公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は10月2日、味の素ナショナルトレーニングセンターで、「第7回 アスナビ採用企業 情報交換会〜競泳編〜」を開催しました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動です。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに118社176名(2017年10月2日時点。来春採用内定選手含む)の採用が決まりました。
今回の情報交換会では、日本水泳連盟から3名、競泳選手を採用した企業から7社12名が参加し、それぞれ情報を交換、交流しました。
■競技団体から企業へ情報共有
はじめに主催者を代表して、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが登壇し、アスナビを通じたこの1年間の採用数が約50名にも上ることを報告。また、採用企業に対して実施したアンケートで、選手採用後の主な課題として「仕事の与え方が難しい」「社内の応援体制づくり」「アスリート社員と一般社員の接点が少ない」の3つが挙がったことを紹介。中村ディレクターは、競泳のトレーニング時間が長いこともあり、これらの課題への対応が難しい現状を踏まえて、「この機会を有効に使っていただき、今後さらにアスリートを有効活用するために(アイデアを)持ち帰っていただければと思います」と呼びかけました。
次に、日本水泳連盟の上野広治副会長が競技団体からの情報を共有しました。その中で、中村ディレクターの挙げた課題の1つである「仕事の与え方」を取り上げ、「人間力なくして競技力の向上なし」のスローガンを引用しながら、時間をやりくりして競技と仕事を両立させることが人間力向上、ひいては競技力向上につながると強調。そして、「本人たちのできる範囲内で、メール1つでも結構ですのでご協力いただき、人間力を上げていただければと思います。選手が練習しやすいようにとあまり仕事を与えないという企業もあるかと思いますが、時間をうまく使うという意味で、最低限のノルマを与えていただくことは本人にもプラスになると思います」と、参加企業に協力を求めました。
続けて、平井伯昌競泳委員長が国内外の大会スケジュールや日本代表の選考過程などを説明しました。また、自らが監督を務める大学では、大学を拠点とする社会人選手たちに対して後進の手本となるよう指導していることや、実際に彼らが学生選手のけん引役として活躍していることを紹介し、「出社して仕事をする以外の仕事を与えていただくことが、本人たちにも、ひいては所属クラブやチームのためになるのではと思います」と、アドバイスを送りました。
■採用企業の活用事例を紹介
次に行われたのは、採用企業によるアスリートの活用事例の紹介です。まず、全日本空輸株式会社の國分裕之取締役執行役員が登壇し、ANAグループ企業におけるアスナビ選手採用についてプレゼンテーションを行いました。ANAグループには現在、松原楓選手(全日本空輸株式会社)、押切雄大選手(ANAセールス株式会社)、渡邊一輝選手(全日空商事株式会社)、赤瀬紗也香選手(ANAエアポートサービス株式会社)の競泳選手4名を含めた13名の社員アスリートが在籍しています。國分氏はまず、彼らに関する社内プロモーションや一般社員による応援、グループ社員の家族との交流活動、アスリートがもたらす効果、現状の課題などを、スライドを用いて説明しました。そして、選手には20代は競技中心に、引退後は競技経験を強みにして社会人として活躍できるよう指導していると話し、「東京2020大会は通過点で、会社もアスリートに対してそれ以降に向けて色々な可能性を追求してほしいと伝えています。その後、どう競技や仕事と向かい合うか、各グループ会社にフォローしていただきながら、これからも支援していきたいと思っています」と今後への決意を述べました。
次に、郵船ロジスティクス株式会社人事部人事課の杉本昌幸課長が登壇し、同社に所属する平井彬嗣選手、小松巧選手の採用事例として、仕事内容や社内での選手の活用、社会貢献活動の様子などを報告しました。また、2人とも同期との絆が強く、同期社員による大会での応援が力になったこと、昨春の日本選手権の前には寄せ書きを集めたアルバムが贈られたエピソードなどを紹介しました。そして、「(2人には)将来は当社の総合職として頑張ってもらいたいと最初から言っています。挨拶や礼儀は私が見習わなければというほどできているのですが、仕事をどう教育させていくかは仕事の兼ね合いを考えながらなので、悩ましいところではあります。今日は他社様の体制なども教えていただければと思います」と、同社が抱える課題を挙げました。
■採用企業と競技団体で課題を話し合う
後半では、各企業担当者がアスリートを採用した背景、現在の勤務状況、課題などを報告し、競技団体と情報を交換しました。その中で、各社から共通の課題として挙がったのが、仕事の与え方や勤務回数といった、競技と仕事を両立させる方法に関すること。それに対して、上野副会長は「ケースバイケース」とした上で、採用前に提出されたエントリーシートの希望勤務日を元に、勤務形態を決めるようアドバイスを送りました。また、他の担当者からはコーチと相談して勤務日を決めているといった具体的な事例が共有されました。
最後に、上野副会長が「まずは同期の良い励みとなり、将来、水泳を離れた時にその同期と同じような状況でやっていけるかどうかだと思います」と考えを述べました。そして、3年後の東京2020大会までまだ時間的に余裕があるとして、参加企業に対して「まずは愛社精神を持たせるような教育で構わないと思います」と、長期的な視野での選手指導への協力を呼びかけ、情報交換会を締めくくりました。
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