アスリートメッセージ
(写真提供:アフロスポーツ)
「自分にとって200メートルは、仕事として結果を出さなくてはいけない種目。100メートルは人間・末續慎吾として、逃げてはいけない種目だと思っています」
同じ短距離のレースでも、100メートルのレースには格闘技に似た雰囲気があるという。スタートラインにつくときから、一触即発の緊張感がみなぎり、走り始めてからはまるで何発も殴り合っているような圧迫感を覚え、ときにはボコボコにされたような気持ちでゴールすることもあるというのだ。
「正直、怖いですよ。100メートルは走り出したらもう技術だとか、それまでにやってきたことを出し切れば通用するとか、そんなものではないんです。レースのときに、どれだけ野生的になれるか。海外で走るときには、自分の体の3倍も4倍もあるような男たちとボクシングをしているみたいなものですから。最初はそんな100メートルのレースからは逃げたいというか、恐怖を感じていたというか。それでも必死についていけば、相手からは、しつこくて嫌なヤツだなとか、思われていいかなとか、考えるようになりました」
一方で200メートルは末續選手にとって、もっとも得意な種目として、周囲の期待にこたえる結果を出さなくてはと思う距離だという。2003年の世界選手権パリ大会の同種目では、ファイナルに進み、すばらしい走りで日本人初の銅メダルを獲得した。そのとき、パリの会場にいた観客は、アジア人の快挙をスタンディングオベーションで称えたという。
(写真提供:アフロスポーツ)
その後、100メートルに対しても逃げたいという気持ちがなくなり、むしろ挑まなければという思いで、アテネオリンピックは100メートルのレースに出場した。
「短距離の世界では、外国選手は体格的に有利だといわれますが、選手はそれぞれにいろいろな面での短所と長所があると思うんです。それでつい、短所のほうに目が行ってしまって、短所のほうを伸ばそうとしてしまうんですけど、僕は日本人が持っている長所を伸ばせば、世界でも十分戦えると思っていました。長所を大幅に伸ばすことで、弱点を克服する。そうやって日本人選手はどんどん強くなっていますから、僕は外国選手だけが強いとは思っていません」
子どものころからかけっこが人より少しだけ早くて、サッカーや野球や運動会が大好きだった。ヒーローはテレビで見た陸上選手。漠然とあこがれて、いつか自分もオリンピックに出てみたいと夢見るようになっていた。