2大会連続男子モーグルで銅メダル。オリンピック初実施の新種目・デュアルモーグルでは銀メダル。日本男子モーグル史上に新たな1ページを刻んだのが堀島行真選手だ。確率を計算し、ジャッジを分析する28歳が見据える、いまだ届かぬ金メダルへの道筋とは。
――今大会、2つのメダル獲得となりました。おめでとうございます。
<堀島> ありがとうございます。
――うれしさと同時に、悔しさも入り混じる部分もあるのかと想像しますが、改めてどんなお気持ちでしょうか。
<堀島> まず、メダルを獲得できたことについては、最低限頑張ることができたのかなと思っています。そして自分自身、メダルに向けて取り組んだ4年間がすごくポジティブで充実していたと感じているので、だからこそメダル以上に価値ある時間だったなと思います。これ以上ない努力を積み重ねてきましたが、そこには、いろいろな方々の支えがありました。2位、3位でオリンピックの表彰台に立った光景から、また次のオリンピックの金メダルに向けた準備が想像できました。まだ届かないけれどまた頑張ろうと、今後の4年間も本当にポジティブな感情で努力を積み重ねられるんじゃないかなという気持ちでいます。
――北京2022冬季オリンピックの男子モーグルで銅メダルを獲得し、オリンピックメダリストとなりました。この4年間で前回大会からの違いを感じる部分はありますか。
<堀島> 北京では、本当に「どうにかして銅メダルを獲得する」というのが僕自身のテーマでした。当時は、確率でいうと、メダル獲得の確率が100%、銅メダルの確率が約43%という計算で挑んでいきました。そうやって自分の不安と事実を切り分けて可視化することで、自分にプレッシャーをかけずに自分のパフォーマンスに集中できるようにする、北京はそういう挑み方でした。
今大会については、シーズン序盤に1試合ミスをしてしまったこともあり、メダル獲得率は80%でしたが、金メダルが40%、銀メダルが40%という確率を頭に入れて大会に入っていきました。最終的には銅メダルで、想定していた確率の中になかったものが入ってきたというのが一つの結果でした。一方で、メダルの確率80%……、つまり大会に出れば8割の確率でメダルを獲得できるという感覚は、きちんと実感することができた試合でもありました。
これだけを比較すると北京大会もミラノ・コルティナ大会も一緒なのですが、ただ、金メダルを目指すに当たって、自分のやりたいことや滑りに対する自信が、スタート前にすごくあふれている状態でスタートできました。それは、これまでの2大会と比べてもオリンピックの特別感を感じさせない、漠然とした不安や怖さを払拭できたような経験になったと感じています。
――「メダル確率を計算する」というのも独特ですが、数学が得意だという堀島選手ならではですね。差し支えなければ、もう少し詳しく教えていただけますか。
<堀島> 簡単に言うと、直近のシーズンインからオリンピックまで、ワールドカップの成績で確率を計算しています。今シーズンは5試合あって、4試合が表彰台、そのうち2試合が1位、残り2試合が2位だったので、計算するとメダル確率80%、金が40%、銀が40%、ということになります。北京の時は7試合に出て、すべて表彰台、1位3回・2位1回・3位3回だったので、計算するとおよそ43%・14%・43%といった割合になると記憶しています。
――なるほど、そういうことですね。よくわかりました。
――モーグル予選はトップ通過、最高のスタートだと感じました。決勝は金メダルを意識しながらの戦いになったと思いますが、もしご自身がモーグルの評論家としてご自身の滑りを評価したら、どのように解説されますか。
<堀島> 点数が伸び悩んだ部分の感覚については、ジャッジの得点を見ながらだと解説できるかなという気はしています。得点があと0.1ポイントでも高ければ金メダルだったと思うのですが、2つ目のジャンプはしっかり着地まで持っていけたものの、空中姿勢のズレが影響して、良さを存分に見せつけることができなかったというところがあって、この点はもう少し掘り下げて解説できるように思います。
