OLYMPIAN2019
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30リートが直接自分の言葉で伝える機会は多くありませんし、オリンピックでメダルをとれずに競技人生を終え、競技から離れてしまう人は意外と多いと思います。頑張ってきたことを自分の言葉で表現することで、オリンピックに向けてやってきたことの価値を人生のプラスにしてほしいです。 これからの時代にロールモデルになるようなアスリートは、自分自身が知性を持って個性を発揮しながら競技力を向上させていくような選手だと思います。だからこそ、現役選手もオリンピックの価値を理解してほしい。競技で結果を出すことだけではなく、現役時代からいろいろな人と会って話し、それを長い人生に役立ててもらいたいですね。澤野 私が最初に出場したアテネオリンピックの時は、幼い頃からの夢だった舞台に出られて自分自身が感動していたのですが、ただ戦うことに一生懸命すぎたかもしれません。(「近代オリンピックの父」と呼ばれる)ピエール・ド・クーベルタンの話やオリンピックの歴史を学んだ今になってみると、近の違う国、違う競技の人たちが一堂に会してふれあえる素晴らしい場だと改めて感じています。伊藤 日本だけの価値観ではなく、海外の価値観の違いにふれあったことが財産だと感じています。オリンピックでメダルを逃し、更衣室で「日本チームに帰れない」と落ち込んでいた時、ライバルだったオーストラリア選手に「なんでオリンピックのファイナリストなのに悲しんでいるの? 私たちは4年間どんな思いで努力してきたの。私はオリンピアンとして自分に誇りを持っている」と言われて、努力をしてきたことに誇りを持つべきだと気づかされました。さまざまな仲間に出会い、新たな発見があったり、自分の考え方が新鮮な方向に向かったりしたことを思うと、オリンピックに出場して良かったと思います。澤野 オリンピックは、はじめはテレビで見てその盛り上がりに衝撃を受けました。さまざまな競技の選手がチームジャパンとしていろいろな国の選手たちと戦う。これは、世界最大のスポーツの祭典であるオリンピックだからこそ味わえる雰囲気だと思います。3回オリンピックに出て、今も現役として挑み続けられているのは、東京でオリンピックがあるからこそ。海外ではスリータイムスオリンピアン(3度オリンピックに出場したオリンピアン)と紹介されますが、オリンピアンは世界中の人たちから価値があると思われていることを実感しています。——JOMができることによって、オリンピックの本質的な魅力を伝える場が増えていきそうですね。澤野 スイスにあるオリンピックミュージアムを参考に、オリンピックの歴史、グッズ、トーチ、オリンピアンのストーリーなどを見られるように準備しています。最大の特徴は、オリンピアンが各自のストーリーとオリンピックの歴史をつなげながら直接話す案内役になるという部分。オリンピアンに聞いてみると、進んでやりたいという人が結構いらっしゃいますので、その思いを形にすることがわれわれの使命かなと思いますし、来場される皆さんがオリンピックについて考え直すいい機会になればうれしいです。小口 オリンピックミュージアムは、日本国内にも長野市と札幌市とすでに2つあって、JOMは3つ目になりますが、JOCのようにNOC(国内オリンピック委員会)が運営に関わるのは世界初の取り組み。世界的な最先端事例の一つにもなり得ると思っています。伊藤 競技の垣根を越えた横のつながりができて、みんなが集まり学べる場所にしたいですね。アス澤野 大地(さわの・だいち)1980年9月16日生まれ。大阪府出身。陸上競技・男子棒高跳の日本記録保持者(5m83)。2004年アテネオリンピック、08年北京オリンピックに出場、16年リオデジャネイロオリンピックでは7位入賞を果たす。現役選手として競技を続けながら、JOC アスリート委員会委員長を務める。富士通所属。

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