JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、北京2022冬季オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
小林 陵侑(スキー/ジャンプ)
男子ノーマルヒル個人 金メダル
男子ラージヒル個人 銀メダル
■会心のビッグジャンプ
――ラージヒルでの銀メダル獲得、おめでとうございます。
お久しぶりです(笑)。ありがとうございます。
――あらためて、2個のメダルを獲得した実感を聞かせてください。
メダルが重いです。たくさんの人が応援してくれて、本当に力になりました。
――反響はいかがですか。
YouTubeの登録者がものすごく増えて、それはビックリしました。特にアップロードもしてないのに見ている方が増えているようで……。一方で、twitterのフォロワーは絶妙に増えないんですよ(笑)。どうやら、本人の公式アカウントだと思われていなかったようなので、認証済みバッジをお願いしたところです。
周囲のみんなは、やはり喜んでくれていますね。 早く帰ってメダルを見せたいです。
――この後もワールドカップを転戦すると思いますが、いつ頃帰国予定なのでしょうか。
4月頭の予定です。帰国する頃にはブームも過ぎ去っているでしょうね(笑)。
――いえいえ、皆さん楽しみにお待ちしているはずです。先日お話を伺った際は、ノーマルヒルとラージヒルは別物だとおっしゃっていました。ラージヒルの台から実際に飛んでみて、具体的にどのような違いを感じましたか。
ラージヒルは、より遠くに飛べる分、やはり面白かったです。ただその分少しのミスが結果の差につながるところも含めて、また良い経験ができたと思います。面白さと難しさの両方があるという感じですかね。
――ラージヒル1本目は、まさにビッグジャンプでトップに立ちました。あのジャンプを振り返っていただけますか。
前日の予選では全然うまく飛べていなかったので、正直なところまだ自分にあまり自信が持てない感じだったのですが、良い時のイメージを再現する意識を持って挑みました。
――そして、2本目もビッグジャンプでした。暫定トップだったマリウス・リンビク選手を上回るための目安として表示されているラインを超えたか、超えないかギリギリだったように見えました。飛んでいる小林選手ご自身は、着地する時どのような気持ちになっていたのでしょうか。
僕はあの時、「超えていないな。負けたな」と思っていました(笑)。着地した時点で、「金メダルには届かなかった。銀メダルだな」という感覚でした。
――チームメートが寄っていらして皆さんで結果が出るのを待っている間も、ご本人は比較的冷静だったのですね。
そうですね(笑)。ただ、みんなに声をかけてもらい、チームメートとの絆を心強く感じていました。
■レジェンドに導かれて
――葛西紀明監督も大変喜んでいらっしゃいました。葛西監督に対してはどんな気持ちを持っていらっしゃいますか。
僕の師匠ですので、いろいろ近くで学べてよかったです。「次のオリンピックは、一緒に目指すぞ」と言ってくれたので、その気持ちで一緒にまた練習を始めたいです。
――監督やコーチと選手の関係で、普通は一緒にといってもなかなか本当に一緒に練習するということにはならず、指導者は一方的にアドバイスをする側になりがちですが、本当に一緒に同じ方向に向かってチャレンジできるところがお二人のすごく素敵なところですね。
はい、そうですね。ありがとうございます。
――4年前と比較して、自分自身どのようなところが成長し、変化したと感じますか。
メンタルもそうですし、ジャンプもうまくなりましたし、いろいろな経験を積むこともできましたよね。
――2018年の平昌オリンピック以降、競技成績が上がり、世界のトップに安定して君臨してきました。勝ち続けること、金メダル候補と注目されることは、プレッシャーに感じませんでしたか。
プレッシャーに感じますよね。でも、気にしていなかったです。
――自分をコントロールするのが得意なタイプなのでしょうか。
できないタイプだったのですが、できるようになりましたね。
――いつぐらいから変わってきましたか。
やはり前回大会が終わってからですね。メンタルの成長が、競技成績につながってきたという相乗効果はあると思います。
■ジャンプ界を盛り上げるために
――2019年末から新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大しました。東京2020オリンピックも大会が一年延期になったわけですが、小林選手はこの期間どのように競技と向き合ってきたのでしょうか。
サマーグランプリなども、日本からは選手を派遣できませんでした。大変だとは感じましたが、でも仕方がないことだと受け止めていました。もちろん、自分の競技に関してもめちゃくちゃ大きな影響があったと思います。
普段は、マスク着用や消毒など基本的なことを心掛けていましたね。感染しないように、周りが本当に気を遣っているので、僕自身も自然と徹底していました。
――北京2022冬季オリンピックでは、すごく長期間にわたり選手村に滞在されて、試合の合間にメディア対応なども求められたと思うのですが、その点、他の大会と比較していかがでしたか。
