イタリア・セリエAで挑戦し続け、チームの中心選手として信頼を勝ちとってきた石川祐希選手。東京2020オリンピックで29年ぶりの決勝トーナメント進出を果たしたTEAM JAPANバレーボール男子。パリ2024オリンピックでの飛躍のカギを握るキャプテンに聞く。
――2021年、東京2020オリンピックが1年遅れで開催されました。石川選手はオリンピック初出場ということになりましたが、この大舞台をどのように感じましたか。
20年に行われる予定だったはずのオリンピックが21年に行われることとなり、複雑な気持ちを持っていました。その1年でチャンスを得た選手もいれば、その1年でチャンスを失った選手もいます。僕もその一人で、20年にオリンピックが開催されていれば、キャプテンになることはありませんでした。 決して満足できる結果ではなかったのですが、バレーボール日本男子として29年ぶりに決勝トーナメントに進出できたという意味では、いい戦いができたと感じています。キャプテンという立場ではじめて戦ったオリンピックは、不安も少しありながら、それでも仲間に助けられながら戦うことができ、僕自身にとってはプラスばかりの経験でした。無観客開催だったり、緊急事態宣言が発令されていたりで、実際に会場で観戦してもらうことはできなかったですが、僕たちのプレーを表現できたと思いますし、次こそは実際に観ていただきたいという思いを持って大会に臨めたことは、今後につながっていくと感じています。 オリンピックは4年に1度の特別な舞台だと感じました。負けて涙を流している選手もいましたし、どの国の選手を見てもオリンピックにかける思いやモチベーションは、他の大会と違いました。だからといって特別なことをやろうという気持ちではなく、「特別な舞台だからこそ、いつも通り、練習通りのプレーをするだけ」という思いがあり、また、東京2020オリンピックでは、僕だけではなくチーム全員が同じように考えてプレーすることができたからこそ、決勝トーナメント進出という結果を残すことができたと思います。
――パリ2024オリンピックまで1年あまりとなりましたが、現時点の思いを聞かせてください。
今はまだ日本代表モードになっていないので、正直なところ、具体的にお答えすることは難しいです。ただ、今シーズン、イタリア・セリエAで得てきた経験が必ず日本代表にも活きてくると思っています。 僕たちパワー・バレー・ミラノはレギュラーシーズンを8位で通過してプレーオフに進出しました。準々決勝で最初に対戦したペルージャは、レギュラーシーズンで1敗もせずリーグ1位だったのですが、そんな強豪チームに対して僕たちはギリギリの戦いで勝つことができました。「勝てない試合はない」「どんなに強いチームといわれていてもうまくいかない日はある」というように、チーム力を高めて全力を尽くせば道が開けることも結果で証明できたと思います。これは、僕自身もそうですし、周囲の選手たちにとっても力になるはずです。 パリ2024オリンピックで勝つことも大切ですが、それ以前に、まずはオリンピック予選を突破しなければいけません。アメリカ、スロベニア、セルビアなど強豪ぞろいの厳しいグループの中で勝っていくには、チャレンジャー精神とチームワークが必要です。日本代表のチームメイトも僕の試合結果は見てくれていたでしょうし、今回の経験がオリンピック予選でも必ず活きてくると思っています。
――22-23シーズンは、ミラノの中心選手として活躍し、セリエA制覇まであと一歩という結果になりました。あらためて、シーズンを振り返ってどのような感想をお持ちですか。
決勝進出を逃して本当に悔しい思いもありますが、今シーズンはプレーオフで準決勝に進出することが目標だったので、その目標を達成できたうれしい思いもあります。そういったごちゃごちゃとした複雑な思いはありますが、充実したシーズンだったと感じています。レギュラーシーズンはなかなかうまくいかないこともありましたが、プレーオフでは自分たちの力を出し切れたと思っているので、この経験をきっかけにまた大きく成長できそうな感覚はあります。
――世界のトップリーグであるセリエAで、チームの中心として活躍する石川選手のプレーぶりは、バレーボール関係者の皆さんからも高く評価されています。ご自身はどのような手ごたえをつかんでいらっしゃるのでしょうか。
毎年ステップアップして、中心選手になれるようにトライしてきましたが、そうした積み重ねの結果が、今の状況を生み出していると思います。チームの中心であるという自覚も芽生えてきて手ごたえも感じています。たしかに、皆さんから見たら中心選手と見られているかもしれませんし、チームの中でも中心選手と思われていると思いますが、まだリーダーといえるほどの立場を確立できていないですし、チームを勝利に導けていない面も多々あります。終わってみると、もっとチームを鼓舞することができたし、もっともっとチームを助け、引っ張ることもできたと感じるので、そこは来季以降の課題ですね。
――チームメイトから認められるようになったカギは、どんなところだったと思いますか。
プレーのスキル、大事なところで1点取ること、安定してレベルの高いプレーをすることも重要ですが、チームの誰よりもコミュニケーションをとり、たくさん話して、明るくいることが大事です。試合中も、コート外もそうですが、チームの選手とたくさんコミュニケーションをとって、指示を出したり、自分の考えていることをしっかり伝えたりすることが重要で、それも1回だけではなくて2回、3回と繰り返すことでチームの中心になっていったと感じています。
