JOC OLYMPIAN 2021
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05を獲得したことで、今後は橋本選手にエースとしての期待が高まりそうですね。橋本 東京2020オリンピックは僕自身が輝くことができ、注目してもらえた大会になりました。オリンピックで自分の演技を出したいと考えた結果がたまたま良かったという面もありました。これから本当のエースとして戦うのであれば、大会前からエースらしさを見せつける強さを身につけていなくてはいけないと思います。ただ、それを意識し過ぎて抱え込んでしまい、自分らしい演技ができなくなってもいけません。エースに一番必要なのは雰囲気。真のエースは、体操の演技だけではなく、人との接し方や人間性も求められると思いますので、これからも一人の人間としてしっかり学んでいきたいと思います。体決勝という緊張するなかで自分のベストを出せたのがすごく良かったと思います。負けたことは本当に悔しいですが、オリンピックという舞台で最高の演技をしてみんなで喜ぶことができましたし、すごく大きな経験になったと思います。――体操のような採点競技の場合、相手の失敗演技を願ってしまう、といった側面もあると思いますが、そのような葛藤とはどう向き合っているのでしょうか。橋本 もし相手がうまくできたら負けるかもしれない、というのは、イコール自分の実力が足りないということですよね。「相手が失敗したから勝てた」とは言われたくないですし、相手の失敗で勝つよりも接戦を制して勝った方がうれしいです。だからこそ、僕は相手に失敗してほしいなどとは願っていないですし、誰もがベストを出してほしいというのが一番の願いですね。――全員がベストの演技をして、そのなかで自分が周りを上回って勝つ喜びがやはり大事ということですね。スポーツマンとしてオリンピズムを体現していて素晴らしいと思います。体操競技の場合は、オリンピックに限らず常に戦っている仲間が近い環境にいるからこそ、互いのリスペクトが大きいのかもしれませんね。橋本 団体で戦った4人の内3人は同じ順天堂大学を拠点としていて、普段から切磋琢磨してお互いを高め合っています。残りの一人である北園丈琉くんも、ジュニアの頃から何回も合宿を一緒に過ごしています。年齢的に敬語は使いますが(笑)、選手同士の親近感があり、誰もが意見を言いやすい関係のチームメートです。個としてはライバル同士ですが、最高にベストなチームだと思っています。体操を愛する仲間たち――競い合うライバルも自分を育ててくれる存在であり、体操を愛する仲間ということですね。橋本 そうですね。体操という一つの競技だけにとどまらず、全てのスポーツに共通するものがスポーツマンシップだと思います。コロナの影響で制限はありますが、拍手をしたり、人と人とが互いにたたえ合ったり、認め合ったりすることが大切だと思います。演技をしているだけで、言葉がなくても選手同士が通じ合い、距離が近くなるもの。スポーツは演技や競技が会話になるのだと感じます。――記者会見でも、ROC(ロシアオリンピック委員会)のニキータ・ナゴルニー選手が「彼の人格は素晴らしい」と橋本選手のことを褒めていましたね。橋本 僕自身も「ナゴルニー選手のおかげでここまでこられた」と本当は言いたかったんですよね。僕だったら少し躊躇してしまいそうですが、記者会見の場面で率先して自分の意見を言って良い方向へと空気を変えられるのは、一人の人間として本当にすごいと思いました。人間性を高めていく――相手との関係性だけでなく、自分のなかで負けそうになる気持ちを奮い立たせることもスポーツマンシップといえるでしょうし、橋本選手からは自分と向き合うストイックさを感じます。それはどのように身につけてきたのでしょうか。橋本 僕は末っ子で、兄が二人います。体操を始めて、兄という目標がいたからこそ上達できましたし、負けず嫌いに育ったのだと思います。結局のところ、勝負の世界は実力次第です。年の差も関係なく、自分の実力が足りないから負ける。ベストを出して、その上で勝つ。それが正真正銘のチャンピオンの姿だと思っています。――エースとして日本代表を長年けん引してきた内村航平選手は、橋本選手にとってもずっと背中を追いかけてきた存在だと思います。今大会、橋本選手が個人総合の金メダルInterview & Text/中村聡宏全文はこちら橋本 大輝(はしもと・だいき)2001年8月7日生まれ。千葉県出身。兄の影響を受け、6歳で体操を始める。18年全日本ジュニア選手権団体で優勝。19年世界選手権団体総合で銅メダルを獲得。21年全日本個人総合選手権では初優勝を果たす。同年、東京2020オリンピックでは個人総合、種目別鉄棒で金メダル、団体総合で銀メダルを獲得した。順天堂大学所属。Photo/REUTERS/AFLO

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