他の大会だと、全ての種目を週末に詰め込んでしまうことが普通ですが、今回のオリンピックは時間がありました。長すぎて正直なところ飽きてしまった部分もあるのですが(笑)、それでも焦らずに対応できていました。たくさん寝て、選手村をぶらぶらして、部屋では好きなバトルゲームをしながら過ごしています。
――北京オリンピックでは、他競技も含めてTEAM JAPANの活躍が目立ちました。影響を受けた競技や選手などあれば教えてください。
元々スノーボードが好きで、結構試合も見るのですが、やっぱり(平野)歩夢くんのあの2本はやばかったです(笑)。
――決勝最後の2本ですね。見ていらっしゃったんですか。
はい、テレビで生中継を見ていました。
――同じ大会で金メダルを獲得した「同士」ということにこれからはなりますね。
うれしいですね(笑)。
――お二人ともヒップホップ系の音楽が好みと聞いていますし、話も合いそうですよね。
はい、ちょっとだけですが……、彼がメダルをとった後に選手村で会って「すごかった。刺激を受けました」という話をしました。
――平野選手もうれしかったでしょうね。
いや、名乗らなかったので、向こうは僕のことを分かっていないかもしれませんが(笑)。
――そんなことはないでしょう(笑)。さて、オリンピックメダリストになって、ますます注目されることも増えると思います。小林選手の今後の人生にどのような影響を与えていくと感じますか。
もう悪いこともできないですね(笑)。これからやっていくことが大事だと思っています。どれだけジャンプ界が盛り上がるかわからないですけど、その役に立てたらいいなと思います。
――SNSやメールなども含めて、メダルをとる前後で周囲の違いを感じますか。
普段、テレビの地上波でスキージャンプが放送されることはあまりないので、世界レベルの試合を皆さんが見て応援してくれたことは、すごくうれしかったですね。
■さらなる高みの境地へ
――あらためて、スキージャンプの魅力はどういうところでしょうか。
見てもらえれば、絶対に楽しく感じると思います。そして、オリンピックは多くの人にジャンプの魅力を感じてもらうチャンスでもあると感じています。
――今大会は、たくさんのビッグジャンプを見せていただいたのですが、小林選手がベストジャンプを選ぶとしたら、どのジャンプでしょうか。
どれだろう……。やはりラージヒル決勝の1本目が会心のジャンプだったのではないですかね(笑)。
――どんな点が「会心」だったのでしょうか。
自分自身の体の動きも良かったですし、実際に距離も出てヒルレコードも出せましたし、そしてテレマークもしっかり入れられましたし。ずっと目指してきた技術が詰まったジャンプになったと思います。
――素晴らしいジャンプに、見ている私たちも興奮しました。そして昨日は、男子団体戦がありました。チームとして、どのような手応えを持っていらしたのでしょうか。
昨日は、風や気温も含めてすごく難しい条件だったので、「何か起きるかもしれない」と言っていたのですが、みんなそれぞれ自分のパフォーマンスに集中していましたね。
――チーム戦の場合、試合前は、一人一人が飛んでいくから余計な邪魔をせず、それぞれが集中しているのでしょうか。
僕の場合はそうですね。
――あらためて、混合団体についてもお話を聞かせてください。オリンピックでは男子と女子一緒にゲームができるという新しい形の種目になりました。参加してみてどんな感想をお持ちになりましたか。
ワールドカップでもミックス(混合団体)は経験してきました。ただ、今回の試合に関しては荒れたなという感じでしたね。
――選手たちはどのような会話をしていたのですか。
どういう検査があったのかとか、そういう話ですね。
――競技中も、納得できないというもやもや感はありましたか。
昨日の試合中は、みんなそうだったと思います。その中で一人一人がベストのジャンプをしようという気持ちで、心を整えていたと思います。
――髙梨沙羅選手をハグして慰める小林選手の優しさがクローズアップされました。今、振り返ってみて、どのようなことを感じていらっしゃいますか。
あのゲームは誰もが難しい気持ちだったと思います。全員ができることをやったと思いますし、もう少しでメダルというところまでいきました。ネガティブではなくて、ポジティブな方向でとらえてもらったらいいのかなとは思います。
――そうですよね。髙梨選手を含めて、これからまた前を向いてチャレンジしていただけるように応援しています。最後、また4年後を目指してどのように過ごしたいか、今後の抱負を教えていただけますか。
4年後にまだトップで戦えているかは分からないですが、毎シーズン全力を尽くして頑張りたいですね。
――これからもビッグジャンプを期待しています。
ありがとうございます。
■プロフィール
小林 陵侑(こばやし・りょうゆう)
1996年11月8日生まれ。岩手県出身。
3歳でミニスキー、5歳でスキー、小学3年で本格的にジャンプを始める。高校までは複合とジャンプに出場していたが、2015年土屋ホーム入社と同時にジャンプに専念。18年平昌オリンピックでは男子ノーマルヒル個人で日本代表選手最高位となるノーマルヒル7位入賞を果たす。ワールドカップ18-19シーズンでは、初優勝から13勝を挙げ日本人初となる総合優勝を果たした。北京2022冬季オリンピックでは男子ノーマルヒル個人で金メダル、男子ラージヒル個人で銀メダルと2個のメダルを獲得した。土屋ホームスキー部所属。
(取材日:2022年2月15日)
関連リンク
CATEGORIES & TAGS