24今大会から新たに加わった競技、スポーツクライミングの特徴の一つが「オブザベーションタイム」と呼ばれる、選手同士による観察の時間である。ボルダリングとリードの2種目では、壁に設置された「ホールド」と呼ばれる石の配置を観察する時間が与えられる。出場選手は全員で双眼鏡を片手に隅々までホールドを確認していくのだが、驚くべきはライバル選手たちと相談しながら攻略手段を練ることだ。選手たちは順位を争うライバルでありながら、難しい壁に挑む「仲間」でもある。女子ボルダリング・リード・スピード複合で銀メダルを獲得した野中生萌選手と銅メダルの野口啓代選手が、金メダルを獲得したヤンヤ・ガルンブレト選手(スロべニア)とともに見せた表彰式での表情に、このスポーツの魅力が詰まっていた。柔道男子73kg級で連覇を果たした大野将平選手は、試合後深々と一礼をすると柔道の聖地・日本武道館の天井をしばらく見上げ、畳を下りた。2016年リオデジャネイロオリンピックの優勝時同様、ガッツポーズも笑顔もなかった。「苦しくてつらい日々を凝縮したような1日の戦いでした」と振り返った大野選手。そんな彼を、「今まで見てきたなかで最強の柔道家」と評するのは、今大会での勇退を表明した井上康生監督だった。大野選手は、「9年間、私の柔道人生は井上康生監督とともにありました。井上監督の体制でオリンピック2連覇を達成できたこと、戦えたことは幸せでした」と、師への感謝を口にした。陸上競技男子走高跳決勝、ムタズエサ・バルシム選手(カタール)とジャンマルコ・タンベリ選手(イタリア)は1度も試技を失敗することなく2m37cmを跳んで並んだ。続く2m39cmは二人とも3回の試技を失敗。勝負を決するジャンプオフに挑むかを審判員に尋ねられたバルシム選手は「友よ、歴史だ。オリンピックチャンピオンだ」とタンベリ選手に語りかけ、互いの金メダルを選択した。2012年ロンドンオリンピックは銅メダル、16年リオデジャネイロオリンピックは銀メダルだったバルシム選手。一方、リオデジャネイロオリンピックを足首のケガで欠場したタンベリ選手。互いに高め合ってきたライバルで親友同士の二人が、揃って悲願の金メダルを獲得した。陸上競技男子800m準決勝3組、アクシデントが起きたのは3コーナー手前のことだった。団子状態の選手たちがラストスパートに入ろうとしたところ、アイザイア・ジューイット選手(アメリカ)は自らの足がからまり転倒、その直後を走っていたニジェル・アモス選手(ボツワナ)も巻き込まれて転んでしまった。失意のまま座り込んでしまった二人だったが、片膝をついたままがっちりと手を握り合って立ち上がると、再びゴールを目指して並走し、ゴールを果たして抱擁した。同組で走った各国の代表たちもその様子を笑顔で出迎えた。「友よ、歴史だ」二人の金メダリストライバルは共闘する仲間笑顔なき金メダリストの感謝アクシデントから生まれた友情Episode 6Episode 7Episode 4Episode 5Photo/AFLO SPORTPhoto/AP/AFLOPhoto/AP/AFLOPhoto/AP/AFLOPhoto/AP/AFLOPhoto/REUTERS/AFLOPhoto/PHOTO KISHIMOTOPhoto/TOKYO-SPORTS/AFLO
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