらも味わえたことは、今後、誰かのためになる経験ができたのではないかと思っています。
――金メダルを成し遂げたチームスタッフに対して、今思っている気持ちは。
本当にチームワークが良いチームでした。自分の役割をそれぞれが理解して戦った結果ですし、チーム全員で勝ちとった勝利だと思います
■13年越しの連覇を達成して
――今回は無観客開催という今まで誰も経験のしたことがない形のオリンピックとなりましたが、何か影響するようなことはありましたか。
とくに影響したということはなかったのですが、たくさんの方々の前でプレーがしたかったという思いはもちろんありました。ただこういう状況であることはわかっていますから、画面を通して、今できる全力プレーを見ている方々に届けたいという思いもあったので、金メダルという形で伝えることができて良かったと思っています。
――新型コロナウイルス感染症拡大の影響で1年延期になりました。この1年はどのようにお過ごしになりましたか。
コロナ禍の中で自分自身と向き合うことができました。ソフトボールができない時期もありましたが、その時はやはりソフトボールが好きなんだなと実感しました。当たり前なことはないのだということにも気づかされて、本当に一つひとつ大切にしなければならないとも思いました。準備期間が1年延びたことで、より良い準備ができたのではないかと感じています。
――オリンピックのメダルを3度とった山田選手が、スポーツとオリンピックの価値や素晴らしさを多くの人に伝えていくために、今後どのようなことに取り組んでいこうと考えていますか。
今はまだいろいろなところに行くことはできないですが、オリンピックの経験を伝えることで、誰かの夢をかなえる一つの力になれるのではないかと思っています。経験したことを伝えていきたいと考えています。
――現時点では次の2024年パリオリンピックでソフトボールがオリンピック競技として採用される予定はありませんが、2028年ロサンゼルスオリンピックはアメリカ開催ですのでソフトボールの復活に期待がかかりますね。次世代のソフトボール選手に向けてどのようなことを伝えていきたいですか。
私自身も、先輩方からバトンを受け継いでずっとここまでやってきましたし、これからは後輩に託したいと思っています。13年間待った先に、このような良い結果が得られました。次は7年後だとすれば、13年よりは短い。絶対復活するという思いを持って、諦めずに日本の強いソフトボールをずっと育てていってほしいと思います。
――「13年越しの連覇」ということも今後めったにないことなのではと思います。それについて山田選手はどのように考えますか。
ソフトボール競技がオリンピックでずっと続いていれば5大会連続で出場することができたと思うのですが、それはかないませんでした。それでもずっと諦めずに続けてきて13年ぶりにまた金メダルをとることができて本当によかったなと思います。
■新リーグも盛り上げたい
――過去のオリンピックの経験は、今回どのように活かすことができましたか。
2004年アテネオリンピック、2008年北京オリンピックに出場して、銅メダルと金メダルを獲得するという経験をしたのですが、その経験があったからこそオリンピックの戦い方というのが分かっていたので、それはすごくプラスになったと思います。
――山田選手が感じるオリンピック戦い方というのはどういうものですか。
初戦がすごく大切だと思っていました。アテネオリンピックでは負けて、北京オリンピックでは勝っていました。今大会も初戦でどのように勢いをつけられるかがすごく大事だと思っていました。それが結果として出せたので、いい流れでいけるのではないと思いました。
――アメリカのモニカ・アボット選手などは、現在日本のリーグに所属して活躍しています。ライバル選手に関してはどのように感じていますか。
特別この人ということはないのですが、北京オリンピックの時からずっと一緒にやってきている選手も何人かいます。その選手たちと切磋琢磨してここまでつないできたので、本当にリスペクトの気持ちでいっぱいです。
――ソフトボール女子では来年から、新リーグのJDリーグも始まります。金メダリストたちが新リーグで活躍することで注目を集めると思います。
北京オリンピック後にオリンピック競技から除外されてしまったことで、ソフトボールはなかなか注目してもらえない時期がすごく長く続きました。東京2020大会で金メダルをとったことによって、より注目していただけたと思うので、今回は前回のようなことがないようにリーグ戦もどんどん盛り上げていきたいと思っています。
――最後に、山田選手が今回のオリンピックで一番伝えたかったことを教えてください。
自分がここまでやってこられたのは、本当にたくさんの方々の支えのおかげだと思っています。だからこそ、今大会は恩返しのオリンピックにしたいという思いがすごく強かったです。そして金メダルという一番分かりやすい形で恩返しをしたいと思っていたので、それが実現できて良かったと思います。
(取材日:2021年7月28日)
■プロフィール
山田 恵理(やまだ・えり)
1984年3月8日生まれ。神奈川県出身。小学生で軟式野球を始めて、高校からソフトボールを始めた。インターハイで2連覇を達成。2002年に高校を卒業し、日立製作所に入社。日本リーグでは通算の安打、本塁打、打点など歴代最多記録を更新し、ソフトボール界の「女イチロー」とも呼ばれる。04年アテネオリンピックではソフトボール女子で銅メダルを獲得。08年北京オリンピックではキャプテンを務めて金メダルを獲得に貢献した。21年東京2020オリンピックでは13年ぶりの金メダルを手にした。(株)デンソー所属。
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