アスリートメッセージ
自分がどこまで強くなるかを追求したい。
世界選手権へ行っている2週間でも、彼は吸収力のすごさを発揮した。勝ち進んでいたため、試合のない日でも体重調整の練習は欠かせなかった。その時に、他の階級の試合を見て「これは面白いな」と思ったことをいろいろと試していたのだ。そのため帰国して大学で練習を再開した時に、自分のボクシングが変わっていることに気がついた。世界選手権で銅メダリストになり、今度はマークされる立場になりながらも「相手が研究してきても、自分のスタイルも大きく変わっていますから」と自信を持つ理由がそこにある。それもまた、彼の柔軟な思考があってこそできることだ。
「北京はもちろん勝ちにいくし結果も出したいけど、僕はまだ世界に通用するとは思っていないんです。日本では満足してるけど、世界を見たら自分がちっぽけなことに気がついたので。だからさらに、アマチュアボクシングが楽しいし、面白くなってきましたね。今まで自分の中で考えて試行錯誤してきたけど、もう頭を使っても知恵が浮かばない感じで精一杯のところまできていたんです。でも世界へ行ったら国によってボクシングが違うし、個人によっても違う。参考になるものが無限にあるっていう感じなんです」
自分がどこまで強くなるかを追求してみたい。そのためには無限にあるボクシングスタイルを、可能な限り飲み込んでみたい。そう思う川内にとって北京は、今までとはひと味違う、人生まで懸けた真剣勝負の戦いを経験し、その中で新たなものを見つけてくる場だ。それをするためには、彼自身も万全な体調と万全な精神で立ち向かわなければならない。
彼の世界選手権の活躍は、他の選手たちの心にも火をつけた。2008年2月にバンコクで行われた北京オリンピックアジア一次予選で、フェザー級・清水聡が決勝に進出。北京オリンピック出場権を獲得した。川内がオリンピック王者を倒したことで、「王者といえども恐れることはない」という気持ちを植えつけたのだろう。この勢いは、最後のアジア予選にもつながることは必至だ。
「いくらオリンピックといっても試合自体は変わらないと思います。ただ、世間が注目してくるだろうけど、そのプレッシャーに飲み込まれないように精一杯やりたいですね」と明るく語る川内。彼は北京でも、自分を見失うこともない、鮮やかなボクシングを見せてくれるだろう。それだけの精神力の強さを持っている。
(2008.4.1)
川内選手からのビデオメッセージ「ぼくの持ち味は・・・」を見る
1985年11月25日生まれ。佐賀県出身。専修大学所属。
小学校から中学校まで剣道部に所属し、龍谷高校入学と同時にボクシングを始める。
高校時代には全国高校選抜大会・全国高等学校総合体育大会・国民体育大会で優勝、3冠を達成。専修大学に入学すると2年次には全日本アマチュアボクシング選手権ウェルター級で優勝。3、4年次にはライトウェルター級で2連覇を達成した。
そして、2007年アマチュアボクシング世界選手権(シカゴ)で銅メダルを獲得し、ライトウェルター級の北京オリンピック出場権を獲得した。