――もともと大学を卒業されてもVリーグに所属せず、海外リーグにチャレンジされました。言葉の問題などご苦労もあったことと思います。石川選手はそうした不安をどのように乗り越えてきたのでしょうか。
僕は「バレーボールが好き」という思いでここまでやってきました。「好き」「強くなりたい」という思い、そして、「世界のトッププレーヤーになる」「世界一になる」という目標があるので、それを叶えるためにここまで取り組んできました。 言葉の壁はやはり一番大変です。僕はイタリア語を使っていますが、英語でも全然問題なくコミュニケーションできます。若い皆さんは日本語以外、特に英語などを勉強していたらもっとスムーズに溶け込めると思います。今年8シーズン目を迎えていい結果を出すことができましたが、言葉がもっと話せていれば、もっと早い段階でこういう結果をつかむこともできたと感じています。海外を目指すのはハードルが高く感じるかもしれませんが、勇気を持つことも、話すことも、どこの国に行っても必要なこと。言葉の面は地道に勉強をするしかないので、あらかじめ学んでおくのもいいですね。
――3月にはワールドベースボールクラシック(WBC)がありました。大谷翔平選手やダルビッシュ有選手など、メジャーリーグ(MLB)で活躍する選手たちがチームに対する影響力は大きかったと感じます。石川選手がTEAM JAPANに及ぼす影響や期待も大きくなりそうですね。
WBCは観られる時間の試合は観ました。すでにMLBで活躍している選手やこれからアメリカで戦う選手が日本代表で活躍していましたよね。彼らのプレー、行動、発言などは、チームメイトの選手たちに対する影響はもちろん、観ている人たちにとっても大きかったと思います。 バレーボールで考えれば、僕のほかに、イタリアでは高橋藍選手が、またポーランドでは宮浦健人選手が活躍しています。今シーズン日本でプレーしていた選手の中にも、海外経験がある選手も複数います。そういった選手がいればいるほど、チーム力も上がるでしょうし、チームにいい影響を及ぼすはずです。日本代表の中でも、経験やモチベーションなどについて、言動を通して伝えていくことが重要だと思っています。
――ご本人からすれば日々ご苦労があることと思いますが、一方で、順調にステップアップされているようにも感じます。今、昔のご自身を振り返っていただき、成長を実感するのはどんなところですか。
バレーボールのスキルに関しては、日々練習を継続してきた積み重ねの結果。毎日目的をもって意識しながら練習しているので、当然やればやるほどスキルは高くなっていきます。 一方で、周囲とコミュニケーションをとること、自分の意見を言うこと、1点決めた時の表現力、チームを鼓舞する言葉などといった部分は、海外に来てからだいぶ変わったと思います。言葉がしゃべれるようになってきたこともありますが、海外のトップ選手たちと日常から過ごすことで、対戦相手も含めた選手たちの表情、態度、雰囲気などを見て学んでいることが大きいです。とくに感情表現の豊かさは、日本人と比較すると本当に半端じゃない。そういう選手たちと競っていくには、僕もそこまでやらないといけないと感じたので、そこは大きく変わった点だと思います。
――国際大会になると普段はチームメイトの選手たちと戦うケースもあります。ライバルたちとの関係が石川選手にもたらしている影響を感じることはありますか。
はい、イタリアでともに戦っているチームメイトが相手にいるのはうれしいものです。試合をして勝敗を決めるのがスポーツなので、勝った時はうれしいし、負けた時は悔しいもの。チームメイトと戦って僕が勝った場合は、向こうは負けるわけなので、少し残念というか複雑な思いはありますが、それでも僕はチームメイトと対戦できるのはすごく楽しみです。 チームメイトとして戦っている時と、対戦相手として戦う時ではモチベーションは変わってきます。加えて、相手も僕のことをよく知っていますし、僕も相手のことをよく知っているので、普通の試合よりも駆け引きが多く生まれるところも楽しさを感じますね。
――スタメン争いやベンチ入り争いなどを考えると、チームメイト同士もライバル関係だといえます。そういうチームメイトの存在はどのようにとらえていますか。
僕のポジションはチームに4人いてそのうち2人がスタメンで出場できます。その2人に選ばれるためにも、チームに、監督に、何を求められているのかを理解してプレーすることが重要です。監督から信頼を得ている選手は、チームから頼られる存在になるので、まずそれを理解することが第一。 僕にあって他の選手にないもの。他の選手にあって僕にないもの。それらを見つけて、僕にない部分を他の選手プレーを見て学ぶことを常に意識しています。どの選手にも必ずいいところはあるので、それをどんどん吸収していくというスタンスです。 スタメン争いが厳しいとナーバスになる人も多いと思うのですが、僕は違います。バレーボールのプレーヤーとして成長するために、常にスキルは磨かないといけません。やるべきことをこれだけしっかりやってダメなら仕方ない、負けたのは僕の実力がそれまでだったと思えるくらい、練習はもちろん、練習以外のことでもバレーボールに時間を割いているつもりです。スタメンでなくても例えば、ピンチサーバーで出る機会があればそこでしっかり結果を残すなど、ほかにやるべきことを探して切り替えるしかないと思っています。 でも、やはり負けたくはないです。ほかの選手より意識して練習したり、自主練を増やしてみたり、何が足りないかを理解して足りない部分をなるべくプラスに変えられるように練習したりすることしかできないので、はじめてチームに合流する時にはそういったことをよく考えますね。そこでしっかり安定したプレーができればスタメンを獲得できると思うので、とくにシーズンの最初はそのようなことを意識して行動しています。
