飛込は、一定の高さの飛込台から空中に飛び出し、着水までの一連の動作の技術、美しさを競う競技。着水までのわずか2秒弱という短い時間の中で、様々な技を繰り出し評価点を競います。
東京2020大会 飛込 男子10m高飛込 予選(写真:三船貴光/フォート・キシモト)
飛込の種目とルール
飛込の種目は、3mのジュラルミン製でできた飛板を使い、反発力を利用して演技を行う「飛板飛込」と、10m高さの台から飛び込む「高飛込」の2種類が行われ、それぞれ個人種目とシンクロ種目があり、男女合わせて合計8種目が実施されます。飛板飛込、高飛込ともに男子は6回、女子は5回演技を行って合計点数を競っていき、予選、準決勝、決勝の順に進んでいきます。
東京2020大会 飛込 男子3mシンクロ板飛込(写真:杉本哲大/アフロ)
飛込の見どころ
飛込の見どころは演技がスタートして2秒弱で勝負が決まる「一瞬の美」にあります。5種類の踏切の方法と、前後の回転の方向に加えた捻りに、回転時の身体の形を組み合わせて演技を行い、その美しさとダイナミックさが採点されます。入水時の水しぶきをどれだけ抑えられるかも採点基準のひとつで、世界のトップ選手たちはほとんど水しぶきを上げません。特に、入水したかと思えば、全くしぶきが上がらず、ぼこぼこと泡が水面に見えるだけの「リップ・クリーン・エントリー」とよばれる入水は美しく、最も得点が高くなります。採点は10点満点からの減点法で行われます。また2人同時に飛び込むシンクロ種目では、2人の演技がどれだけ同調(シンクロ)しているかも採点対象になり、目が離せません。
杭州アジア大会 飛込 女子10mシンクロ高飛込 決勝(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
オリンピックにおける日本の歴史
日本人選手が初出場したのはロサンゼルス1932大会で、最高位はベルリン1936大会における柴原恒雄選手(男子3m飛板飛込)と大沢礼子選手(女子10m高飛込)の4位となっています。これまでにメダル獲得はありませんが、玉井陸斗選手(男子10m高飛込)が初出場にして同種目では21年ぶりとなる入賞を果たしたのを始めとして、東京2020大会では日本人選手が8種目中5種目で入賞しました。また翌年2022年に行われた世界水泳選手権大会では玉井選手が男子10m高飛込で、三上紗也可選手・金戸凜選手が女子シンクロダイビング3m飛板飛込で銀メダルを獲得するなど活躍を見せました。日本人選手によるパリ2024大会でのメダル獲得が期待されます。
東京2020大会 飛込 男子10m高飛込(写真:杉本哲大/アフロ)
パリ2024大会の見どころ・注目選手
今回の注目は、やはり玉井陸斗。2019年、中学1年生だった玉井は、日本室内選手権(現翼ジャパンダイビングカップ)でシニアの全国大会デビューを果たし、いきなり男子高飛込で優勝をかっさらいました。当時12歳7カ月だった玉井は、同じチームの尊敬するレジェンド、寺内健を超える史上最年少記録を打ち立てました。その後、国内では敵なしの強さを誇り、一気に日本を代表するダイバーに成長しました。
玉井の世界デビューは2021年、東京アクアティクスセンターで行われた東京2020大会の最終予選となっていたワールドカップ。緊張感のあるなかでオリンピックの代表権を獲得し、東京2020大会では21年ぶりとなる男子高飛込で7位入賞を果たしました。
中国が無類の強さを誇るこの飛込競技において、玉井は二度も中国を打ち破る活躍を見せています。持ち味はその回転力はもとより、入水技術の高さです。男子は6ラウンド演技を行います(女子は5ラウンド)が、大きなミスなく6ラウンドをこなす安定感も魅力です。玉井がパリ2024大会でメダルを獲得できるカギは、207B(後ろ宙返り3回転半エビ型)です。玉井が長年苦慮する苦手種目でありますが、この種目を成功させられるかどうかが大きく結果を左右することになります。玉井本人もそれは良く分かっており、現在207Bもしっかりと練習中。成功率は徐々に上がってきており、玉井本人も手応えを感じています。ライバルは、中国勢。彼らを打ち破り、日本の飛込界初となるメダルをもたらすかに注目です。
女子で注目したいのは、3m飛板飛込の三上紗也可です。女子のこの種目は、世界的にもあまり難易度の差はなく、演技と入水の完成度が結果を大きく左右します。そのなかで、やはりこの種目でも中国がずば抜けており、ほとんどミスをしない中国選手たちにどう食らいつくかが大きなポイントになります。その中で、審判からも演技の評価が高いのが三上です。つま先の美しさと演技のダイナミックさ、そして入水技術のどれを取っても、中国に引けを取りません。そして、三上のメダル獲得のためのキーポイントは、いつも最後に飛ぶ5154B(前宙返り2回転半2回捻り)という大技です。この種目を飛ぶ選手は世界に数人しかおらず、5154Bを決めることさえできれば、大逆転も夢ではないほどです。
実は2022年のFINA世界選手権ブダペスト大会では、4ラウンド目までは2位につけていました。ただ、最後の5154Bのミスで7位入賞という結果となりました。たらればではありますが、ここで5154Bを完璧ではなくとも、普段通りの得点を獲得していれば、十分に世界大会でのメダルを獲得していました。つまり、技術レベルはすでに世界で表彰台に立てるだけに達しています。あとは、その成功率を上げるだけ。三上を指導する安田千万樹ヘッドコーチも、順調に来ていると話します。逆転の連続の女子3m飛板飛込で、三上が初のメダル獲得となるかに注目です。
坂井丞、榎本遼香、そして荒井祭里も十分に世界で戦える得点は持っています。メダル争いこそ難しいかもしれませんが、飛込はひとつのミスで大きく順位が変動します。その中で、この3人は世界大会でも大きなミスをしない安定感のある選手たちです。ただ、反対に大成功という演技が少ないのが弱点。残りの期間でその弱点を克服し、演技の成功率とともに、完成度を上げていってもらいたいところです。