それから、出走順もポイントでしたね。下から3番目でのスタートで、上に4人が残っている状況になりました。早いタイミングで滑ってしまうとやはり記憶が薄れていってしまうので、巻き返しをはかるには少しインパクトが足りない滑りだったと感じます。順位の位置どりと滑りを照らし合わせながら解説したいですね。
ただ、僕はおそらく日本人の解説者になるので、ひいき目に見れば「堀島選手が優勝で良かったんじゃないかな」と思っています(笑)。
――すごく面白いです。それにしても、どんなに難しい技を繰り出して、きちんと着地もしたのに、それでもダメというのが、はたから見ているとより難しさを感じてしまう部分ですね。
<堀島> そうですよね。これはちょっと難しいかもしれないのですが、このオリンピックに向けては、採点者がどういう点数を出すのかというジャッジ分析もやってきていました。その分析からすると、ジャッジが1440(フォーティーンフォーティ)をオリンピックの舞台でそこまで点数を上げ切っていなかったですし、ワールドカップでもそこまで最高点が高くなかったというところをあらかじめもう少し深掘りすることができていれば、おそらくコーク1440(スイッチバックサイド・トリプルコーク・フォーティーンフォーティ)の選択肢をどこで持ってくるかといった戦略がより明確に考えられたはず。この点は、今後の4年間に向けても大切な反省点になるかなと考えています。
――なるほど、すごく勉強になります。一方で、新種目のデュアルモーグルでは、後ろ向きでゴールしてしまうようなミスも出たものの、相手側もミスしていたおかげで勝ち上がった、というようなデュアルモーグルならではの醍醐味も感じられる試合がありました。「ツキがあるな」とも感じていましたが、堀島選手ご自身はどのような感覚でいらっしゃったのでしょうか。
<堀島> シードで予選をパスする選手が3人いました。男子モーグルでオリンピックチャンピオンになったクーパー・ウッズ選手(オーストラリア)、ジュリアン・ビエル選手(カナダ)、そして僕の3人がシードでした。オリンピックの舞台、デュアルモーグルの競技でスタートをすでに切っている選手と1回戦目に当たることになります。「落ち着き感」や「次の反省点を持った選手」が相手になる。オリンピックの舞台を2回目に滑る人と、まだ1回も滑っていない状態でデュアルモーグルの対戦をする感じですよね。実際、この3人の内、シードの2人は初戦で脱落したので、それだけオリンピックではやはりプレッシャーがかかるのだと思います。
その中で僕の対戦相手だったのニック・ページ選手(アメリカ)には本当に申し訳ないのですが、彼が先にコースアウトしてもらえたおかげで勝ち上がることができたので、本当にラッキーという気持ちしかなかったです。彼もすごく仲がいい選手なので「ちょっとごめんね。申し訳ないけど」という感じでした。本当にシードの2人が脱落しているくらいですし、僕も脱落の一歩手前だったと思いますから、ツキがあったのでしょうね。
――シードで勝ち上がるのが必ずしもいいわけでもないのですね。
<堀島> はい。1本滑れる本数が少ないですが、選手はすでに鍛え上げてきているので、1日に1本少ないから体力温存できるかというと、そこはあまり関係ないのかなと感じています。
――堀島選手が勝ち上がり、決勝の対戦相手はレジェンドであり、最大のライバルともいえるミカエル・キングズベリー選手(カナダ)でした。彼は堀島選手にとってどんな存在なのでしょうか。
<堀島> やはりリスペクトすべき存在です。カナダチームとしてのチーム力も高く、勝ち方もよく分かっていると感じます。見ていても、本人もすごく分析していますし、勝ちにこだわりながら作戦通りに進めていることが多く、緻密な計算の上で成り立っている勝利なのかなと感じます。
それでも、それを上回っていけるのが僕だと思っています。この日のオリンピック当日は上回ることはできませんでしたが、対戦する中で彼を上回ることができる日が年に何回かあります。今後は、自分としてもとりこぼしがないように勝っていく、そこがキングズベリー選手から学ぶべきところなのかなと思っています。
