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北京2008


第29回オリンピック競技大会(2008/北京)

【スペシャルコラム 第3回】 競泳界の急激なレベル向上〜日本チームの未来

文:折山淑美

個人種目のメダリスト3人が持っていた"自信"


写真提供:アフロスポーツ
その北島に続いたのが、初出場のアテネ大会以来、200mバタフライでメダルを獲ると決意した松田丈志だ。そう公言しながらも、記録が伸びない時期も経験して苦しんだ。さらに、怪物・フェルプスのいる種目であり、世界のレベルも急激にアップする中で厳しい戦いを強いられた。だが彼は、決勝で大会前の日本新記録を1秒50近く上回る1分52秒97まで記録を伸ばし、念願の銅メダルを獲得した。
レベルが上がったからこそ、更なる挑戦をしてメダル争いに割り込みたい。苦境を逆に自分を高めるモチベーションにする。そんな意識でメダルを獲ったのは200m背泳ぎの中村礼子も同じだ。最初の100mでは、「最初はすごい落ち着いていたけど、勝負の瞬間に焦ってしまった」と、予選の59秒36、準決勝の59秒64よりタイムを落とす59秒72の6位に終わった。
今年になって一気に世界のレベルが上がったこの種目。本人は決勝でのメダル圏内の記録を実感できず、いい感じで入りながらも焦ってしまったのだ。1位コーグリン(アメリカ)の58秒96はともかく、3位のホルザー(アメリカ)は59秒34。終わってみて「メダルもいけた」と悔しさを募らせた。
その反省を活かし、200mは準決勝で2分08秒21の日本新を出すと、翌日の決勝では自分の泳ぎに徹し、2分07秒13まで記録を伸ばして銅メダルを獲得したのだ。


写真提供:アフロスポーツ
そんな大幅な記録更新も、ただ偶然にできたわけではない。コーチの平井が世界の流れを読み、目標タイムを明確にした。そしてそのタイムに向かって努力してきた彼女の練習の積み重ねがあってこそのメダルだった。
記録が絶対的な力を持つ水泳だからこそ、選手自身が「これだけのタイムは出す」と決意して、最初から苦しいことがわかっている練習にも本気で取り組まなければいけない。それをやり遂げた自信があって初めて、本番で記録と順位というふたつの栄冠を手に入れることができる。メダリストの3人はそれをやり遂げたのだ。
急激にレベルが上がったこの大会で、日本チームは個人種目の決勝に延べで男子7名、女子6名が進出した。そしてメダリスト以外でも、100mバタフライの藤井拓郎と、200m個人メドレーの髙桑健髙桑健がアジア新記録を出しているが、全体的には予想以上の苦戦をしたといっていいだろう。自己記録を出しておけば銅メダルが獲得できていた200m背泳ぎの入江陵介や、この大会での進化の波に乗れず、期待されながらもメダル争いに加われなかった種田恵もいる。だが、初出場の彼らにはいい経験にもなったはずだ。
北島康介頼りというのが現状の日本チーム。今後をにらむと、松田や入江などが柱になっていくだろうが、彼らがどこまで太く、頑丈な柱になれるかでチームの勢いは変わってくる。もう北島だけに頼るチームからは脱却しなければいけない時になっている。

(2008.8.20掲載)

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