――石川選手の話からは、クレバーで誠実な人柄が伝わってきます。あらためて、TEAM JAPANシンボルアスリートに選ばれたことをどのように受け止めていらっしゃいますか。
バレーボール競技初の選出ということで僕自身光栄に感じています。「バレーボールの石川祐希」から「TEAM JAPANの石川祐希」になって、たくさんの方に観ていただきたいですし、たくさんの子どもたちが目指したいと思う、お手本となるようなアスリートになりたいと思っています。そのために、TEAM JAPANでも海外でも注目してもらえるような結果を出して活躍していきたいですし、結果だけでなく、人間性や人間力という面でも「石川祐希っていいね」、「かっこいいよね」、「ああいう選手になりたいな」という言葉をもっともっと聞けるとうれしいです。それが、今後のバレーボール界、スポーツ界のためになると思うので、シンボルアスリートとして自覚を持って行動しながら、さまざまな活動をしていきたいです。
――そのために何か勉強していることや心がけていることはありますか。
人として常に成長することが必要ですが、海外で過ごしているからこそ、僕は人間力を高めるチャンスが多い環境にいると感じています。イタリアのチームですが、メンバーにはフランス人やキューバ人やプエルトリコ人などがいるので、彼らから海外の文化や国の状況など広くさまざまなことを学び、吸収しています。 例えば、キューバにおける子どもたちの貧しさについて聞くことで、今ある環境がいかに恵まれているかにあらためて気づかされ、モノを大切にする気持ちが芽生えます。イタリア人はわがままで自己中心的だと感じることも多いですが、一方で、他人に対してはすごく優しくていい性格だとも感じます。そして、僕たち日本人は、そうした多様な価値観を理解し納得できることに気づける。このように、さまざまなことを受け入れる大切さを実感するからこそ、さらにいろいろと学び続け、将来スポーツをやる子どもたちに伝えていけるといいなと思いながら生活しています。
――素敵な話をありがとうございます。あらためて、石川選手が考えるバレーボールの魅力を教えてください。
バレーボールはボールをつなぐ競技です。全員でつないで1点をとる競技だからこそ、団結力やチーム力の大切さが観ている方にも伝わると思います。普通の生活でもいろいろな人と助け合って物事を作っていくので、身近なところに置き換えて観ることもできますよね。 また、ボールのスピード、ジャンプの高さなど、テレビで観るよりも現地で観るほうが間違いなくプレーの迫力を感じていただけるはずなので、機会があればぜひ生で観戦してほしいと思います。
――あらためて、パリ2024オリンピックに向けた石川選手の意気込みをお聞かせください。
前回の東京2020オリンピックでは準々決勝敗退だったので、次回パリではその準々決勝で勝ってメダル争いに絡み、そして、メダルをとることが目標です。 そのためにも、まずは、23年9月にあるパリ2024オリンピック予選でグループ2位までに入り出場権を獲得したいです。23年最大の大会がオリンピック予選なので、そこでベストパフォーマンスを発揮することが必要だと考えていますし、日本で開催されるので、皆さんにはオリンピック出場権を獲得する姿を目の前で観ていただきたいと思います。 僕は基本的にイタリアでしかプレーしていないので、日本の皆さんの前でプレーできるのは日本代表としてプレーするこの23年6月から9月、10月にかけての期間しかありません。そんな短い期間の中でも試合を観に来てくださる方が増えるとうれしいですし、1度観ていただければバレーボールに興味を持っていただける自信があるので、ぜひ会場にお越しください。もちろん、テレビでも放映されますので、それを観て応援していただければありがたいです。
石川 祐希(いしかわ・ゆうき)
1995年12月11日生まれ。愛知県出身。姉の影響を受け、小学4年でバレーボールを始める。2012年、13年と星城高校で2年連続高校3冠を果たす。14年、中央大学に進学。日本代表に選出され、仁川アジア競技大会に出場。同年、イタリア・セリエAパッラヴォーロ・モデナと契約。大学卒業後プロ宣言し、以後セリエAでプレーを続ける。21年4月、バレーボールTEAM JAPAN主将に就任。東京2020オリンピックでは、バレーボール男子29年ぶりとなるベスト8進出に導き、7位入賞。22年6月、TEAM JAPANシンボルアスリートに選出される。22-23シーズンのセリエAではプレーオフに進出、チームをベスト4に導く。パワー・バレー・ミラノ所属。
注記載
※本インタビューは2023年4月26日に行われたものです。