チーム・カナダではキングズベリー選手がヒーローなのですが、これまでのオリンピックでは別のカナダ選手が2大会連続で金メダルをとっていますし、チーム力が高い。やっている量もおそらく日本チーム全体の量よりも多いと感じます。僕らが考える以上に考えながらやってきているからこそずっと強い。僕らのお手本としていてくれる限り、僕たちはそこに挑み続け、それを超えていくための計画や成果を持って挑んでいかないといけないと思います。
――表彰台では、奥様やお子様も寄っていらして、パパ友3人の温かい仲間同士の感覚が伝わってきました。堀島選手はあのシーンをどのように感じていらっしゃいましたか。
<堀島> 自分が父親になったことは人生の上でももちろん特別な時間だと思うのですが、その時間を共有できる仲間が同じ競技を戦う中にいるということもすごいことだと感じています。
「育児をしながら競技をするのは難しい」「一途に競技に向き合うべき」という固定概念がありますから、自分たちも人生の中で年齢を重ねていくうちに子どもをつくることが難しくなっていきます。でも、こういう競技との向き合い方もあるという可能性を示すことができるようなフリースタイルのワンシーンになったのかなと思います。幸せな時間をみんなで共有して、互いにたたえ合いたいというような温かさがフリースタイルにはあります。表彰台の3人が決まって「これは、全員が父親だ」と分かった瞬間に、応援して来ていた僕の妻も含めて、各選手の奥さんと子どもたちみんなで写真を撮る時間をつくろうというプランが決まりました。オーガナイズするみなさんの中にも僕の知り合いがいて、ファミリールームを用意してくれたことも含めて、フリースタイルにはファミリーを大切にする文化があるんだなと感じています。
――なるほど。最後になりましたが、4年前にお話を伺った時には、堀島選手は飛び込み、器械体操、フィギュアスケート、BMXなど、いろいろな競技を経験していらして、それがモーグルに活きているという話をしてくださいました。今日伺った話にあったような、将棋や数学といった趣味に通じる「逆算する思考」も、モーグルに活かされているのでしょうか。
<堀島> はい、そう思います。僕は将棋が好きなのですが、元車いすテニス選手の国枝慎吾さんも将棋がめちゃくちゃ強いと聞きます。僕はそれほど強いわけではないのですが、そこもすごいなと感じています。そういう逆算の発想は、おそらく勝つことにとって大切な要素なのかなと感じることもあります。数学も、抽象的なものをより明確にするものですよね。一口に「速いね」といっても「1.0秒」なのか「2.1秒」なのかで全然違う。数字として可視化することで、ただ「速いね」というのとでは変わってきます。イメージと自分の頭の間を整理する時に、数字や確率や予想として明確になることで、視界がクリアになっていく感覚はあると思います。
――なるほど、おっしゃる通りですね。ありがとうございます。大変お疲れのところ、丁寧にお答えいただき、感謝しています。ありがとうございました。
<堀島> こちらこそ、ありがとうございました。
堀島行真(ほりしま・いくま)/1997年12月11日生まれ。岐阜県出身。1歳でスキーを始め、小学4年でモーグルを始めた。中京大学附属中京高等学校を経て、2016年に中京大学に進学。17年アジア冬季競技大会では男子モーグルと男子デュアルモーグルの2種目を制した。同年世界選手権でもモーグル・デュアルモーグルで金メダルを獲得して2冠達成。平昌2018冬季オリンピック男子モーグル11位。北京2022冬季オリンピックでは銅メダルを獲得。ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでは、男子モーグルで2大会連続銅メダル、オリンピック初実施となった男子デュアルモーグルで銀メダルを獲得。トヨタ自動車株式会社/トヨタ自動車スキー部所属。
注記載
※本インタビューは2026年2月17日に行われたものです。
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